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Untitled Fantasy(仮題) 破10

登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女
ジョニー・ダグラス(18) 薬剤師、元孤児
エマ・クラーク(17) 機織り、元孤児

グレアム(283) 天界の若手官僚
アパオシャ(?) 魔族の将


初回

前回


本文

マーティ、セレナ、ジョニー、エマの方を見る。
エマ、おどおどしている。
グレアム、エマの横で顎に手を添えて立っている。
そこから離れた場所で、アパオシャが状況を観察している

マーティ「エマ! 声! 声がお前の能力か!」
セレナ「エマ、そういえばあなた、子どものころ誰よりも歌が上手だったわよね!?」
エマ「え!? そんな、あたしの声なんて……。それに歌も、誰に習ったわけでもないし……」
マーティ「エマ! 頼む! 歌ってくれ! お前の歌が活路になるかもしれない!」
エマ「マーティ……。わかった! あたし、やってみる!」
グレアム、モノローグ(鈍感ってのは怖いな。後々泣かせることになりそうだ。まあ俺の知ったことじゃないがな)

エマ、即興で歌い出す。

アパオシャ、モノローグ(なんだ? あの小娘が歌いだしてから、俺の力が弱まったような……)
マーティ、モノローグ(当たりだ! エマの能力は声をエネルギーに変える能力だ! これは、力を強める歌だ! 力が漲ってくるのがわかるぞ!)
アパオシャ、モノローグ(まて、落ち着け。あの小娘の能力で少々力が弱まったところで、さっきの奴の力なら十分受けきれる。押し負けることはない)

アパオシャ、視線を素早く動かし、周囲を見渡す。

アパオシャ、モノローグ(小娘は後方だ。ここからでは遠い。長剣の女……あいつがタルウィの警戒していた王女だろうが、あの程度ならどうとでもなる。魔法使いの小僧も脅威ではない)

アパオシャ、マーティを見る。

アパオシャ、モノローグ(先に始末するならやはり大剣の男だ。奴さえ始末しておけばあとは力押しでいける)

アパオシャ「来い! 大剣の騎士よ!」
マーティ「言われなくても行ってやるぜ!」

マーティ、アパオシャに向かって走り出す。
セレナ、ジョニー、再び両側面からアパオシャに攻撃を仕掛けようと走り出す。

アパオシャ「同じ手が通用するか馬鹿どもがー!」

アパオシャ、口から先ほどより密度の高い衝撃波をセレナ、ジョニーそれぞれに放つ。
両方とも命中する。

セレナ「きゃっ!」
ジョニー「うわっ!」

セレナ、ジョニー、大きく転倒する。
マーティ、そのままアパオシャに向かって前進する。

アパオシャ、モノローグ(ほう、仲間が攻撃を受けても動じないか。腹は決まっているようだな。しかしそれも無意味よ)

アパオシャ「小僧! 全力で捻りつぶしてくれるわ!」
マーティ「やれるもんならやってみろ!」

両者、獲物を振る。
大斧と大剣が衝突し、アパオシャが押し返される。

アパオシャ「なにぃ!!」
マーティ「ダメ押し!」

マーティ、アパオシャの頭めがけて大剣を斜めに叩きつける。
アパオシャ、ギリギリでかわすも左膝を破壊される。

アパオシャ「ぐわああああ!」

アパオシャの部下の魔獣たち、身構える。
エマ、歌を止める。

アパオシャ「待て! お前らはすぐ戻ってドゥルジたちに知らせろ!」

部下の魔獣たち、一瞬戸惑う素振りを見せたあと、一斉に王都に向かって走り出す。
セレナ、それを追いかけようとする。

グレアム「やめておけ! 無駄だ!」

セレナ、立ち止まって後ろを振り返る。

セレナ「なんでよ!?」
グレアム「奴らの数と足の速さを見ろ。逃げる者を追撃したところで何割かは討ち損じる。やつらの目的は王都にいる他の将への報告だ。一匹でも逃したら意味が無い。体力と魔力の無駄だ」
セレナ「でも……」
グレアム「お前の目的は王都の奪還と王国の再興だろう? 目先の敵に惑わされるな」
セレナ「……わかったわ」
グレアム「よし。あとはそいつから聞き出せることを聞き出すだけだ」

グレアム、マーティとアパオシャに近づく。

アパオシャ「けったくそ悪い天界人だ。人間に代理戦争をさせて俺たちを封じ込めようとするだけあって狡猾だな」
グレアム「何とでも言うがいい。こいつらも納得してやっている。利害の一致ってやつだ」
アパオシャ「なるほど。だがなめるなよ。俺は軍人だ。魔法や薬で口を躍らせるようなヘマはしない」
マーティ「アパオシャ! 何を!?」

アパオシャ、大斧を頭上高く放り投げる。
落下してきた大斧がアパオシャの首の上に落ち、首が切断される。

マーティ「アパオシャ……」
グレアム「膝を負傷して負けを悟った瞬間、迷わず部下全員を走らせて敵の戦力を味方に伝えるほどの男だ。お荷物になると決まれば自分の命でも切り捨てるだろうよ」
マーティ「結局わかったのはこいつらの大将の名前だけか」
グレアム「だがそれだけでも十分だ。アエーシュマ。魔界随一の精鋭部隊を率いる将軍だ。天界にもその名を轟かせる高い戦闘能力と統率力を備えた厄介な奴さ」
マーティ「そんな奴を俺たちだけ倒せるのか?」
グレアム「五分五分だな。お前たちはまだ才能を全て出し切れていない。それを出し切れるかにかかっている。加えてエマの能力。彼女の能力がどれだけこちらに有利に働くかに勝敗は左右されるだろう」
マーティ「そうだ! エマは大丈夫か!?」

マーティ、後ろを振り返り、エマに駆け寄る。
エマ、少し疲労の色が見える。

エマ「マーティ、あたし、がんばったよ」
マーティ「ああ、よくやってくれたよ! お前がいなかったら俺は死んでた! ありがとう、エマ!」
エマ「よかった」
マーティ「エマ、お前大丈夫か? だいぶ消耗してるみたいだけど」
エマ「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
マーティ「そうか。グレアム、少し休む時間はあるか?」
グレアム「十分二十分の余裕ならあるな」
マーティ「よし、じゃあ休憩しよう」
エマ「ごめん、マーティ」
マーティ「いいさ。慣れないことをしたあとなんだから。それに自信を持てよ。今のはお前がいたから勝てたようなもんなんだから」
エマ「マーティ、ありがとう」

エマ、笑顔になる。

マーティ「セレナとジョニーも、さっきの攻撃で受けた傷は大丈夫か?」
セレナ「ええ、大したダメージじゃないわ」
ジョニー「僕も軽傷だ」
マーティ「よし、じゃあ今のうちに回復して体勢を立て直そう」

 *   *   *

一行、アパオシャの死体から離れた草むらの上で座る。

グレアム「エマの能力はさっきやった魔族への攻撃と弱体化、味方の能力の増強以外にもまだあるはずだ」
エマ「あたし、どうすればいいの?」
グレアム「思うままに歌うといい。見たところ魔法の詠唱とは違い、お前の意思に依存して効果が変わるようだからな」
エマ「ちょっと、恥ずかしいな」
マーティ「大丈夫さ。エマは歌が上手いからな。さっきも聴いてて奮い立ったぜ。能力だけじゃない、歌そのものの力みたいなのを感じたんだ」
エマ「ほんと!? じゃああたし、一生懸命歌う!」

グレアム、ジョニー、呆れ顔でマーティを見る。

グレアム、ジョニー、モノローグ((本当にこいつは……))

 *   *   *

マーティ「それにしても、こんな形になっちまったけどまた集まれてよかったな」
セレナ「そうね」

グレアム、立ち上がる。

グレアム「話の腰を折って悪い。王都の様子が気になるんでちょいと偵察に行ってくる」
マーティ「おう。ありがとな」

グレアム、翼を広げ飛び立つ。

マーティ「案外いい奴なんだな、あいつ」
セレナ「うん」

ジョニー「ところでお二人さん」
マーティ「ん?」
セレナ「なに?」
ジョニー「モヤモヤは晴れたのかな?」
マーティ、セレナ「「え!?」」

セレナ、マーティ、顔を合わせたあと二人とも下を向いて目を逸らす。

マーティ「そ、その、なんだ、まあ、無事仲直りしたというか、その……」
セレナ「そ、そうね。昔のことは昔のことだから、その、ね……」

ジョニー、横目でエマを見る。
エマ、無表情。

ジョニー、モノローグ(エマから感じたことのない闘志を感じる。落ち込んではいなさそうだな)

エマ、満面の笑みを浮かべる。

エマ「よくわかんないけど、マーティもセレナちゃんも仲直りできてよかったね」
マーティ「お、おう。ありがとな」

セレナ、表情が引き締まる。

セレナ「ええ。そうね」

セレナとエマ、互いに向き合う。

ジョニー、モノローグ(おー、こわっ。マーティはこれから大変だな。まあこいつはそこのところ、ちょっと痛い目見た方がいいけどね)

 *   *   *

グレアム、戻ってくる。

グレアム「話は終わったか?」
マーティ「ああ。みんなの体力も戻った。万全だ」
グレアム「敵がこちらに攻めてくる様子はない。こちらから反撃に出たのを知って迎え撃つ形に切り替えたようだ」
ジョニー「余計な消耗を避けるためですか?」
グレアム「それもあるだろう。あとはアビスゲートを確実に開放するためもある。アエーシュマほどの強力な魔力の持ち主が攻めてくるとしたら、相当拡張しないと難しいからな」
セレナ「じゃあそれを阻止すればアエーシュマと戦わずに王都を奪還できるのね」
グレアム「そうだ。時間的にはまだ余裕がある。だが油断はできない。そろそろ行こう」

一行、王都に向かって走りだす。

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