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サービスを提供する側にも、受ける側にも大切なことのお話

たまには、音楽とはほとんど関係ない仕事の話をしたいと思います。

僕は、大半が高齢者向けのリハビリ特化型デイサービスで仕事をしています。「大半が高齢者向け」というまどろっこしい書き方をしたのは、介護保険を利用する方が全員高齢者ではないからです。高齢者の方に比べれば少ないですが、中には「高齢者」の基準に当たらない65歳以下の方もいます。

ただ、今回の話の題材にしたいのは、主に75歳以上の後期高齢者の方々のお話です。

マシン使用の順番決めは、まさに「詰め将棋」

僕がいる施設では、基本的に主にジムにあるようなトレーニングマシンを、高齢者リハビリのために特化したようなマシンを使った低負荷のマシンを使って運動メニューを作っていきます。
僕たちがジム等でマシンを使うときは、基本、順番待ちをしたり、セットや片付けは全て自分でやるし、それが当たり前なのですが、僕たちの施設の場合は事情が違います。マシンの負荷や回数のセット、着座の見守りから、マシンの調節、終わった後の離席の見守りやマシンを外し、消毒する作業まですべてスタッフで行います。最大20人の定員の中で、スタッフ4人くらいでそれを回していくため、中には対応が間に合わない場合もあります。

それは、主に後期高齢者の人は、「マシン」というだけで「使い方がわからない、覚えられない」という人がほとんどだから、というのが理由だったりしますが、やはり体の動きが思うようにいかない人達が主に利用する場ですから、マシンの扱いを覚えられたとしても、なかなか上手に扱えなかったり、扱うスピードが遅かったりして、マシン利用の混雑が出てくることがあるため、その辺はスタッフがやることになっていますが、個人的には「リハビリ」とか「介護」という点で考えると、なるべく、マシン使用についてのサポートはスタッフがお膳立てするのではなく、できるところはなるべく本人でやってもらいたいのが理想だと思います。

と、いう結論ありきの前置きで始まりましたが、今回の話の主人公は、「待てない」人達です。

僕たち、スタッフが一番、利用者相手の仕事で苦慮するところが、「3時間の利用時間中に、利用者全員が公平に決められたメニューを全て満足に終わらせて帰ることができる」ように、全体の流れを調整していくことです。

その点で考えるべき点をまとめます。

・マシンの待ち時間を少なくし、スムーズに運べるように誘導する。
・実施するマシンの順番に拘る人も少なくないため、実施する順番は極力崩さない。
・その日の体調や具合によって、回数や負荷の変更、回避する運動があることを考慮に入れる。
・利用者同士の人間関係を考慮に入れ、悪い人同士は近いマシンに誘導しない。

それを全て実行しようとなると、マシン誘導は本当に詰め将棋と同じくらい頭を使います。利用者は本当に一人一人全然進み方が違う将棋の駒みたいなものです。
そして、以上の部分は、一般的なトレーニングジムでは「自己責任で行う」部分のため、ほとんど考慮する必要もないし、考慮しないといけない様な人は、まず来ないと思います。

よく利用者から、「マシンが空いてるのに、何で勝手に行っちゃいけないの?」という質問をもらうことがあります。

人というのは、本当に氷山を外から見える部分からしか見ていないんだな…と思う質問です。後期高齢者の人は特に。全てがそうとは限りませんが。

ただ、これも「人による」部分が多少なりとあるのですが、高齢になってくると、「何でこんなにせっかちになるの?」と不思議に思えてくるくらい、「物事を待てない」、「人の話をきちんと最後まで聞かない」、「挙動不審かと思うくらいソワソワしている」人が、これでもか?と言わんばかりに増えてくるように感じるのは気のせいではないと思います。
それは脳や身体機能の老化などの部分で科学的に証明できる部分もあるにはあるのですが、全てが全て「老化だから仕方ない」で済ませていいのか、許せることなのかどうかは、僕は別だと思いたいのですが、当の高齢者自身に「あなたたちもいずれ通る道なのよ」と言われて開き直られると元も子もないのが、余計に頭を悩ませるところです。

だって、僕が「全てがそうとは限らない」と書いたように、きちんとルールや順番を守れる人、きちんと説明を聞いて納得してくれる高齢者だって、中にはいる訳ですから。

そう考えると、よく僕たちの業界の教育でも、バカの一つ覚えのように言われる「高齢者を敬いましょう」という常套文句も、「これまでの社会を作り上げてきた、生きてきた経験」を盾にして、老化を「ワガママ」の言い訳にしようとしている様にしか思えなくなるような穿った捉え方をしていた時期があったのも、この仕事をしていて感じた正直なキレイごとではない自分自身の気持ちです。

一人が席と立つと、みんな席を立つ、不思議な集団心理

そこで、もう1つ。僕たちスタッフの頭を悩ませている要素「集団心理」の登場です。

「たった一人が、一人で空いているマシンに行く」
のであれば、そこまで問題なく対応はできます。
しかし、厄介なことに「マシンが空いてるから、みんな行こう!」とか周囲の利用者を一斉に誘い合わせたりされるのは、スタッフの側から見ると大迷惑でしかありません。お盆やGWに人出が多いのをわかっているのに、わざわざ渋滞しに我先に高速道路やレジャー施設に突っ込むようなものです。

わざわざ誘う人がいなくても同じことで、スタッフが誰か一人をマシンに誘導したら、呼んでもいないのに、別の利用者が一緒に席を立ってマシンに行ったり、ということは日常ザラです。あの人が行ったから、私も一緒に…という心理が働くからなのでしょうか。

例えば、比較的小さい規模のライブに行く人だとよくわかると思いますが、
観客が立ち上がるタイミングとか手拍子を始めるタイミングとかも、同じ集団心理が働いていると思います。
僕たち、演者からの理想としては、演者が求めなくても、ノリのいい曲では自ずと手拍子だったり、立ち上がったり、踊りだしたり、という事象が自然発生的に出てきてくれるのが何よりも嬉しい反応だったりしますが、観客側の集団心理が優先して働くような反応では、演者としてまだまだだな…と反省させられます。

こちらとしては、今いる利用者のメンバーの状況、状態を考慮して、混雑しないように一番最適にマシンを回せるように考慮して声かけしているのですが、大半の利用者はそんな考慮や事情なんて知ったことではないです。
それに利用者の前で「考慮」や「事情」を表に出すのは、タブーであり反則なのです。利用者の意志に反して「少々お待ちください」と声かけをすることも「身体拘束」に繋がることにもなるので、安易にそういう声かけ(「スピーチロック」と呼ばれる拘束に当たる事例があります。)をする訳にもいかないのが福祉の職場のツラいところです。

僕は「少々お待ちください」の代わりに、その辺は割と正直に説明するようにしています。「銀行や病院では呼ばれるまで順番を待ちますよね。」という形で。ただ、それで一度クレームを入れてきた利用者もいるため、どの利用者に対して、どのように声掛けをするのか悩み続けるところは永遠の課題なのかもしれません。ただ、クレームに関して言えば、よくよく話を聞くとシステム上の不満そのものより、「言い方」とか「態度」とか、そう言った感情論に行きつくところが多大にあり、それに対して論理的な説明で対処しようとすると、かえって感情を逆撫ですることが多いので、クレームが来たら、すぐに話を聞く対応の職員を変えることは有効な手段だと思います。

僕は人混みが苦手な人なので、逆にGWやお盆にまとめて休みがないことが好都合な訳ですが、「わざわざ人が多いところ、多くなるのがわかっているところに、真っ向から突っ込む」人の心理が理解できません。
例えばわかりやすいところで言うと、病院などの医療機関の午前中の診療なんかがそうです。正直、あんなにいっぱいだと、本当に体調が悪くて受診している人が、すぐに必要な診察を受けられない、という事象が既に起こっているだけに、あの高齢者の会合状態を打開できないものか?と、僕は自身が受診の機会が多いこともあるし、その上、認知症の家族の受診もあるので、常に考えているところです。

「性格」や「感情」を表に出さずに、気持ちよく対応する方法

もちろん、その時の利用者の体調や具合とか、そういった要素も絡んできますが、一番やっかいなのは「性格」という要素です。

「利用者全体が公平に」というフレーズを前述しましたが、それもなかなか厄介な要素なのですが、僕はサービスが「平等」とか「公平」になるほど、「感情」の部分を排除しなければならない、と思う部分もあると思っています。「感情」は大きく「性格」に左右されるし、一番クレームに繋がる部分も「感情」や「性格」だったりするので、その部分を排除してサービスを提供することもできません。

僕は、外食で主にマクドナルドを使用したり、髪を切るのにサンキューカットのようなサービスを主に利用することには、それなりに理由があります。
それは、日本全国どこに行っても同じ要望に対して、同じサービスが受けられることと、中の人の「事情」や「感情」を見なくていいから、ということが理由です。それにそれらの店舗は、コンビニの店員とは違って私語も少ないです。陰で客の悪口を言っているのではないか?というような不安も感じずに済みます。
そして、それらのサービスが「ファスト」であることで、多少「待つ」ことがあっても、「しょうがない」で割り切れる部分であることも重要です。
もちろん、それらのファストサービスの店員も、同じ人間だし、働いている以上、何かしら不満があったり、理不尽な扱いを受けたりすることだってあるでしょうが、それが職務に現れず、一切サービスに見えてこない、という部分に関しての「プロ意識」については、本当に僕自身、利用していて感謝したいし、見習いたい部分でもあります。

先ほど、「氷山の見える部分しか見ていない」云々と書きましたが、サービスを提供する側と受ける側の人間関係の理想的な距離感というのは、「氷山の見える部分だけで接することができる関係」なのかもしれません。

連絡帳に現れる記述する人の人間性

本当はこういうことは自分の中にだけ留めておいて、墓場まで持っていく方がいいのですが、どうやら僕は周囲から見て「わかりやすい」性分らしく、体調が悪い、機嫌が悪い、そういったことがすぐに「顔に出てしまう」のだそうです。それは「悪い」といったマイナスの部分だけでなく、例えば「ゴンチャのタピオカミルクティーがおいしい」時は、本当に人生の至福のような顔をしているらしいのです。厄介なことにそれらは全部、僕の無意識で行われる表情なので、自分でコントロールできないのが厄介です。
でも、逆に言うなら、僕がどんなに機嫌や体調が悪くても、ゴンチャのタピオカミルクティーさえあれば、すぐにケロっとしてくれる、単純明快な人間であることがわかるので、それはそれでいいのかな、と気に病まないようにはしています。

僕の勤めているセンターでも、他のデイサービス同様に「連絡帳」なるものがあります。それの記述をすることも大切な職務のうちの1つです。

僕が書いた連絡帳の利用者へのメッセージ
ガラにもなく「季節」の事象について書いています。

この連絡帳というツールは、正直、なくなってくれたり、あるいはデジタル化できると、かなり業務の効率化ができるツールではあるのですが、僕個人としては、結構やっていて面白い仕事でもあるため、なくなって欲しくないツールではあります。

僕は割と「交換日記」的なツールが好きだったりして、これは小中学生の頃から変わらない部分で、担任の先生との「交換ノート」も、担任の先生からすれば、単なる面倒な職務の1つだったに過ぎなかったのかもしれませんが、僕は楽しみで書いていた部分がありました。
中学や高校になると、それが先生相手でなく友人や交際相手だったりと対象が変わっていく訳ですが、今もわざわざスマホのEメールで、やっている相手がいるくらい(残念ながら交際相手ではありませんが)、文章を交換することが好きだったりします。このNOTEは無料のサービスを使っているため、コメントをつけるリアクションをすることはできませんが、「♡(スキ)」を付けてくださる方には、更新するモチベーションを分けてもらっています。

この連絡帳。実際、連絡帳のメッセージを書いて、返信が来ることは、あまりないのですが、家族の方が教職だったり、あるいは利用者自身が元教員だったりする人だと、ほぼ確実に返信が返ってくるのが面白いのです。
そういう利用者さんには、本当に職務であることを忘れるくらい、僕自身、心を込めて、当日利用中にお話ししたことや、体操でやったことなど、丁寧に1行に込めて書かせてもらっています。

ただ、僕自身プロ意識が薄いな…と思う部分でもありますが、この1行に人知れず、自分の感情を込めているのは何もプラスの部分だけではありません。

例えば↑のように、まるでポエムのような季節の事象を書いていた場合。これはここだけの話。僕があまり連絡帳のメッセージを書くのが乗り気でない人や、書くことがなくて困っていることを意味しています。

つまり、あの文章の意味を要約すると、
「今日は連絡帳に書くことがありません。ごめんなさい。」
という意味が本当の意味なのです。

いずれ、その理由自体でNOTEに1つ記事ができるくらい書くことがあるので、また別の機会に詳しい話をしようと思いますが、僕の技量で、「氷山の見えない部分を見せずに、気持ちよく利用してもらう」サービスはここまでです。

ただ、せっかく書いた連絡帳を見ることもなく、自宅に持ち帰るのが面倒だから、とセンターの靴箱に入れて帰るような利用者に関して言えば、話は別です。もちろん本人に直接はいいませんが、僕も「それなり」の対応しかしません。

そんなこんなで、以前から書きたいと思っていた僕自身の仕事中の心のやり取りの部分を書いてみた訳ですが、いつもの記事と同じように、書きながら自分で気づいていった部分もあり、反省した部分もありました。
だからと言って、すぐに気持ちや接客のやり方が変わる訳ではありませんが、今月は研修資料のため、認知症の資料と身体拘束の資料を同時に作り、早く整理したい部分のあったので、文章にまとめました。

福祉関係の文章は、挿絵や画像が使いづらくて、文字ばかりで読みにくくなるのが難点だと思いますが、最後まで読んでくれた方には、本当に貴重な時間を割いてくれてありがたく思います。

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