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平成3年 酢酸の思い出

クオリティはほぼ求められない あたり焼き

スタジオの門を叩いてから3ヶ月。モデル撮影を任されるようになる。
それでも底辺は変わらないので、深タンクでの現像は続いた。
深タンクとは30cm四方、高さが1mほどのタンクである。
大量の現像液を秘伝のタレのように、減った分を補充して使う。
慣れると同時に5本現像できる。
一度作ってしまえばランニングコストは低い。
欠点は液温の管理。
縦に長いのでタンクの上と下では液温が異なる。
冬は棒状のヒーターで温め、湯もみのように撹拌して20℃を保つ。
夏は30℃近くまであがるが、氷で冷やしても20℃にはならなかった。

「いくら残業をしても俸給は同じ」

30℃:6分で現像する。
理由は時間短縮と粒状性・コントラストは求められないから。

ネオパンSS。確か1953年発売で常に改良されてきたフィルム。
今もACROSという名になって現存する。

タフなフィルムで、高温現像でもさほど粒子は荒れない。
1段半ぐらいの過不足でも普通に焼けるし、デザイナーからのクレームは一切なかった。

この頃までの暗室作業は憂鬱で仕方なかった。
「いくら残業をしても俸給は同じ」だから。



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