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Untitled Fantasy(仮題) 序6

登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女

タルウィ(?) 魔族、ウィリアムズ王国宰相ドウェイン・ウォーカーとして政界を掌握、国王フレデリックを間接的に殺害

テイラー(62) 王国の老兵、マーティとセレナの剣術の師
ドゥルジ(?) 魔族の将
サルワ(?) 魔族の将

初回


前回


〇王宮内、また別の廊下

テイラー、セレナの手を引いて走っている。

セレナ「テイラー! 手を放して!」

テイラー、立ち止まってセレナの手を放す。

テイラー「覚悟はお決まりですか?」
セレナ「わからない……。でも、今戻ったらセオドア兄さまは失望してしまうわ」

セレナ、目を伏せ、肩を震わせている。

テイラー・モノローグ(陛下がドウェインの手にかけられたのを目の当たりにし、本当は悲しみと恐怖で泣き出したいくらいでしょう。心が痛みますが、今は慰めるときではありません)
テイラー「行きましょう。セオドア様と、我が国の勇敢なる兵たちのためにも」

セレナ、小さく頷く。
次の瞬間、先にある扉が開けられ、マーティが現れる。

マーティ「セレナ! テイラー先生!」
セレナ、テイラー「「マーティ!」」

マーティ、二人の方へ駆け寄る。

マーティ「良かった、二人とも無事で!」
テイラー「お前、どうやって……。いや、今は立ち話をしている暇はない。走るぞ! 姫様も!」
マーティ「ああ、わかった!」
セレナ「マーティ、あなた……」
マーティ「話は後だ! いくぞ、セレナ!」
セレナ「う、うん!」

マーティ、セレナの手を引いて走り出す。

×   ×   ×

マーティ、セレナ、テイラー、走りながら。

テイラー「マーティ、わかるか?」
マーティ「ああ。後から複数の殺気がじわじわ近付いて来てる」
テイラー「数と気配からして、おそらく魔族の本隊はまだこちらに来ていない。だがそれも時間の問題だ。じきにドウェイン改め、魔族タルウィが魔界の扉を広げるだろう」
セレナ「魔界の扉ですって!?」
テイラー「はい。姫様もご存じでしょう。この城の地下にあるとされるアビスゲートの存在を」
セレナ「それは知ってるけど、掘っても見つからない、嘘か真かもわからない伝承じゃないの?」
テイラー「ええ、私もそう思っておりました。しかしここ最近の異変と今のこの状況から考えて、実在すると考えるのが妥当でしょう」
マーティ「タルウィとかいう魔族はそのアビスゲートを開く方法を探るために、人間になりすまして国の中枢に入り込んだってのか?」
テイラー「おそらくそうだろう。現状がそれを証明している」
マーティ「ほとんど誰にも悟られずに下準備をしてきたってわけか。とんでもねぇ野郎だ」
テイラー「マーティ! 姫様! 次を右に! 裏に馬を待機させております!」
マーティ「おう! セレナ、もう少しの辛抱だ!」
セレナ「え、ええ……」


〇王宮内、中庭、噴水前

噴水の前に立つタルウィ。

タルウィ「アビスゲートを閉じている結界が網目状をしているのは、魔力の弱い魔族が出入りできることからわかっていましたが、ここまで広げるのには苦労しました」

噴水の周りが黒いオーラに包まれる。

タルウィ「結界の解除を得意とする私が、すべての術式を解読するのに一年かかったのですから大したものです。さて、では次の段階に進みましょうか」

タルウィ、噴水に向かってぶつぶつと奇妙な言語で喋りだす。
上空の黒雲から噴水に向かって雷が落ちる

タルウィ「みなさん、もう出てこられますよ」

噴水の横の空間が黒い煙に包まれる。
煙が晴れるとともに、露出度の高いアーマーを着た、槍を持った女魔族が現れる。

タルウィ「これはこれはドゥルジさん、お久しぶりです」
ドゥルジ「タルウィ。戦闘ではお荷物のあなたも、こういうときは役に立つわね」
タルウィ「はっはっは。随分と辛辣ですが、要は役に立ちさえすればよいのです。魔力を極限まで抑える能力と結界を解く能力。アビスゲートを開くのにこれほど役立つ力はありません」
ドゥルジ「まあいいわ。お前はここで続けなさい。この城の制圧は私とサルワだけで十分よ」
タルウィ「ほほう、サルワさんもいらっしゃいましたか」
ドゥルジ「来るときは一緒だったけど、別々のところに放り出されたみたい。おかげでやりやすくなったわ。あんな悪趣味な男と一緒じゃ調子が狂うもの」
タルウィ「ははは。まったく、彼は実に良い趣味をしていますからねぇ。私とは気が合うのですが、ドゥルジさんはお気に召さないと」
ドゥルジ「私はお前も苦手よ」
タルウィ「はっきり申されますねぇ。まあ、それもあなたらしいですが」
ドゥルジ「ともかく、さっさと行かせてもらうわ。部隊も召喚されたみたいだし」

中庭が黒い煙に包まれたあと、槍を持った軽装の女魔族の集団が現れる。

ドゥルジ「さあおまえたち! 下等な人間どもに私たちの力を思い知らせてやるよ!」
女魔族の兵たち「「はっ!!」」


〇裏口の前

マーティ、セレナ、テイラー、裏口の前に到着する。
テイラー、裏口を開けて外に出る。
馬が二頭繋がれている。

テイラー「マーティ! 姫様! こちらの馬に! 私はもう一頭に乗ります!」
マーティ「わかった! セレナ!」
セレナ「う、うん!」

マーティ、馬に乗ろうとする。
その直後、三人は何かに反応する。

テイラー「これは……」
マーティ「今までで一番どす黒い殺気だ……」
セレナ「私にもわかる! こっちに近付いてる!」
テイラー「マーティ、その剣を私に。お前はこれを使いなさい。」
マーティ「え? なんで?」
テイラー「いいから」

テイラー、二本ある剣のうち一本をマーティと交換する。
マーティ、鞘を腰に括りつける。

テイラー「姫様も、これをお持ちください」
セレナ「でも、あなた二刀流を習得したって……」
テイラー「申し訳ございません、あれは嘘です。二刀流など邪道ですから」
セレナ「まさかあなた、こうなることを予想して、私に武器を渡して逃がすために……」
テイラー「さあ馬にお乗りください! 敵は間近に迫っています!」
セレナ「何を言ってるの!? あなたはどうするのよ!?」
テイラー「この敵を倒したあと、必ず追いかけます」
セレナ「嘘よ! こんな禍々しい殺気を放つ相手、あなた一人じゃ勝てないわ! 敵を食い止めて死ぬつもりでしょう!?」
テイラー「舐めてもらっては困ります。私もかつては王国一の達人と謳われた騎士です。魔族が相手だからといって後れを取ることなどありません」
セレナ「でも!」
テイラー「姫様、ご覚悟を! 国王陛下、アーロン殿下が魔族の手にかけられた今、この国を背負って立てるのは姫様だけなのです!」
セレナ「そんな……」

セレナ、黙る。

テイラー「マーティ、姫様を頼む」
マーティ「……ああ、わかった。テイラー先生もご武運を」

マーティ、馬に乗る。

マーティ「セレナ!」
セレナ「テイラー! 勝てないと思ったらすぐに逃げて! 絶対に死なないで!」

セレナ、剣を持って馬に乗る。

マーティ「よし! 行くぞ!」

マーティ、鞭で馬の尻を叩く。
馬、鳴き声を上げて走り去る。

テイラー「姫様。あの日陛下から貴方様の守役を仰せつかって以来、僭越ながら四人目の娘のように大切に想っておりました。貴方様のおかげで幸福な晩年を送れたこと、心から感謝いたします」

テイラーの背後から禍々しいオーラを纏った見た目が若い男の魔族が現れる。

若い男の魔族「おっ! やっと出来の良さそうな素材が現れたね!」

テイラー、振り返る。

テイラー・モノローグ(こやつが殺気の主か)
若い男の魔族「人間のおじいちゃん。悪いけど、僕のために死んでもらうよ」

次回


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