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Untitled Fantasy(仮題) 破8

登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女
ジョニー・ダグラス(18) 薬剤師、元孤児
エマ・クラーク(17) 機織り、元孤児

グレアム(283) 天界の若手官僚

初回

前回

〇南東の砦

セレナ、マーティ、砦の前に戻ってくる。

城壁の上にいる兵士A「開門! 開門!」

砦の門が開く。
セレナ、マーティ、砦の中に入る。
市民たち、歓声を上げる。

セレナ「みなさん! 敵は退けました!」

市民たち、大きな歓声を上げる。

セレナ「これから私たちは王都の奪還に向かいます! みなさんは戦いが終わるまで、苦しいと思うけれどここで待っていて!」

ジョニーの横でエマが浮かない顔をしている。

エマ、モノローグ(マーティもセレナちゃんも、なんだか遠い存在になっちゃったみたい……)

奥からグレアムがセレナたちのいる方へ歩いてくる。
分隊長B、グレアムに気付く。

分隊長B「何だ君は? もといた場所に戻りなさい」
グレアム「俺はあの二人の知り合いだ。ちょいと用があるんで通してくれないか?」
分隊長B「何を言うかと思えば。『あいつは俺が育てた』みたいな与太話なら飲み仲間にでもするといい。殿下は君が気安く話せる御方ではないのでな」
グレアム「生憎だが、俺は見栄っ張りでも飲んだくれのホラ吹きでもないんだ。いま本当の姿を見せよう」
分隊長B「は?」

グレアム、柔らかい光に包まれる。
その場にいる全員がグレアムに注目する。
グレアム、翼の生えた天界人の姿になる。

セレナ「え!?」
マーティ「あいつ、何考えてるんだ!?」

一同、唖然として黙る。
グレアム、マーティとセレナに近付き、市民たちの方を見る。

グレアム「ウィリアムズ王国の臣民たちよ、私の名はグレアム。君たちの中では伝説とされている天界人だ。此度の魔族による突然の侵略。我々天界人にとっても捨て置けない。そこで私たちは、君たち人間に手を貸すことにした」
マーティ「グレアム! お前何を!」

グレアム、無視して続ける。

グレアム「かつて我々は人界で人間と共に魔族と戦った。そして戦いが終わったあと、ごくわずかだが人界に残った天界人がいた。その天界人の子孫がここにもいる」

一同、どよめきだす。

グレアム「君らに流れる天界人の血は長い年月を経て薄まったが、その中にも類稀な才能を持つ者がいた。そう、ここにいるセレナ・ウィリアムズとマーティ・ハガードがそうだ。彼らなら魔族相手でも対等以上の戦いができるだろう」

どよめきが増す。
セレナ、マーティ、グレアムの耳元に顔を近づける。

セレナ(グレアム、どういうつもり!?)
マーティ(そうだ! みんな困惑してるじゃねぇか!)
グレアム(なんでって、その方が話が早いだろ?)
マーティー(馬鹿! いきなり背中から翼の生えた男が現れて、『彼らは天界人の子孫で才能があるから強くなれました』っつって、みんなが納得するわけないだろ!?)
グレアム(どうかな? 腑に落ちる説明さえあれば人は大抵のことに納得する。お前たちが手にした絶大な力も、天界人の子孫で才能もあるなら説明がつくだろう? 事実そうだしな)
マーティ(そんな簡単にいくわけ……)

市民L「どおりで神々しいわけじゃ」
マーティ、セレナ「「え!?」」

マーティ、セレナ、市民Lの方を見る。

市民L「わしは昔、新年の行事で幼少の殿下を初めて拝見したとき確信したんじゃ。この御方はただ者では無いと」
市民M「俺も、殿下は王家の中でも特別な御方だと思ってたぜ」
セレナ「ちょ、ちょっと……」
市民N「護衛の彼もよく見ると何か『持ってる』感じがするわ。ちょっとイケメンだし」
マーティ「いや、そんな理由で……」
グレアム(な? 俺の言った通りだろ?)
マーティ(な? じゃねぇよ! 勝手に話を進めやがって!)
グレアム(じゃあせっかくだから、もうひとつ話を進めさせてもらおう)
マーティ(今度は何を……)

グレアム、市民たちに向かって静まるよう促す仕草をする。
市民たち、黙る。

グレアム「実はあと二人、魔族に対抗し得る才能の持ち主がいる」
マーティ「おい、お前まさか……」

グレアム、無視して続ける。

グレアム「それがこのマーティの友人、ジョニー・ダグラスとエマ・クラークだ」

ジョニー、エマ、驚いた顔をする。

ジョニー、エマ「「え!?」」
市民D「おい、まさか兄ちゃんに嬢ちゃん、お前らがそうなのか?」
ジョニー「その……はい」

一同、ジョニーとエマに注目する
エマ、うつむく。

マーティ(グレアム、お前どういうつもりだ? 二人をこんな大勢の前で晒し者にしやがって!)
グレアム(こうしないとあの二人が同行する流れを作れないだろう? 理由もなく一般人を駆り出すわけにはいかないからな)
マーティ(そういう問題じゃねぇ! 本人に何の説明もなしに断りにくい状況を作りやがって!)
グレアム(関係ないさ。どのみち二人は自らの意思で戦いに加わる。特にエマはな)
マーティ(エマが? 何言ってんだ?)
グレアム(お前、周りから鈍感って言われるだろ?)
マーティ(は?)

エマ、顔を上げる。

エマ「あたし、一緒に戦います!」
マーティ、ジョニー、セレナ「「エマ!?」」

エマ、マーティの前まで歩いていく。

マーティ「エマ、お前……」
エマ「マーティ。上手く言えないけど、あたしも一緒に戦いたい」
マーティ「いいのか? 死ぬかもしれないんだぞ?」
エマ「それは、マーティもセレナちゃんも一緒じゃん!」

エマ、セレナの方を向く。

エマ「セレナちゃん、久しぶり」
セレナ「ええ、久しぶりね、エマ」
エマ「あたし、魔族にも、セレナちゃんにも絶対負けないから!」

セレナ、一瞬ハッとした表情を見せる。

セレナ「私だって、それに関しては誰にも負けないつもり」
エマ「じゃあ決まりだね」
セレナ「そうね。ありがとう、エマ」

セレナ、微笑む。
マーティ、首を傾げる。
ジョニー、三人の方へ歩いてくる。

ジョニー「やれやれ。これは僕も一緒に行かないと締まらないな」
セレナ「ジョ二ー」
ジョニー「どうやってその才能とやらを引き出すのか知らないけど、僕にもあるんだろ?」
グレアム「ああ。お前たちの才能は俺が引き出してやる」
マーティ「いいのか、ジョニー?」
ジョニー「どのみち魔族を倒さなきゃお終いなんだ。それに、友だちが戦ってるのにここで待ってるわけにいかないだろ?」
マーティ「……そうだな。恩に着るぜ、相棒」
セレナ「ありがとう、ジョニー」
ジョニー「礼には及ばないさ」

マーティ、セレナ、ジョニー、エマ、互いに頷く。

グレアム「話がまとまったなら早速支度を始めよう。時間の猶予はあまりない。敵の本隊が人界に侵入する前にアビスゲートを再び封印する必要がある」
セレナ「封印は誰がするの?」
グレアム「俺がやろう。お前たちは魔族の将を討ち取ってくれ」
セレナ「わかったわ」

セレナ、市民たちの方を向く。

セレナ「みなさん、私たちは必ず魔族の手から王都を取り返します!」

市民たち、大歓声を上げる。

グレアム、モノローグ(上手くいったな。下調べ通り、奴が罪な男で助かったぜ)

次回


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