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ゲルインクとチキソトロピー

皆さんはゲルインクのボールペンを使ったことがありますか?

ゲルインクは水性なのに耐水性に優れ、そのボールペンは油性よりも滑りが良く滑らかな書き味です。
しかし、なぜゲルでありながら流動性があるのでしょうか?
本当にゲルなら、インクは芯の中で固まったままで、ボールペンから出てこないはずです。

その秘密は、チキソトロピーという特殊な現象にあります。

チキソトロピー性を持つゲル(厳密には塑性固体)にせん断応力をかけ続けると、ゲルは流動性を持つゾルに変化します。
せん断応力(ずり応力)は、物体のある面の平行方向に向かってかかる力のことです。
下の図を見て下さい。

ゲルの面方向に応力をかけ続けると、ゲルの粘度は低下し、ゾルになります。
逆に、応力をかけるのを止めるとゾルの粘度は上昇し、再びゲルに戻ります。チキソトロピー性を持つ材料はこのような特徴を持っています。

チキソトロピー性材料は、図のようにゲルの網目構造がせん断力によって崩れて流動性のあるゾルになります。力がかかっていない状態では、再び網目構造が作られ、流動性がなくなります。

ゲルインクはボールの回転によるせん断応力によって粘度が低下し、ゾルになっているのです。そして、紙などに付着したゾルは再びゲルに戻ります。そのため、ゲルインクで書いた文字は滲み難いのです(太字のものは一度に出るインク量が多いため、滲んでしまいます)。

図のようにボールに接しているゲルインクは、ボールの回転によって生じた応力のためにゾル化し、流動的になります。

ゲルインクは従来の水性インクと油性インクの良いとこ取りをした、革命的なインクなんですね。

他にチキソトロピーを示すものに、マヨネーズやジャムが挙げられます。混ぜていると徐々に粘度が低下していきます。混ぜる速度(ずり速度)によっても粘度は変わります。
マヨネーズとケチャップは容器から押し出すと流れ出てきますが、潰したり混ぜたりしない限り、押し出した直後の形を保っています。
チキソトロピーは、私たちの生活を支えている重要な性質なんですね。

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