妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「未知なる者再び… （壱）" 拉致 "」

どうしたのじゃ…？
この村の人々が誰もいない…

あれは一昨日…
拙者せっしゃが妖あやかしを退治に行く途中で寄りし時は
村内は質素ではあったが
懸命に生きる姿が微笑ましく
村の衆が皆すれ違うたびに挨拶あいさつをしてくれた

木陰こかげで一休みする拙者に
村の親切なお婆ばばどのが
茶と握り飯めしを馳走ちそうしてくれた

それが今では村中に人の気配が全くない…
これはいったい…

この時分は、どこの村でも
畑仕事や山での伐採ばっさいに精を出す姿が
あちこちで見られる筈はずじゃ
往路おうろで見かけた元気そうに泣く赤子や
走り回っていた子供の声すら
聞こえない…
しんと静まり返っておる

おかしいぞ…
人のいる気配が…無い

いや、待て…？
この気配は…？

古い切り株の残骸ざんがいに空あいた洞うろに
何やら動く気配がした…
拙者は『斬妖丸ざんようまる』を確かめたが
妖を感じ取った様子は無い…
拙者は『斬妖丸』の鯉口こいくちを切ったまま
洞のある古木の切り株に静かに近寄って行く

「うえっ、うえぇっ、ヒック…」

子供の泣き声か…？
木の洞に一人の男の子が蓆むしろを被かぶり
隠れて震えておった

木の洞から出した少年に聞いたところ
名は勝平かっぺい
年は７歳
拙者に握り飯と茶を振舞ってくれた婆どのの孫である
拙者は勝平に仔細しさいを問い質ただした

恐怖に怯おびえている事から
要領を得ない部分もあったが
勝平の話すには
昨日、村の裏山の頂いただきに
銀色に輝く物体が空から降って来たと云う
物凄い地響きと共に
山頂の樹をなぎ倒して
その銀色の物体は
地面に突き刺さっていたらしい

村長むらおさを始めとした大人の男達が
二十数人で山頂を調べに行ったと云う
女と子供達は村に残った

だが…
目の前の勝平と同世代の男の子二人が
大人達に内緒で獣道けものみちを登って
山頂まで行ったらしい

そこで勝平達が見た光景は
銀色の格好をした妖あやかしめいた者が
地面にめり込んだ銀色の物体に開いた穴へと
村の男達を中に追いやっている最中だったらしい
とても二十数人の男達が入れるとは思えない
大きさの銀色の物体に
次々に大人達は連れ込まれたそうだ

怖くなり村へ逃げ帰ろうとして
三人の少年の内の二人とはぐれて
勝平は一人で帰って来たらしい

少年達が隠れ場所にしている古木の洞うろに入って
勝平が蓆むしろを被かぶり一人震えていると
やがて大きな物音がすると共に
大人の女達の悲鳴や
赤子の泣き叫ぶ声が響き渡った…

勝平は恐ろしくて
古木の洞から出られなかったため
村人の中で唯ただ一人だけ残ったようだった

拙者は勝平を自分の家に戻し
絶対に戸を開けない様きつく言い含ふくめ
村を発たち山へと入った

『斬妖丸』よ…
以前に浜辺で出会いし
銀色をした卵型の物体の件に話が似ておらんか…
だが…あの時の奇妙な銀色の輩やからは
拙者を妖から救った事と言い
敵では無かった様だが
今回は村人達を拉致らちしおったのか…？

う～む…
不可思議な話じゃ…
だが、妖がらみであろうが無かろうが
村人達は何としても拙者達で救い出すぞ

必ずな！

※【（弐）に続く…】