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Untitled Fantasy(仮題) 序2

登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女
ジョニー・ダグラス(18) 薬剤師、元孤児

フレデリック・ウィリアムズ二世(55) ウィリアムズ王国現国王
ドウェイン・ウォーカー(52) ウィリアムズ王国現宰相

テイラー(62) 王国の老兵、マーティとセレナの剣術の師
セオドア・ウィリアムズ(28) ウィリアムズ王国現第二王子、現ウィリアムズ王国騎士団団長、妾の子


前回

◯城下町、マルシェ(早朝)

ナレーション「一週間後」

マーティ、八百屋で品出しの手伝いをしている。
ジョニーが通りがかる。

ジョニー「よう、マーティ」
マーティ「おう、ジョニー。薬屋の仕事は休みか?」
ジョニー「いや、今日は午後から忙しいんだ。明日は建国記念日だろ? 僕たちは医療班として駆り出されることになっててさ。いろいろと準備があるんだ」
マーティ「そっか。そりゃ大変だな」

八百屋のおばさん、ジョニーに気づく。

おばさん「なんだい、ジョニーじゃないか」
ジョニー「おばさん、久しぶり」
おばさん「どうだい、仕事には慣れたかい?」
ジョニー「まあ、ぼちぼちね」
おばさん「そうかい、それは良かった。そうだ、マーティ。あとはもうあたしだけでできるから、休憩行っといで。せっかくお友だちが来たんだからさ」
マーティ「いいのか、おばちゃん?」
おばさん「いいよ。開店までに戻って来てくれれば」
マーティ「よし、じゃあ休憩がてら散歩でもするか。ジョニー、付き合えよ」
ジョニー「うん、いいよ」


◯城下町、マルシェ、大通り(早朝)

マーティ、ジョニー、マルシェの様子を見ながら散歩している。

ジョニー「今日は品出しのバイトか?」
マーティ「ああ。それと売り子もだ」
ジョニー「お前ほんと何でもやるよね」
マーティ「便利屋だからな。頼まれれば売り子でも左官でも魔物退治でもするぜ」

 *   *   *

マーティ「ところでジョニー」
ジョニー「何?」
マーティ「お前明日、セレナに会うことってあるか?」
ジョニー「何言ってんの。あるわけないだろ? セレナは王女。僕たちは孤児院上がりの平民。あの子が気まぐれで孤児院に遊びに来てただけで、元々住む世界が違う」
マーティ「そ、そうだよな」
ジョニー「マーティ、お前まだあのこと気にしてんの?」
マーティ「ちょっとな」
ジョニー「いい加減忘れろよ。どのみち孤児院を出たら切れる縁だったんだしさ」
マーティ「わかってるよ。わかってる」

 *   *   *


◯回想、孤児院の稽古場(午後)

テイラーの指導の下、マーティとセレナが剣術の模擬試合をしている。

テイラー「勝負あり!」
セレナ(12)「やったー! これで今日は十勝ゼロ敗ね!」
マーティ(12)「ちっくしょー! 勝てねー!」

セレナ、マーティ、防具を脱ぐ。

テイラー「マーティ、安心しなさい。君は十分強い。ここを卒業したらすぐ騎士団に入団してもらいたいくらいだ」
マーティ(12)「でもセレナには全然勝てなくなった」
テイラー「それは姫様も君と同じくらい剣の才能があるからだ。焦らず、これからも切磋琢磨すればいい」
セレナ(12)「そうよ、マーティ。がんばって私の稽古相手になりなさい」
マーティ(12)「なんだよ、偉そうに。お前はいつもいいもん食ってるから強いんだろ?」
セレナ(12)「え……」

セレナ、動揺した表情を見せたあと目をそらす。

セレナ(12)「そ、そうよね……。私は、その、お父様が王様だから……。マーティの言う通り、いいものも食べてるし……。や、やっぱり、ずるいよね」
マーティ(12)「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
セレナ(12)「調子に乗ってごめんなさい! お父様からここに来るのは控えろって言われてるし、これからは邪魔しないから!」

セレナ、そのまま稽古場から走り去る。

マーティ(12)「セレナ、待って!」
テイラー「待ちなさい、マーティ!」
マーティ(12)「テイラー先生、でも……」
テイラー「君が何を言っても今は逆効果だ。姫様のことは私に任せなさい」
マーティ(12)「……わかった」

 *   *   * 回想終わり

マーティ、モノローグ(それからセレナは孤児院に顔を出さなくなった。それ以来、俺はセレナに会っていない)


◯城下町、マルシェ、大通り(早朝)

ジョニー「まったく。モテるくせにセレナのこととなるとほんとだめだな」
マーティ「うるせーよ。そんなんじゃねーって。ただちょっと気になるだけで……」
ジョニー「はいはい」

 *   *   *

マーティ「たしかにお前の言う通り、どのみち切れる縁だったけど、俺たちはセレナの友だちだったよな」
ジョニー「そうだよ。普通ならありえないけどね」
マーティ「……」
ジョニー「明日の建国記念パレードで、綺麗になったあの子の姿でも見れば諦めもつくんじゃない?」
マーティ「……そうかもな」

 *   *   *

マーティ「話は変わるけどよ、ジョニー。新しく宰相になったドウェインっているだろ? お前あいつについて何か知らないか?」
ジョニー「何か知らないかって、たぶんみんなと同じだよ。元官僚で、何を考えているかわからないところがある。でも国王からは信頼されてる」
マーティ「やっぱりそれくらいだよな」
ジョニー「あの宰相がどうかしたのか?」
マーティ「いや、少し前からダンカンの旦那の林に強い魔物が出だして、それがドウェインが宰相になったのとほぼ同じ時期だったらしい」
ジョニー「たまたまじゃないのか?」
マーティ「俺もそう思うけど、ちょっと妙なんだ。旦那が国に助けを求めたら門前払いだったらしい」
ジョニー「それで?」
マーティ「それで俺が代わりに魔物退治に行ったんだけど、様子がおかしいからもう一回国に助けを求めるよう、旦那に伝えたんだ。でも結局また取り合ってもらえなかったらしい」
ジョニー「なるほどねー。ダンカンさんを助けたいし、もし王宮内でドウェインが良からぬことを考えていたらセレナも危ないかもしれない、とか考えたわけか」
マーティ「ち、ちげーよ! そんなんじゃなくて……」
ジョニー「ま、僕らにどうにかできる問題じゃないし、偉い人たちに任せるしかないんじゃない? それにまだドウェインが黒幕と決まったわけじゃないだろ?」
マーティ「それはそうだけど……」
ジョニー「しつこいけど、僕たちはただの平民で、セレナは王女なんだ。僕たちは彼女を心配する立場じゃない。そうだろ?」
マーティ「……ああ、お前の言う通りだ」
ジョニー「あのころの記憶はいい思い出として、心にしまっておけばいいんだよ」
マーティ「いい思い出、か……」


◯王宮内、廊下(朝)

第二王子セオドア(騎士団の団長)とテイラーが歩きながら話している。
他に人はいない。

セオドア「建国から二百年の節目ともなると大仕事だな。遠征よりもやることが多い」
テイラー「まったくでございますな」

セオドア、テイラー、小声に切り替える。

セオドア(騎士団にはまだドウェインの息がかかった者はいないはずだ。奴が反乱を起こす可能性は限りなくゼロに近い。だが油断はできん)
テイラー(私も殿下と同じ考えです。あの男は何か隠し事をしているような気がしてなりません)
セオドア(お前も感じているか。奴は既得権益者を上手く取り込んで出世し、父上に取り入り、権限を自身に集約して権勢を強めた。だがなぜか軍には興味も示さない)
テイラー(叛意があるのなら、部分的にでも軍部を掌握しようとするはず)
セオドア(そうだ。しかし奴はそんな素振りすら見せない。私兵を隠し持っていれば別だが、その線もないだろう。隠しきれる程度の兵力ではたかが知れているからな)
テイラー(近隣諸国と密約を結んでいる可能性もないでしょうな。あ奴の目的がこの国の乗っ取りなら、他国の軍隊など入れたくありませんから)
セオドア(その通りだ。そして明日の建国記念式典は厳重な警備の下で行われる。間違いが起こるはずもない。だが……)

 *   *   *

テイラー(最近、城外の林で強力な魔物が出たとの報告がありましたが、ドウェインが握り潰したようです)
セオドア(その情報は私も掴んでいる。まるで奴が魔物の侵入を手引きしているかのように見える)
テイラー(殿下もご存知の通り、この王宮の地中にあるとされる魔界の扉、アビスゲートは遥か昔に封印されています。そして結界の隙間からこちらに侵入できるのは極めて弱い魔物のみ)
セオドア(ドウェインがその結界を解こうとしているのなら辻褄が合うな)
テイラー(仰る通りでございます)
セオドア(取り越し苦労ならよいが、万が一の事態には備えねばならん。父上と兄上の護衛は我が騎士団が万全の体制を整えている。テイラー、セレナは任せたぞ)
テイラー(承知いたしました。命に変えても王女殿下をお守りいたします)

次回


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