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サーモインク(示温インク)とサーモクロミズム

特定の温度になると、色が変わるインクがあります。
通常、示温インクという商品名で販売されています。
40℃付近で色が青から赤(ピンクに近い)に代わります。

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示温インクは、水で5~10倍に薄めて使います。
水は常温(15~25℃くらい)が好ましいです。
今回は、120mlの水に約20mlのインクを混ぜて使いました。

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混ぜると直ぐに均一な水溶液になります。
このままホットプレートなどで加熱します。
温めていると、僅かに色が変わり始めます。
青みが薄くなり、少しずつピンク色が混ざってきます。
だんだんと色が変わっていく様子は見ていて飽きません。

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全体がピンク色になりました。
この後も、色が濃くなっていきます。

そして、冷やすと元の青色に戻ります。

この示温インクを使ってスライムを作ってみます。

約5倍に薄めた示温インク水溶液30ml (g)と、洗濯のり20ml (g)を混ぜた後、
4%のホウ砂水溶液を少し加えて混ぜ、スライムを作ります。
4%ホウ砂水溶液は、ホウ砂1gをぬるま湯25mlに加えて溶かすことで作ります。
*ぬるま湯30mlにした方が溶かし易いです。濃度は薄くなりますが、問題ありません。

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示温インクに含まれる成分の影響なのか、伸び難いスライムになります。
そのため、今回はよく伸びるバルーンスライム糊を使いました。
もちろん、普通の洗濯のりでも問題ありません。
伸びるスライムにこだわりたいときはバルーンスライム糊を使って下さい。

40℃付近で変色するため、残念ながら人肌で色が変わることはありません。
そこで、70℃くらいの熱湯をビーカーに入れ、そのビーカーにスライムをつけてみました。

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すると、直ぐにスライムの色が変わりました。
2色で作ったように見えますね。
温度が下がると青い色に戻ります。

次は、ルミカさんから出ている「色が変わるアメーバジェル」を作ってみます。
このキットに使われている示温インクは、30℃で変色します。
これなら、人肌で色を変えられそうです。
粉の入った袋が一つと、かき混ぜ棒が入っているだけでなので、作り方は簡単です。
60mlの水に袋の粉をすべて入れ、粉のカタマリが残らないよう棒で混ぜます。
混ぜたら、そのまま10~15分待ちます。

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すると、ペースト状の物体が出来上がります。
確かにアメーバジェルですねw

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今度は人肌で色が変化します。
触っているだけで変わるので楽しいです。
原材料には多糖類のグァーガムとローカストビーンガムがあるため、混ぜた後に水を吸収して膨らみ、ゲル状になったと考えられます。
他に、結着剤とあるため、糊のような役割を持つ物質(デンプンなど)が入っていると思われます。

示温インクには具体的な成分表示がないため、残念ながら、使われている物質の構造などは分りません。
しかし、どんなものかは推測できます。

温度で色が変わる現象をサーモクロミズムと呼びます。
サーモクロミズムを示す物質としてよく使われるのがロイコ染料サーモクロミック液晶です。
精度が高いのは液晶の方で、ロイコ染料は応答する温度が曖昧です(3~5℃くらいの幅がある)。
そして、インクに使われているのは取り扱いの容易なロイコ染料の方だと思われます(液晶の可能性もあります)。
液晶もロイコ染料も、一定の温度以上で分子構造が変化し、それによって吸収する光の波長が変わります。そのため、色が変化するんです。

以下の図は、ロイコ染料の一例です(温度ではなく、光による構造変化です)。

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紫外線照射によるロイコ染料の構造変化(Wikipedia)

温度変化の良い例が見つからなかったので、光による構造変化を持ってきました。
紫外光を照射することで、環が開いていますね。
こんな感じで、ロイコ染料は温度変化や光の照射、pH変化などで構造が変わるんです。
ロイコ染料は感熱紙やカップなどにも使われています。
カップや缶に印刷された絵や文字には、温度で浮き出てきたり、色が変わるものがありますよね。
あれは温度で変化するロイコ染料が使われているためです。
*感熱紙に使われているのは、pHで変化するタイプです。
 熱で融けたロイコ染料が酸化剤と反応して発色します。

光で変化するのはフォトクロミズム、pH変化はハロクロミズム、電圧で色が変化するものはエレクトロクロミズムと呼びます。
熱で変化するサーモクロミズムが一番手軽だと思います。

示温インク(サーモインク)は水で薄めず、そのまま使うことも出来ます。
紙やフィルムなどに絵や文字を書き、温めて色を変えると面白いと思います。
手に付いても水洗いで簡単に落ちるので、扱いやすいです。
興味がありましたら、ぜひ試してみて下さい。


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