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【本の紹介】内藤正典『教えて! タリバンのこと 世界の見かたが変わる緊急講座』(ミシマ社 )

□難度【★★☆☆☆】
おそらくはこの書を手にする多くの読者にとってなじみのあまりない内容について、懇切丁寧に、伝わる言葉でわかりやすく解説してくれる。中学生、高校生にも読める…というより、むしろ、中高生や大学生など、この社会や世界の将来を担う若い世代にこそ読んでほしい。一般向けに書かれた本であり、読むのに専門的な知識はいらない。たくさんの読者に開かれた一冊。

□内容、感想など
どれだけ批判されようが、自民族中心主義(エスノセントリズム)を否定し、他者との共存を模索した文化相対主義は、現代思想の一つの成果だと思う。

文化間に存在するのは差異であり、優劣ではない。したがって、自文化の論理で他文化を蹂躙してはいけない。違いを尊重することこそが、これからの人類の倫理である。

こうした文化相対主義の理念は、グローバル化が進めば進むほどに、人類にとって、さらに重要なものとなってゆくだろう。
けれども多くの論者が指摘するように、そこにはジレンマがある。
自他の違いを認識し、他者の他者性を尊重すること。それは同時に、"口出しをしない"という倫理を相互に前提とすることを意味する。となれば、必然的に、以下のように葛藤するケースも出てくるはずなのだ。

自文化の論理に照らして"非人道的"としか言いようのない行為を他文化に見出したとき、我々は、どうふるまえばよいのか。「それはよくない」と伝えることは、すなわち、"自文化の論理による他者の蹂躙"に等しい。だからといって、その"非人道的"な行為について、見て見ぬふりをしていてよいものなのか。

こうしたジレンマは、自己から他者へのまなざしにも内包されうるし、当然、他者から自己へのまなざしにも内容されうるものだろう。
文化相対主義の葛藤をいかに克服してゆくのか。
それは、20世紀の後半から受け継いだ、現代思想の重要な課題である。
そして僕は本書、内藤正典『教えて! タリバンのこと 世界の見かたが変わる緊急講座』(ミシマ社 )を、まさに、そのジレンマに挑んだ一冊であると読んだのだ。
それはとりわけ、2012年、京都の同志社大学で、タリバンと当時のアフガニスタン政権の代表とが対話のテーブルに同席した際の叙述に、印象的に語られている(p56~65)。両者は、殺し、殺される同士であり、決して、"席を同じくする"関係などではなかったのである。
対話という言葉を、抽象的な空論ではなく、具体的な実践、そしてリアルな可能性として受け取ることのできるシーンである。
本書を通読する時間や体力のない人は、まずはこの10ページだけでも読んでみてほしい。
この段を読み終えたあと、僕は思わず目頭が熱くなった。

□こんな人にオススメ
・中学生、高校生。学級文庫にぜひ。可能なら、本書を読んでからディスカッションや意見交換などを試みてほしい。
・イスラームやタリバンについて、メディアの一方的な表象を信じ込んでしまっているすべての人々。
・文化相対主義のジレンマをどう乗り越えるか、そのことについて思索するすべての人々。
・他者との共生について考え、その実現を模索するすべての人々。


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