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『いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう』の思い出

本にまつわる、原体験とも言える思い出は多々ある(原体験なのに"多々"というのはおかしいかもしれないが……)。

なかでも、『いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう』──寝る前に母に読み聞かせてもらった、この、絵本にしては長い、壮大なストーリーが展開される物語の、とあるページには、なんというか、存在の根源に関わるような、恐れにも似た思いを抱いたものだ。

そのページとは、いたずらで悪ガキな蒸気機関車「ちゅうちゅう」が、暴走に暴走を重ね、気づけば廃線に迷い込み、そして、ひとりぼっちの迷子になってしまう……そんなシーンだ。

人の誰しもが…おそらく、生まれたばかりの子ですら、自己の根っこのところに抱える、孤独という不安。その、見事な表象であったと思う。

いまでもあのページを思い起こすだけで、心がざわつく。そしてこのざわめきは、きっと──なぜそう思えるのかはわからないが──私が私として生きていくうえで、かけがけのない、大切なものなのだ。


バージニア・リー・バートン文・絵 / むらおかはなこ訳『いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう』(福音館書店)


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