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Untitled Fantasy(仮題)破2

登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女
ジョニー・ダグラス(18) 薬剤師、元孤児
エマ・クラーク(17) 機織り、元孤児

テイラー(62) 王国の老兵、マーティとセレナの剣術の師
セオドア・ウィリアムズ(28) ウィリアムズ王国現第二王子、現ウィリアムズ王国騎士団団長、側室の子
アーロン・ウィリアムズ(30) ウィリアムズ王国現王太子、消息不明


初回

前回

〇城下町、大通り

マーティ、セレナ、敵を振り切る。
二人とも剣を鞘に収める。
そして馬の速度を少し落とす。

マーティ「存外諦めが早かったな」
セレナ「きっと王宮の制圧を優先するつもりなのよ」

セレナ、顔を伏せ、頭をマーティの背中に押さえつけて震える。

マーティ「大丈夫だ。テイラー先生は俺たちの師匠だろ? 魔族になんか負けたりしな……」
セレナ「気休めはやめて」
マーティ「セレナ……」
セレナ「私だってわかってる。お父様はあのときすでに助かる見込みがなかった。アーロン兄様もきっとタルウィに殺されてる。セオドア兄様もテイラーも、最初から私を逃がすために命を捨てるつもりだった。残った兵たちだって……」
マーティ「……」
セレナ「この城を取り囲む禍々しい気。これから来る魔族の将は、きっと私たちの手に負えない。みんな殺されちゃうわ。逃げ切れたところで挽回なんてできない」

沈黙。

セレナ「マーティ、ごめんなさい」
マーティ「急にどうした?」
セレナ「子どものころ、あなたを負かして調子に乗って。なのに肝心なときに誰も救えないなんて、最低だよね……」
マーティ「何言ってんだよ。謝らなきゃならないのは俺の方だ。お前の気持ちも考えずにあんなこと言って。お前だって、好きで王族に生まれたわけじゃないのに」
セレナ「覚えてたんだ」
マーティ「忘れるかよ。ずっと心の奥に引っかかってたんだ。ごめん」
セレナ「ううん、いいの」
マーティ「罪滅ぼしってわけじゃねぇけどよ、事が済むまではお前のそばにいるから」
セレナ「マーティ……」
マーティ「死ぬときは一緒だ。どのみち俺たち、いつかは老いて死ぬんだから、やるだけやってみようぜ」
セレナ「うん……。わかった」
マーティ「さあ、人の集団が見えてきたぜ。少しの間、俺たちは主従関係だ。お前ならできる。王女としての責務を果たすんだ」
セレナ「王女としての責務……」


〇城下町、大通り(エマ、ジョニーのいる集団)

兵士「セ、セレナ殿下!」

その場にいる兵士、民衆一同、立ち止まって後ろを振り返る。
馬に乗ったマーティとセレナが近づいてくる。

エマ「うそ……。マーティが、マーティが……」

エマ、大粒の涙を浮かべる。

ジョニー「あいつ、まさか本当にお姫様を助け出すとはな」

兵士たち、セレナに向かって敬礼する。

分隊長A「王女殿下! ご無事で何よりでございます!」
セレナ「あなたたちも、迅速な避難誘導、感謝します」
分隊長A「滅相もございません! ……して、その者は?」
セレナ「彼は私を救った勇敢な市民です」
分隊長A「左様でございますか。君、よくやってくれた。あとは我々に任せ……」
セレナ「いえ、その必要はありません。彼には武芸の心得があります。私の護衛は彼一人で十分です」
分隊長A「しかし……」
セレナ「あなたたちは市民の誘導に専念しなさい。足が止まっていますよ」
分隊長A「し、失礼いたしました! 皆の者、避難を再開するぞ」
兵士たち「「承知しました!」」
セレナ「みなさん! いままさに、我が国の勇敢な兵たちが王宮で敵の侵攻を食い止めています! 彼らの行動を無駄にしないためにも、全員無事に逃げ切りましょう!」

市民たち、歓声をあげ、避難を再開する。

分隊長A「おお、民の足が先程より早く。殿下、お見事にございます! では、殿下はお先に城外へ……」
セレナ「何を言っているの?」
分隊長A「え?」
セレナ「私が先に逃げれば民は失望し、逃げる意欲を失います。それでは意味が無いわ」
分隊長A「それは……。では、せめて先頭にいていただけないでしょうか? 殿は我々が守りますので」

近くにいる市民の一人が振り返る。

市民 「殿下! 俺たちからもお願いします! 先頭に立って俺たちを導いてください! みんな、敵が攻めてきたら俺たちでセレナ殿下をお守りしよう!」

市民たち、また歓声を上げる。

分隊長A「民もああ言っておりますし、何卒」
セレナ「……仕方ありません。ただし、いざというとき加勢できるよう、馬一頭分の道は空けておきなさい。いいですね?」
分隊長A「は! 承知いたしました!」

分隊長A、兵士たちに指示を出して右側に馬が通れる道を空ける。

セレナ「では、行きましょう」
マーティ「はい、仰せのままに」

マーティ、軽く頷き、馬を右に進める。

マーティ(様になってたぜ。あれだけ言えりゃあ大したもんだ)
セレナ(ねぇ、マーティ)
マーティ(ん?)
セレナ(私、テイラーの期待に応えられるかな?)
マーティ(できるさ。今だってみんなを鼓舞できたじゃないか。自信を持てよ。お前は自分が思ってる以上に、この国の人々から信頼されてるんだから)
セレナ(そう……なのかな)
マーティ(そうさ。大丈夫)

セレナ、モノローグ(この期に及んで、私は民からの信頼よりあなたの愛が欲しい。それが本心。こんな私に、国を建て直すなんて……)

マーティ、民の集団の右側から先頭に向かって馬を歩かせる。


〇城下町、大通り、エマ視点

エマ「よかった。生きててくれて、本当によかった」
ジョニー「ああ、これで心配が一つ消えたな」
エマ「うん!」

エマ、涙を流しながら微笑む。
セレナが民衆を鼓舞する。

エマ、モノローグ(セレナちゃん、凄い。こんな状況なのに、あんなに気丈に振舞って)

エマの顔から笑顔が消える。

エマ、モノローグ(マーティ、お姫様を守る本物の騎士様みたい。凄く絵になってる。あたしが入る余地なんてないくらい)
ジョニー「エマ……」
エマ「え? あ、うん。王女殿下、みんなを勇気づけて、すごくカッコイイよね。すごく……」
ジョニー「……ああ、そうだな」

民衆の一団、また動き出す。
エマ、ジョニー、それに合わせて歩き出す。

エマ、モノローグ(だめ。二人とも生きてたんだから、素直に喜ばなくちゃ。大切な友だちに嫉妬なんてだめ)

エマ、集団の先頭へ向かうマーティとセレナを見る。

エマ、モノローグ(でも、やっぱり、あたしもマーティと……)
ジョニー「エマ、逃げてから考えよう」
エマ「え? あ、その……」
ジョニー「まずは逃げ切らないと始まらない」
エマ「うん……。ジョニーはすごいよね。みんなのことちゃんと見てて、冷静で」
ジョニー「そんなことないさ。ただ、あいつが罪な男なのは見ればわかるよ。繊細なんだか鈍感なんだかよくわからないもんな」
エマ「……ほんとにね」

次回


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