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原宿駅に背を向けた時、いっぱしの東京人になる

田舎から上京し、キラキラと輝く瞳で見上げたあの日の原宿駅。レトロで愛らしい姿で、田舎者の私に明るく微笑みかけてくれた・・・。

なんて思い出は存在するはずもなく、私の知っている原宿駅はいつも混雑していて、全貌をお目にかかれるのは日が暮れてから、目に焼き付いているのは夜の姿だ。

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初めて降り立つ原宿駅。

田舎から上京して間もない私が人の波をかき分けることなど、到底できるはずもなく、「竹下口」も「表参道口」も中国語にしか見えないままに、ただただ流れに乗って改札を出た。言い訳に過ぎないけれど、当時は内装工事の真っ只中で駅構内は、近年よりずっと分かりにくかった。

「どこがラフォーレ?」

「この交差点渡れないの?」

「ていうか人多過ぎ!」

初めて見る原宿駅からの景色は、「ウォーリーを探せ」の世界だった。カラフルなファッションの人々、入り組んだ道とそこに埋め込まれた様々な店・・・。地元のタバコ屋のおっちゃんに「ここが原宿駅だ」と言われても、ああそうかと飲み込めるほど想像通りではない。でも、ハーフ顔のおしゃれなお姉さんにそうなのだと言われたら「なるほど、ここが原宿駅か」と空気と一緒にストンと落ちるくらいには、まあつまりギリギリのラインで原宿駅然としていた。どうやら、ラフォーレやらキャットストリートは、駅から見える訳ではないようだ。

さて、買ったばかりのiphone4に目をやって、Googleマップを開く。上京する前からZipperでチェックしていた古着屋さんを探し、ショッピングという名のGoogleマップとの格闘劇が始まった。(GPS機能も今ほど優れてなかったので、思うように目的地に着かなかったんです・・・)。

同じ道を行ったり来たり、「こっちじゃない、あっちでもない」と、ハラハラしながらやっとの想いで目的のお店に着く。

高揚感で身体が火照り、「何か買わなきゃ」という気持ちだけが湧き出たが、センスやお金は降ってこない。実際ほとんど覚えていないけれど、スカートとベルトを買って帰ったような・・・。

帰り道、随分歩いたので、どうやら渋谷駅やメトロの駅の方が近いらしい。

でも怖い。

到着した駅と別の駅から帰るなんて、ついこの間まで30分に一本の電車で各駅間10分近く揺られていた私には、いくら何でもハイレベル過ぎる!!

当然、私は原宿駅に戻った。

歩き疲れた足で坂道を登り、ファストフード店の誘惑に打ち勝ちながら、ゆっくりかつ、波に乗るようにして帰った。

やっとたどり着いた原宿駅の、その優しい明かりを今でも覚えている。実家から遠く離れた大都会、当時若者のファッションやカルチャーのド真ん中にいた原宿駅。それなのに、まるで大きな森の茂みような木々に包まれ、「おかえり」と言うように、優しいおばあちゃんのような姿で立っていた。

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あの日から、幾度となく原宿を訪れた。

友達と連れ立ってラフォーレのセールに行ったり、わざわざ「裏原宿の」が強調されているような美容室に行ったり、代々木体育館のコンサートに行ったり。

そんな風にして、当たり前の遊び場の一つになった頃、原宿駅をあまり使わなくなった。

「ここまで来たら渋谷から乗ればよくない?」

「表参道ヒルズの前に集合ね」

「明治神宮前ならどの出口が近い?」

なんて言って、原宿駅を使わなくなったころ、「私も東京の人になっちゃたのかな〜」なんて、気取りながら思った。


次に原宿駅を利用するのはいつになるか分からないけれど、あの優しいおばあちゃんのような姿に、もう会えないと思うと少し寂しい。

あの日の優しい「おかえり」をありがとう。

原宿駅へ、感謝を込めて。

2020.夏



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