「租税教育教材・アニメ」の魅力


今日はYouTubeで私のお気に入りの、「国税庁動画チャンネル」で配信されている
「租税教育教材・アニメ」の魅力について語りたいと思います。

この「税金アニメ」たちは基本的には子供向けに税の基本理念や実際の使われ方などをわかりやすく伝えるための物のようで、
それぞれ工夫や見どころがあって面白いですので、いくつか個別に感想を語っていきたいと思います!
なお、ネタバレを含みますので、ネタバレなしで観たい方は先に本編を視聴することをおすすめいたします。

『マリンとヤマト 不思議な日曜日』

まずお勧めしたいのはこちら。
平成12年制作ということで、今となっては多少年代を感じる方かもしれませんが、かわいい絵柄で見やすい一作。

主人公となる姉の「マリン」と弟の「ヤマト」の二人のお父さんは消防士で、火事現場から赤ちゃんを救い出すシーンから始まります。
助け出された赤ちゃんを受け取るお母さんの胸が不必要に強調されて描かれているのがちょっと笑ってしまいますが…
主人公の二人がかっこいいお父さんのニュースを見た後、振り返ると非番なのか呆けた寝起きのお父さん。ギャップですね。
こういうコメディシーンが全体的に多く、作品を楽しく見やすくしてくれています。
主人公二人はおもちゃ屋さんへ買い物に行きますが、帰り道にマリンがおつりを側溝に落としてしまいます。
公園のベンチに座り、「消費税があるから端数が出て、おつりの小銭が発生し、結果落とすことにつながったのだ」という若干飛躍を感じる論理から、税の存在を憎むマリン。
そこへ鳥の姿をした妖精が現れます。公園の名前が「笛有公園(ふえありこうえん)」ですからね。妖精(フェアリー)の一匹や二匹出現することもあるでしょう。
そしてこの二匹の妖精「クッピ」と「コッピ」はめっちゃ強い力を持ってまして、何でも願いを3つかなえてくれるそうです。
ちなみにクッピの声は野沢雅子さんです。
そこでマリンは先ほどの一件で恨みを募らせていたため、「税金をなくす」ことを願います。なかなかアナーキーな小学生です。

二匹の妖精はその願いを叶えると、時間が朝まで逆戻り。
また同じように火事のニュースを見ている二人。
同じように赤ちゃんは助かりますが、消防代は自腹になるとの事。
さらに二人の学費なども自腹になり、消防署も民営化したものの赤字になり父は減給。
おばあちゃんが働きに出て、家も安い所に引っ越すそうです。
地味に朝ごはんも煮物?やハムエッグからシリアルにグレードダウンしていて芸が細かいですね。
どうやら税金がなくなったのは良くないことのようだとなった二人は、
公園に戻って妖精に税金の復活を要請しに行きます。
その中で二人は、道路が整備されず穴が空いていたり、町にゴミがあふれていたり、歩行者から通行料をとっているおじさんが出てきたりと、
税金無き世の中の惨状を目の当たりにするというわけです。
最終的には妖精に再び会って、税金の復活をお願いし、ハッピーエンドとなります。

この「安易に税金のない世を願って、実際その世界を見せつけられる」という構図はやはりわかりやすいので、次にご紹介する作品でも使われているフォーマットなのですが、
主人公が子供ということもあって「税金がなくなればいい」という願望を持たせにくかったのか、「消費税がなければ小銭を落とさずに済んだ」という婉曲な動機付けなのがちょっと面白いですね。普通に消費税分足りなくて買えなかったとかではだめだったのでしょうか?
もしかするとそれだとちょっと主人公が落ち込んじゃって楽しくない雰囲気になっちゃうかもしれないので、そういう危惧があったのかもしれないですね。

『ご案内します アナザーワールドへ』


次にご紹介するこちらは概要欄によると「中学生向け」で、ちょっとダークめなテイストの作品になっております。先ほどの「マリンとヤマト」は「小学生向け」とのこと。

主人公はサラリーマンの男。電車内で新聞を見て、メジャーリーガーの年俸に驚いているシーンから始まります。
年俸400万ドルと書いてあり、制作された2012年の相場は適当に見て1$80円くらいだったようなので、大体3億2000万位でしょうか。
「俺の給料なんて、一生働いてもこれ以下なのにな~」(CV.井上和彦)と主人公
私も最近大谷翔平選手の契約金を聞いて同じこと思いました。
そして主人公の持つ新聞の裏面を見て、「財政赤字、深刻か…」と音読してしまうおじさんが登場。実際にやられたら結構リアクションに困りますね
さらにそのおじさんに「公債が増えるってことですか?」と質問するネキも登場。
結構誰とでも会話始めるアットホームな車内だな。電車だけに
まあふつうに考えたらこの二人は知り合いなんでしょうね。
最終的に「だから問題なんだよ、この『税収』が!」と新聞に指までさしてしまったので、
主人公と目が合い、互いに気まずく微笑みをかわす主人公とおじさん。
ここの笑顔が何とも言えない…苦虫をかみつぶしたような…味のある表情で、作画スタッフのこだわりを感じます。

その後屋台のおでん屋で一杯ひっかける主人公。
おでんやのおじさんの声はクレジット無いですが緒方賢一さんでしょうか?
国税庁のアニメはやけに声優が豪華ですね…
そこで給与明細を見ながら引かれる税金について愚痴る主人公。
いつの間にかビール瓶が四本も空いています。飲みすぎだろ。
「税金なんか、なくなっちまえばいいんだ!」と叫ぶと、隣に座っていた「黒ずくめの男」が意味深に映ります。

もしかしてですが、ビール4本も飲んで泥酔しているというのはこの「税金不要論」を主人公に口走らせるために必要な描写だったのかもしれません。
さっきの「マリンとヤマト」でも、婉曲な動機付けをしていたのは
直接的に税金によって困る描写を入れたくなかったからで、
今回も、あくまで泥酔状況下においての発言であり、間違っても分別のある大人の、賛同すべき意見ではないよ、というメッセージなのかも…

まあそれはいいとして、おでん屋からの帰り道、主人公は道路に空いた大きなへこみに転びます。
「マリンとヤマト」を履修した人ならすぐ気づきますね。
道路に大穴、これは「税金のなくなった世界を表すアイコン」です。
なんと主人公は先ほどのおでん屋での発言を言質に、何の前触れや演出もなく「税金のない世界」に迷いこんでいたのです。

穴に落ちた主人公に、先ほどの黒づくめの男が手を差し伸べます。
「これじゃ危なくて通れないじゃいか」という主人公に、
「何をおっしゃる、貴方が望んだことじゃないですか」(CV.江守徹)と
鬼の首をとったように言う黒づくめの男。
ええ…おでん屋で愚痴っていただけで…。
この圧倒的問答無用感がこの作品の醍醐味であり恐ろしい所です。
その後も泥棒に全財産を盗まれるも警察に払う金がないので泣き寝入りする人や、
学校に行けなくなった子供たち、年金がなく老いてなお働かなければならない人などが現れ、税金無き世界の問題を提示します。

主人公はレジ打ちする子供や、コンビニ前でたむろする子供に、「君たち学校は?」と話しかけており、意外としっかりした大人的一面を見せてくれ、好感度が上がります。
そして一々主人公の前にサブリミナル的に現れ「これが貴方の望んだ世界…フフフ…」嫌がらせのように言ってくる黒ずくめの男。
家で見るテレビでは、クイズ番組で「かつて存在した」税金という制度について取り上げており、税金の種類などを説明してくれます。中学生向けだけあって、「マリン&ヤマト」より情報量が多いですね。
また北欧での高税負担、高福祉の生活も解説されており、「税金のない世界」といえどほかの国では税金はなくなっていないようです。

しかし「マリヤマ」でもそうだったんですが、「税金の無い世界」でも、かつては税金があったという設定になっているんですよね。
そして「税金があったころは良かった…」というふうに語られるのですが、
その世界ではどういういきさつで税金が廃止になったのでしょうね。
富裕層が政治を牛耳って廃止にしたのでしょうか。

最終的に主人公はたばこの不始末でアパートを全焼させてしまい、消火費用を借金として背負いこむことになり、そのままバッドエンドとなります。

え、バッドエンド?!
元の世界に帰れないんかい!
これが本作の真骨頂、なんとちょっと愚痴っただけで税のない世界に飛ばされ、二度と戻ってこれなくなっちまうのです。
おそろしすぎんだろ!
これが国税庁のやり方、ってこと…?
こうなったらもう彼が選挙に出て政治家になり、税金制度を一から作るしかないですね。
その政治活動のなかで、この世界の日本で税金が廃止された真の理由、改変された歴史、黒ずくめの男の真の目的が明らかになっていき、このいびつな国に巣くう利権や派閥といった巨悪との闘いに身を投じていくとこになるのだった…
そんな第2部の発表お待ちしております国税庁さん。出たら円盤買います。

『ちぇいとうんこちゃん』


上記2作はアニメーション作品でしたが、ほかに税についての「デジタル紙芝居」なるものもいくつかアップされており、本作はその一つ。
アニメは国税局制作ですが、紙芝居のほうは各自治体やローカルの国税局が別個に制作したもののようです。
本作は「関東甲信越国税局」制作。

主人公は「うんこちゃん」うんこです。まきぐそ。
紙芝居シリーズはどれも動物がキャラクターになっており、本作もほかのキャラは動物なのですが、主人公はなぜか便。
関東甲信越国税局攻めすぎだろ!
「うんこ漢字ドリル」とかのブームに乗ろうとしたのか…あるいは単に「子供向けなら…主人公はうんこだな」というエンタメを理解してる人がいたのか。

動画としてのクオリティはあまり高いとは言えず、ほかの紙芝居はかわいい絵柄だったりしっかり作っている印象なのですが、本作だけはパワポで作ったような絵柄で草です。
音声も録音環境が良くないのか、語りの声がたまに離れていったりしますし、キャストが足りないのかうんこちゃんの声は裏声で演じられています。

さておきお話は森にすむ熊、キツネ、ウサギ、うんこが、それぞれ野菜などを作って生活していました。
うんこは野菜ではなく、それを育てる「魔法の土」を生産できるようです。
ちゃんとうんこを出オチとして使うだけでなく、その特性を生かした話づくりをしていて好印象ですね。
あるとき日照りが続き、作物が枯れてしまうので、近くに住む河童に頼んで雨を降らせてもらおうと。そのためにそれぞれの収穫物を平等に出し合って河童に献上しようと、そういう話になります。これをこの作品内ではなぜか「ちぇい」と呼びますが、税の誕生ですね。
この「ちぇい」の取り決めを書面にした際に、みんなそれぞれ手形を押しているのですが、
動物はそれぞれ手の形なのに対し
うんこちゃんの手形は不定形のべちょっとした形で、
これは手形というか、ただうんこがついて紙が汚れただけではないのかとか思ってしまいます。

面白いのは、上記2作のアニメでは「税金がなくなるとこんな世界になっちゃうよ」という話作りなのに対して、
紙芝居作品群はこのように税をその成り立ちから説明していることですね。
紙芝居のほうが低年齢向けだと思うので、基本理念から説明したほうがよいということでしょう。
しかし実際のところ、幼稚園くらいの子供が税について教育されて、それをどの程度理解し、どのくらい記憶しておけるのか、
彼らが納税する年齢になるころに及ばされる効果や意義には若干疑問もありますね…。

お話はここでは終わりません、みんなで平等に払おうと決めたちぇいですが、なんとキツネの野郎が、作物が全然取れずちぇいを払えないと言い出すのです。
仕方がないのでキツネの分はうんこちゃんが多く魔法の土を出す、という男気を見せ、
「ドゥシュウウウゥゥゥッ!!!」というでかめのSEとともに魔法の土をひりだすうんこちゃん。
これで河童は雨を降らせてくれることになったのですが、
なんと実はキツネは噓をついており、本当は作物を隠し持っていたのです。脱ちぇいです。
他の紙芝居群では税の成り立ちを追って、これで暮らしが豊かになるね、ってな所で落ちてるんですが、本作だけ果敢にも「脱税」にまで切り込んでいます。すげえ。

そしてうんこなのに皮肉にもキツネの尻ぬぐいをすることになったせいで、
無理をして魔法の土をひりだしたうんこちゃんは衰弱してしまい、縮んでしまいます。
今にも消えてしまいそうなうんこちゃんをみて、キツネは良心の呵責に耐え兼ねて涙ながらに脱ちぇいを白状します。
そんなきつねに、「正直に言ってくれてありがとう。でもこれは皆のことだ。ちぇいはみんなが正直にならなければできないことなんだ」(裏声)という言葉を残し、うんこちゃんは消えてしまうのでした。泣ける。
これではっきりしたのですが、これは安易にうんこ漢字ドリルとかあるしブームに便乗しようとかいう作品ではなく、作家性のある人物の仕事ですね。
そして冬が終わり、春が来て、「うほほーい」(裏声)という必要ない声とともに、なんとみんなの体からまた新しいうんこちゃんが生まれました。こうしてまた森ではちぇいの仕組みのもとに平和な生活が営まれたのでした。ちゃんちゃん、的な。

このチャンネルはコメントオフになっているので、コメントで盛り上がることもできないのですが、特にこのうんこちゃんはもっと話題になってもいいんじゃないかと思います。
制作がいつかはわかりませんが、紙芝居作品群の投稿は2022年なので、この作品を作った方はまだ関東甲信越税務署にいらっしゃるんじゃないでしょうか。なんか個人で作品発表とかしてないんですかね。

というわけで以上3作品紹介レビューさせていただきました。
他にも作品はアップされているので、興味のある方はぜひ見てみてくださいね。
それでは。

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