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文才の有無に関係なく、誰でもそれなりに整った文章を書くコツ

 文章の書き方に正解はない。

 ただ、ちょっとした「コツ」みたいなものはあると思う。

 僕は会社に入ってから9年間、「週刊文春」と「文藝春秋」の編集部で、文章に携わる仕事をしてきた。

 たかだが10年足らずの経歴で何を偉そうに、と思われる方もいるかもしれないが、最近になってようやく、「文章を書くコツみたいなものがあるのではないか?」ということに気がつき始めた。

 もちろん一流作家のような芸術的で天才的な文章を書くコツではない。文才の有無は関係なく、誰でもそれなりに整った文章を書くためのコツだ。

 noteをやっている人の中には「何かを書きたい、でもどうやったら書けるだろう」と思っている人がいると思う。また、「書きたいんだけど、素人の書いた文章みたいに読まれたら恥ずかしいな」と思って、躊躇している人もいるかもしれない。

 さらに、「周りから『何でもいいからとりあえず書いてみたらいい』と勧められるんだけど、ちゃんとした文章になっているかどうか不安だから、最初の一歩をふみだせない!」という人もいるだろう。

 そんな風に思っている人がいたら、少しは役に立つかもしれないので、僕が9年間、編集者をやってきて気がついた「それなりに整った文章を書くコツ」を、「#noteのつづけ方」というテーマに絡めて、書いてみようと思う。

「効率的」かつ「クオリティ高く」、「早く」書く

 編集者は、原稿を「もらう・読む・直す」が主な仕事と思われる方が多いだろう。

 しかし、「文藝春秋」編集部の場合、「もらう・読む・直す」は、仕事の一部である。実は、自分で記事を書くことの方が圧倒的に多い。編集部では、自分で記事を書くことを「まとめ」と呼んでいる。聞いてきた話を記事に「まとめ」るから「まとめ」という(多分)。

 「文藝春秋」には、政治家や芸能人のインタビュー、学者の対談や座談会などが掲載されているが、その大半は「文藝春秋」の編集者が直接、取材をして書いている。その本数は、平均すると、1人あたり月に2〜3本、多い時は4〜5本くらいだろうか。校了(〆切)間近に取材が行われた場合には、一晩で10000文字の原稿を書き上げなければらないこともある。

 つまり、僕たちは、限られた時間の中で、効率的かつクオリティ高く、早く、記事を書かなければならない。

 そんな時に、大切なこととは何だろうか。

【ポイント1】書き始める前に、記事の構成を作る

「記事の構成を作ること」は、1つの記事を書くという作業の80%くらいを占めると僕は思っている。

 何かを書こうとしている人が一番躊躇するのは「いちばん最初」。つまり、「何から書いたらいいか」が分からなくて、立ち止まってしまうのだ。

 時間がない、急いでいる、などという理由で闇雲に書き始めるのは、地図のない迷路をさまよっているようなもので、どこに着地するか分からないからオススメしない。後で論理展開がおかしくなって、「全消し」「全リライト」しなければならない状況に追い込まれた場合、かえって2倍以上の時間がかかってしまう。
(たまに文章の超天才で、構成を作らなくてもゴールまでたどり着ける人がいる。稀有な存在なので、僕たち一般の人は真似しない方がいいです)

 では、文章の構成ってどんなものを作ればいいのだろうか。

 そんな大それた物を作る必要はない。インタビューや対談をまとめる場合、文字起こしを読みながら、論理展開していく順番に、上から箇条書きでボンボン書いていくメモでいい。

 大事なのは、丁寧にやりすぎないこと。極端なことを言えば、文法も文章もめちゃくちゃで構わない。他人の目に触れるのは、あくまで記事だ。構成は、自分が読んで論理展開が把握できていれば、それでいい。

 ちなみに僕はこの構成を、iPhoneのメモで作っている。

 たとえば、以下の構成は、脱北した北朝鮮の外交官・太永浩元駐英公使のインタビュー記事を書くときに作ったものだ。

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 こうやって、iPhoneのメモで、冒頭から末尾までの「流れ」をひとまず作る。ご覧の通り、文章はめちゃくちゃだ。でも、自分の中では、どういう順番で論理展開をしていくかが、これを見れば分かる。

 自分がインタビュー対象に成り代わった気持ちになるのもいい。「この人はスピーチをするときに、どういう順番で喋って、最後はどう落とすのかな」ということに想いを馳せて、記事の設計図をとりあえず作ってみよう。

「設計図=構成」が完成するまでは、原稿は1文字も書き始めないことが重要だ。「早く書き始めたい」と焦れるかもしれないが、ここで焦ったら、かえって時間を無駄にすることになる。設計図が書き終わる前に闇雲に家を建て始めたらどうなるかを考えてみればいい。

 さて、構成が完成したら、そこではじめて、原稿に着手する。

 iPhoneをパソコンの横に置いて書き始めてもいいが、僕のオススメは、一手間かかるが、構成をプリントアウトすることだ。

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 プリントアウトのいいところは、パソコンで原稿を書きつつ、構成にペンで「書き込み」ができるようになることだ。

 書き始める前に作った「構成=設計図」を見ながら原稿を書いていると、「やっぱりこの順番、逆だな」「このエピソードはいらないな」と思うことはよくある。

 というか、ほとんどの場合、そうなる。

 最初に作る「構成=設計図」はあくまで記事の大きな方向性を指し示してくれる「方位磁石」みたいなものだと認識しよう。原稿の細部は書きながら微調整していけばいい。

 その微調整をするときに、「手書き」は非常にいい。思考の幅が広がる。消したり、入れ替えたり、追加したりできるのに加え、新しいアイデアが出てきたら、バーっと書き加えることもできる。つまり、ペンで何かを書き加えていくことで、記事の全体像を、立体的かつ視覚的に捉えることができるようになるのだ。

 僕はこのように、パソコン、iPhone、ペン、紙を駆使して、記事を書いている。

【ポイント2】一番面白いと思った部分を冒頭に持ってくる

 しかし、「そもそも構成をどうやって作ったらいいか分からない」という人もいるだろう。「どういう順番で記事を展開していくのが一番いいのか」というのは大きな問題である。

 実は、この答えは簡単だ。

 自分が一番面白いと思った部分から書きはじめるのが、それなりプロっぽい記事を書けるようになる一番の近道だ。

「時系列を追って物事を説明して行かないと、文章の論理が破綻するんじゃないか」と考える人がいるかもしれない。

 決してそんなことはない。時系列やその後の論理展開は一旦無視して、書こうとしている内容の中で、自分に「引っかかった」部分を冒頭に持ってくることをオススメする。

 冒頭に使うエピソードを「固定」してしまえば、その後の文章は案外、自然に流れていく。

 僕がまとめた対談記事の中から一例を挙げてみる。

 2018年4月号に掲載した、黒田勝弘氏による許永中氏へのインタビュー記事だ。「バブルの時代を振り返る」というテーマで行われ、合計10時間にも及んだ。文字起こしは、とてつもない分量になっていた。膨大なエピソードがある中で、「何を冒頭に持ってきて、記事を構成するか」が、記事の書き手(僕)がいちばん辛いところであり、楽しめるところだ。

 僕は、記事の冒頭に、以下の2人の会話を持ってくることにした。

黒田 変なことを聞きますけど、韓国語はどれくらい話せるんですか。
許 うーん、センセイ(黒田氏)の半分くらいかな。
黒田 日本生まれ、日本育ちの在日二世としては出来る方ですね。どこで勉強したんですか。
 ここで暮らしながらの実践です。日本ではNHKの通信講座で少し習いましたけど。ゆっくりならハングルも読めますし、書けますよ。韓国での生活は今年で5年目になりましたから。

 インタビューの本テーマではない、ちょっとしたやり取りだったのだが、僕の心には、このやりとりがすごく残っていた。許永中氏のソウルでの暮らしぶりが垣間見えるエピソードだったからだ。

 だから、その後の展開は考えずに、まず「許永中氏が韓国語どれくらいできるか?」を記事構成の冒頭に固定した。

 こんな突拍子もないエピソードから始めちゃって、その後どうやって論理展開をすればいいんだ、と思うかもしれないが、その後はちょっと強引に「流れ」を作って本題に戻していけばいい。

 ここで暮らしながらの実践です。日本ではNHKの通信講座で少し習いましたけど。ゆっくりならハングルも読めますし、書けますよ。韓国での生活は今年で5年目になりましたから。
黒田 奇妙なことに今、日本では“バブルブーム”なんです。1980~1990年代のバブル経済時代に関連する書籍が相次いで出版されるなど、当時を回顧する人が増えています……

「奇妙なことに」という前置きで強引に話題を切り替えていったが、これくらいのことは全く問題ない、と僕は思う。それよりも、冒頭に印象的なエピソードを持ってくる方が、はるかにオリジナリティあふれる記事になるだろう。

 竜頭蛇尾、という言葉は、あまりいい言葉で用いられないが、記事の構成においては竜頭蛇尾くらいでいいんじゃないか、と僕は思っている。“蛇頭竜尾”だったら、面白いエピソードが、ほとんどの人に伝わらないままスルーされてしまう。もったいない。

【ポイント3】自分で「よく書けた」と思えた文章がいい文章

 ここまで色々と書いてきたが、最も大切なのは3つ目のポイントだ。

 自分で「今回はよく書けたな!」と思った文章は、大抵、多くの人から褒められる。

 僕の経験上、これはほぼ間違いない。自分で書いた文章の良し・悪しを判断するときの「自分の勘」は、結構当たる。

 逆に、投げやりで書いた文章だったり、「うーん、なんか消化不良だけどまあいっか。時間ないし、あとはデスク頼むわ!」といって放り投げた文章は、十中八九、キツいダメ出しをくらった記憶がある。

◆◆◆

 ポイント3は、コツでもなんでもないかもしれないけど、「自分で納得できた文章」を書き上げることは、じつは何よりも重要なのだ。

 自分で「よく書けたな」と思い、他人から「よかったよ」と言われると、モチベーションアップに繋がる。こうして「書く楽しみ」を知った人は、気づいたら「次は何を書こうかな」と考えているはずだ。


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