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てくてく書店散歩~SUNNY BOY BOOKS再訪編~

 ぽかぽかした日差しにひんやりとした風が吹き抜ける秋の日。私はSUNNY BOY BOOKSへと足を運んだ。この書店に来るのは2度目である。1度目は同行者がたまたま見つけてふらりと入った。それからずっと気になり続けている書店だ。

 今回は池田彩乃さんの個展を目当てにやってきた。石がテーマとなっている「礫の歌」。綺麗な石模様に惹かれて行かねばと思った。


 余裕を持って出発したからか、開店3分前に到着する。入り口の脇で待っていると、店員の女性が扉を開き、開店の準備を始めた。12時になったことを確認して中に入る。思いかけず出待ちのような感じになってしまった。
 店内は相変わらず本がぎゅっと詰まった秘密基地のようだった。真っ先に池田さんコーナーを眺める。『この世の本屋で待ち合わせ』が気になっていた。実物はさらに美しく、待ち合わせた本屋のことを考えて握りしめる。
 『礫の歌』も美しい。4種の表紙をぼんやり見て、これだ、と思ったものを手に取ると最後の1冊だった。水の流れ、水面だろうか。白の線が青に映えている。
 その隣に小さなノートが置いてあることに気づく。近くにはペンもある。宿にある訪問記録のようなものかな、と思って開くと、「なんでもノート」と記されていた。感想以外に、叫びたいことも書いていいらしい。SUNNY BOY BOOKSで池田さんの詩に出会ったこと、初めて人に勧めたことなどを書いた。文字を書くのが楽しかった。
 奥に小さな緑色のソファが置いてある。レジの前から入り口までの壁に、池田さんの詩と写真が飾られている。角に置かれたうすむらさきのリンドウの花、白と黒の額縁、白いプレートに黒の文字。静謐さに息を詰める。
 「わたしたちの水辺」という詩があの表紙の写真と共に飾られていた。だから水に見えたのだろう。本当は、町の写真だった。水も町も変わりゆく。流れる。この光景に惹かれた理由がわかった気がした。
 池田さんの詩は、祈りに似ている。こう在りたい、在ってほしいと願う祈りの歌だ。
 私は切り取られた景色と言葉のある空間をさらに切り取ったあと、レジへと向かった。最後の一冊なんですよ、と話しかけられて驚いた。ここに並べてあるものがすべてだったのか。池田さんもお気に入りで、一番よく売れたから、念が通じたのかも、と話す店員さんは静かに微笑んでいた。
 
 世界はまだこんなにも澄んでいる。静かな鷹番の住宅街、うっすらと雲がかった高い空を見上げ、私は大きく息を吸った。透明な、秋の匂いがした。

今回散歩した書店

池田彩乃さん


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