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幸福度の高い都市について考える(デンマークの”人間中心”のまちづくり)

(中々文章がまとまらず更新が滞っておりました・・・)
最近「スーパーシティ法」関連のニュースが取り上げられていたせいか、「スマートシティ」という言葉をよく耳にしました。スマートシティ自体は10年位前から存在する概念なんですが、IoTやAIの発達によりSociety5.0のフェーズに入った今、世界各地でスマートシティの整備の動きが活発になっています。

スマートシティの先進例として注目されているのがコペンハーゲンをはじめとしたのデンマークの都市です。人口580万人の北欧の小国ですが、2020年度版世界幸福度ランキングではフィンランドに次いで2位に位置しており、”人間中心”の社会を構築すべく、先端技術を駆使した様々な取り組みが行われています。(ちなみに日本は62位)
今回は、個人的にも一番行ってみたい国であるデンマークのまちづくりの特徴や魅力から、日本でのスマートシティの展開の可能性について考えたいと思います。

なお、今回は以下の書籍等を参考としています。

スマートシティとは?

まず「スマートシティ」とは何か。
実は具体的な定義があるわけではありませんが、現在世界各地で進められているプロジェクトにおいては、「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)等の先端技術を用いて、基礎インフラと生活インフラ・サービスを効率的に管理・運営し、環境に配慮しながら、人々の生活の質を高め、継続的な経済発展を目的とした新しい都市」を目指すことが共通の認識かと思います。
国土交通省ではスマートシティを「都市が抱える諸問題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義し、分野横断的なデータ連携により社会の課題解決や地域経済の向上を図ることとしています。(下図)

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デンマークのスマートシティの考え方/代表都市

これまで日本で議論されてきたスマートシティでは、スマートグリッドやBEMS(ビルエネルギーシステム)などのエネルギー関連のインフラ整備を中心に都市開発を行うことで産業の活性化を図ることが主軸となっており、どちらかというと機能更新・新規導入そのものが目的化されているようにも思われます。そのため、現在進行中のプロジェクトにおいては利害関係者(自治体、建設事業者、開発事業者、エネルギー関連業者等)が都市づくりの検討主体となっているケースがよく見られます。
一方、デンマークにおけるスマートシティの定義はより広義で、エネルギー改革や環境負荷低減に関する目標ももちろんありますが、導入される機能や取り組みはあくまで、社会の課題解決や市民の生活水準向上のための「ソリューション」として捉えられており、日本よりも都市整備の目的が明確であるとともにより「人間中心のまちづくり」に重きを置いているといえます。議論の参加者にも事業者や専門家だけでなく、一般市民やデザイナー、文化人も含まれており、より幅広い分野からの合意形成を重視しています。

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(デンマークと日本のスマートシティの考え方(参考図書より))

デンマークのスマートシティの例

デンマークのスマートシティの代表格コペンハーゲンで、エネルギー関連の基本計画である「コペンハーゲン気候プラン2025(CHP2025)」の達成に向けた様々な都市整備が進められています。
CHP2025ではグリーンエネルギー(太陽光、地熱等)の積極的な活用し2050年までに100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とし、2025年にカーボンニュートラルな都市を目指すための具体的な計画目標が定められています。コペンハーゲンの強みは、この目標が単なる行政の理想で終わらず、目標達成に向けて、民間事業者が主体となってサーキュラーエコノミー(循環型社会)を推進していることや、サスティナブルなまちづくりに対する意識を、国民一人一人のレベルまで浸透させる行政の努力があるということです。
その最たる政策が、自転車を活用したまちづくりです。
近年は環境配慮型の移動手段として自転車が再評価されていますが、コペンハーゲンでは自転車を、多面的な「幸福度」を高めるためのツールとしてとらえており、自転車移動によって環境負荷低減→利用者の健康増進→社会保障支出の軽減→他の予算への充当(教育費、スマートシティ化への投資等)という好循環を生み出しています。また、自転車ハイウェイの整備やグリーンウェーブの推進により、スマートシティ先進例として海外からの投資チャンスを生むことで、地域経済の活性化も図ることができています。

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都市化の進行に伴い人口が増加傾向にあるため、一都市への一極集中を抑制できるよう近年では他の都市でも開発が進められています。
以下に主な都市の特徴を簡単に記載します。
・ノーハウンのウォーターフロント開発:再生エネルギーを積極的に活用するグリーンエコノミーや、「5分間都市」と呼ばれる徒歩圏に重きを置いたウォーカブルなまつづくりを推進
・オーフスの開発:2017年に欧州文化都市に選定され、伝統と文化も尊重し、持続可能なソリューション・イノベーションの創造を図っている。その複合的な拠点として「DOKK1(複合図書館)」が整備。農業のIT連携にも積極的。

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・オーデンセ・ロボティクス:
社会福祉ロボ技術の実証実験を積極的に行い社会の課題解決に取り組む。日本企業も多数参加。

今後も他の都市での開発は進むでしょうし、他国でもデンマーク型のスマートシティの整備が増えるかもしれません。

成功の秘訣:積極的な市民参加 等

では、人口580万人の小国で、国際競争力も決して高くないデンマークでなぜこれほどスマートシティ化が活発に進んでいるのか?
それは、もともと社会福祉制度が充実していることや、分野横断型の連携を図るための努力がなされていること、デジタル化が積極的に推進されていることも理由の一つですが、根底として、デンマーク人の国民性が大きな影響を与えていると考えられます。
デンマーク人は「ヤンテの掟」の考え方に大きな影響を受けています。この「ヤンテの掟」は作家のアクセル・サンデムーセが1933年に書いた小説「A Fugitive Crosses His Tracks」の中に出てくる架空の村の十戒で、日本でいうところの「大和魂」のような位置づけに当たります。

<ヤンテの掟>
1:あなたが特別な存在だと思ってはならない
2:あなたが人と同様に有能だと思ってはならない
3:あなたが人より賢いと思ってはならない
4:あなたが人より優れているとうぬぼれてはならない
5:あなたが人より物知りだと思ってはならない
6:あなたが人より重要だと思ってはならない
7:あなたが人より何かに秀でていると思ってはならない
8:あなたは人を笑ってはならない
9:あなたが誰かに助けてもらえると思ってはならない
10:あなたが人に何かを教えられると思ってはならない

デンマークではこの思想が強く根付いており、「誰も特別視せず、優劣をつけない、社会的地位や年齢、性別で格差を設けないフラットな社会」が構築されており、経済格差の是正についても、貧困層を救済するための公的制度を富裕層が当然のように受け入れられる環境にあります。
高齢者は若者と対等に扱われるので、若い・新しいアイディアも採用されやすいということもデジタルガバメントの推進などに一役買っていると思います。また、女性の社会進出も活発で、働きながら出産・子育てがしやすくなるような経済支援策や「保育ママ(ベビーシッターの上位版)」等のサポート体制も充実しています。
これらのマインドにより、デンマークはスマートシティを検討するにあたって、幅広い意見を受け入れやすい環境にあるといえます。

ある課題に対し、幅広い意見を集約し、あらたな方針を決めていくためには、コミュニケーション能力意思決定能力が求められますが、デンマークの教育方針もまた、これらの能力を育む一因となっています。資源に貧しい国家であるため、人材育成を重要視しており、「Teach(上から教える)」ではなく、「Facilitate(対話・体験から子供の学びたいことを導く)」から、直観力や課題発見・解決力の高い人づくりを大事にしています。

北欧諸国は手厚い社会福祉システムがある一方で、税負担率が大きいことが有名です。デンマークも国民の税負担率は65%(日本は25%)と高いため、市民が税金の還元方法を厳しくチェックするため積極的な政治参加を促すことができています。これにより、政府は柔軟でクリーンな政治ができており、民意を適切に反映することができています。
行政のデジタル化(Nem ID;下図)も非常に進んでおり、多角的なデータ連携・オープンデータの活用や電子署名によるスムースな公共サービスの享受が可能となっています。(キーカードもおしゃれです!)

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デンマークデザイン

近年、デンマークがスマートシティのモデルとして挙げられているのは、自然素材を生かしたシンプルなデザインを取り入れていることも一つの要因です。(前述のNem IDのカードもおしゃれですね。日本のマイナンバーカードと大違いです(笑))
いわゆるデンマークデザインはインテリアや陶器、時計などでそのアイデンティティが発揮されていますが、都市空間においても随所に「イカしたデザイン」として取り入られています。
前述の自転車ハイウェイもユーザーライクなやわらかいデザインとなっており、既存の都市空間との親和性も高いです。

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日本でスマートシティを実現するためのヒント(まとめ)

以上、デンマークの現在のまちづくりについて整理しましたが、今後、日本の都市でスマートシティを実現するためには以下の項目が検討課題として挙げられます。

①地域ごとの課題の整理
日本で議論されているスマートシティでは、他分野連携による「社会の全体最適化」そのものが目的化されており、デンマークのように「全体最適化により期待される効果」について地域ごとに深く検討されていないように思います。地域によって抱える問題はそれぞれですので、自治体単位できめ細かく市民の意向を収集・共有することで、必要な投資項目や最適なソリューションの検討につながります。

②「民」主導の資金調達・合意形成
現在のPPPやPFIのような民間事業者の活用だけでなく、市民や幅広いジャンルの人がステークホルダー(利害関係者)となり、プロジェクトの主体となったほうが良いのではないかと思います。というのも、日本はデンマークのように税負担率が高くないため、事業への助成金等の資金投下があまり潤沢ではありません。一方で、クラウドファンディングの普及によって「使途のわからない」税金システムより、自らの関心・賛同に対してダイレクトに投資を行うような社会構造にシフトしていくものと思われます。こうした資金調達→還元の仕組みと合意形成のスキームを連動して検討していくことで、市民参加を促しつつ、地域にとって必要な機能導入を無駄なく行えるのではないでしょうか。

③行政内の分野間連携・デジタル化
日本でも各業界でIT化が進められていますが、その中で行政機能のデジタル化があまり進んでいない印象です。部署間の連携は、過去に比べて柔軟になりつつありますが、データ連携やオープンデータ化については地域によってばらつきが大きいです。各役所に必要な設備が整っていないことも原因ですが、おそらく各部署にシステム整備を行うためのエンジニアが不足していると思います。今回のコロナウィルスの影響も踏まえ改善されるポイントだとは思いますが、ユーザーがより使いやすい環境を整備するために、多様な情報を”翻訳”できる技術者の育成・確保が必要でしょう。

④法改正
現在の道路交通法や河川法などについては、北欧諸国のようなまちづくりを行うための制約がかなり大きく、より柔軟な開発ができるような緩和規程の検討が必要です。
道路については、ウォーカブルシティ推進都市の選定など歩行者空間の改善に向けた良い傾向が見られます。こうした制度とスマートウェルネス事業等の連携が強化されれば、ハード整備の意義も見いだされると思われます。

以上、長くなりましたが、デンマークのまちづくりと日本でのスマートシティの実現に向けた課題を整理してまいりました。
これから、というプロジェクトも多いので各地の動向はチェックしたいと思います。
それではまた。


ご覧いただきありがとうございました。。。今後の見学先の交通費や書籍費などに充てさせていただきます。