タイムリープものに出てくる蝶々って

映画のレビューです。

映画『トランスポート』

★★★★★


「トランスポーター」ではないです!

原題は『Fetching Cody』(魅力的なコーディ)というカナダの映画のようですが、

日本の配給会社が全く別の邦題をつけたよくあるパターンです。


アマゾンプライムで見かけたのですが、パッケージの画像もなかなかで、

「時・空・飛・行」と書かれたバックに摩天楼やピラミッドのような

四つの世界となんか時間を表す数字が無数に描かれていて、

あらすじには「タイムマシンに乗って四次元世界へ!」的な文言が。

完全にハードなSF作品だと思ったのですが、全然そんなことはありませんでした。

B級映画や有名でない映画にはありがちな、配給会社によるパッケージ詐欺ですね。

実際本編にタイムマシンは出てくるのでまだ可愛い方かもしれません。


本編では四次元世界へはいかず、「タイムマシンで過去にさかのぼり

主人公の彼女であるコーディを昏睡から救おうとする」お話。

ちょっと映画「バタフライ・エフェクト」に似たお話ですね。

ただこちらはあくまで低予算のB級映画なので、

あれほどのクオリティは当然ありません。

でも、個人的にはすごくよかった。かなり好きな作品です。


なお、アマゾンのレビューでは現在星3で、

内訳は結構評価する人とそうでない人が分かれている模様で、

これもまた面白いので後述します。


本作はタイムマシンで過去に遡るものの、

伏線回収とか、タイムパラドクスとか、

そういったSF考証にはあまり力を入れておりません。

まず本作でタイムマシンと呼ばれるものは、

ボロいカウチにクリスマスの電飾を巻きつけただけの代物なのです。

よって実際「バタフライ・エフェクト」とはそもそも

ジャンルが違う作品であると言えると思います。


ではどこが見所かというと、

個人的には主人公のキャラクターとそれが象徴する街かと思います。

作中ではちょっとおバカで、でも一途な主人公が

彼女を救うため奮闘する姿が割とコメディタッチに描かれるのですが、

本作の舞台となる街はスラム街で、主人公はそこに住むジャンキーの青年なのです。

彼女のコーディは売春で生活しているようです。

二人はそんな暮らしをしていても、二人でいるときにはすごく楽しそうにしています。

というか、周りの迷惑を気にしないバカップルなのです。

ヤクやってるせいかもしれません。

そんなある日、彼女がスラムの生活に耐えかね昏睡状態となってしまい、

主人公は知り合いのホームレスからもらったボロいソファ(タイムマシン)で

彼女の過去に飛び、

彼女が道を踏み外すきっかけとなった出来事を探り

そこから彼女を救うおうとします。

その中で我々は彼女の人生を見ていくことになるわけです。

ジャンルとしてはラブコメとか、青春ものと言ってもいいのではと思います。


レビューをみると、この冒頭の設定だけで

結構な人が嫌悪感を抱いていることが伺えます。

主人公がおバカなジャンキーで感情移入できない、

はた迷惑なバカップルには感情移入できない、ということです。

私はむしろ心惹かれたのですが、こういう感想の方の気持ちも理解できます。


これは私の解釈ですが、本作の主人公たちに感情移入できない原因は

ジャンキーや売春、バカップル、ひいてはスラムの存在が

好ましくないものだと感じる、ということではないかと考えます。


当たり前のことを言っているように感じますが、

注意したいのはスラムでの生活の経験がない、とか、

ドラッグをキメた経験がない、とか、

類似の経験や似通った人間性がないということが感情移入を阻害するのではなく、

感情移入するにはその対象に、自分を重ね合わせたいという気持ちが必要で、

好ましくないもの、強く言えば悪い、嫌いなものには自分を重ね合わせたくない、と感じるのではということです。


私は作品で幸せバカップルを見るのが好きなようで、(現実ではわかりませんが)

本作の導入はすごく好きなのですが、

これが仮に主人公が強姦魔だったり、嗜虐的なサディストだったり、

イケイケキラキラな女子高生だったりすると

個人的には感情移入しにくいと思いますので、

感情移入できないよ!という方の気持ちも今はわかります。


こういったものはおそらく界隈で「地雷」と呼ばれるものかもしれません。

これは人によってよりけり、ですので、

「なんでこれが低評価なんだ?!」とか、

「なんでこれが高評価なの?!」とかいうことが起こる原因の一つなのですね。

そして多くの人に評価されたければ、多くの人が良しとする材料(属性や見た目、性格や能力など)で作品を構成したほうが良いということですね。

すごく当たり前のことを言ってるかもしれませんが。


そこで一つ…全く本作と関係ない、今突然思った疑問なのですが、

なぜ「殺し屋」はよく主人公の属性として使われるのでしょうか?

依頼次第、金次第で人を殺す人間なんて

人道に悖る実際相当なクソ野郎でして、

本来それだけで嫌われてもおかしくなさそうですが…。

視聴者は殺す相手は全て悪人と信じているからでしょうか?

それとも人の優位に立つ武力を持っていることに憧れを感じるからでしょうか。

「俺は悪人しか殺さない」とか、わかりやすくケアしてある作品なら分かるのですが、

そうでなくとも殺し屋という属性自体に私はそんなに嫌悪感を持っていません…。

「クリーナー」は「クール」です。なぜでしょうか。


話を戻しますと、本作でわざわざ評価が分かれる主人公を描いたのは

おそらく本作ではそういった問題、世界を描きたかったからだと思います。

舞台となる街は汚い部分が多く映され、主人公の友達もホームレスや売春婦や売人です。

公開は2005年ですが、その時代としても明らかに画質も悪いです

レビューでも画質が悪いと言われていましたが、これは意図的なものだと私は思います。

そしてこれはもしかしたら少しネタバレになりますが、

ストーリーのラストの切ない決断も、こうした街とそこに住む人の悲哀といいますか、

なんというか、そういうものを象徴しているのかもしれません。

はっきりとは言葉にできませんが、なにか感じるところはあります。


そんななかでも、

「初めは感情移入できなかったが、見ていくうちに主人公の一途に頑張る姿をみて気持ちが変わった」というレビューも見られたことは素晴らしいと思います。

先入観を覆すだけの力が、この作品、この主人公にはあったということです。

私は初めからのめり込んだのでアレですが、

過酷な環境にあっても懸命な主人公の姿には心を打たれます。

「主人公が馬鹿でみていてヤキモキした」という意見もあり、

確かにパッケージのSFテイストや「バタフライ・エフェクト」のようなあらすじから

期待してみるとそう感じるのも無理はないと思いますが、

個人的には愚かさゆえに一途さが際立つと思いましたし、

主演のジェイ・バルチェルさんはスタンダップコメディアンもやられているとのことですので、右往左往はコメディとして楽しんで観ると良いかと思います。

私は楽しめました。



あとこれは私がタイムリープもの、時間遡行作品を見るときに気にしていることなのですが、

先述の映画「バタフライ・エフェクト」の影響か、

後のタイムリープ、時間遡行ものには青い蝶が唐突に描かれることが多い気がします。

この蝶を私は個人的に

バタフライ・エフェクト・バタフライ(B.E.B)」と呼んでいるのですが、

作品によってこのB.E.Bの扱いがいろいろなので、どういうふうに扱われるのかが私の楽しみの一つなのです。

しかし!本作「トランスポート」もとい「Fetching Cody」では

B.E.Bは出てきません。

これではっきりしたのですが、

実写映画にはB.E.Bが出現する確率は高くないのかもしれません。

「All you need is kill」でも

「ハッピーデスデイ」でも多分出てなかった。

「ザ・ドア 交差する世界」という映画には結構いい扱いで出ていた記憶。

アニメ「ひぐらしのなく頃に」(OP)

アニメ「シュタインズ・ゲート」(OP)

アニメ「僕だけがいない街」

ゲーム「ライフイズストレンジ」など

アニメ、ゲームでは結構目にすると思うのですが。

もしかしたらもう陳腐な表現として消えつつあるのかもしれない。

まあそのために作品を積極的に探して見ているわけではないので、

まだ見ぬB.E.Bがいるとわたしは信じています。

どこかでB.E.Bを見かけたらぜひご一報ください。


ではまた。













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