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ざっくり語彙 ~スキマ5分の「スマホでボキャビル!」~ 019

【言説】
この語の最も単純な意味としては、「何かしらの考えや主張を述べる言葉」といった程度の理解でかまいません。例えば「川にゴミを捨てるな!」「森林の伐採、ダメ!」「プラスチック製品の使用をやめよう!」などのスローガンは、皆、〈自然を大切にしよう〉という「考えや主張」を述べる「言葉」、すなわち、〈自然保護を主張する【言説】〉ということになります。ここまでは、さほど理解に苦しむ内容ではありませんね。
が、……そうですね……例えば電車に貼ってある広告に、ムキムキの男性の腹部の写真とともに「3か月でこの6パック!」という言葉が添えられていたとしましょう。その際、この、「3か月でこの6パック!」という言葉それ自体は、少なくとも表面上は、何かしらの「考えや主張」を述べるものではありません。 
でも、ここに一人のお腹ブヨブヨの中年男性(僕とは言ってません、僕とは…)がいたとしましょう。そしてその男性が、この広告を見たとき「…そうか…このままのお腹じゃダメなのか…なんとか、なんとかせねば…!」と思ってしまったなら、「3か月でこの6パック!」という言葉は、少なくとも僕…じゃなくてその中年男性には、〈男子たる者、筋肉ムキムキであるべき!〉という「考えや主張」を述べるもの――つまりは【言説】として解釈されたことになる。このように、その言葉の話者や書き手が取り立てて何かの「考えや主張」を込めたつもりはなくとも、そこに発された言葉は、図らずも何かしらの「考えや主張」を帯びてしまうことがあるわけです。つまりは【言説】となってしまう、ということですね。
さらに、です。
この「3か月でこの6パック!」という言葉が〈男子たる者、筋肉ムキムキであるべき!〉という「考えや主張」を述べる【言説】として機能するとき、それは〈男性=マッチョ/女性=か弱い〉という"性差イメージ"を強化する装置にもなり得る。そしてこうした観念は言うまでもなく〈男性中心主義〉へと繋がっていくものでもあるわけですから、下手したら「3か月でこの6パック!」という言葉が、〈男性=支配者/女性=被支配者〉という権力構造を生み出したり強化したりする暴力装置にすらなってしまうわけです。
このように、発話者が意図していようが意図していまいが、発された一連の言葉が何かしらの「考えや主張」を持ち、そしてそれが〈支配/被支配〉などの権力構造を生産・強化する装置となるとき、それら一連の言葉は、まさに【言説】と呼ばれるものになっているわけですね。

~例文~

何気ない言葉づかいの深層に潜む権力構造を暴く営みが、言説分析の目的である。

~関連知識~
上で解説した【言説】は、カタカナ語の「ディスクール」を翻訳した概念です。そして、ここで重要になるのが、ミシェル・フーコーという思想家。かなり難解な書き方をする人なのですが、これからの社会や世界を考えていくうえでとても大切な考え方を示してくれる偉大な思想家なので、大学に入っていろいろと勉強してから、ぜひ、トライしてください。入門書としては、桜井哲夫『知の教科書 フーコー』(講談社選書メチエ)をオススメします(o^―^o)ニコ

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