見出し画像

螺旋 センリーズ・きたしろ

前回のコラムのためだけに考えたタイトルがもう何の意味も持っていないので早くも後悔しています

暇つぶしにでも読んでください


「すぐこの後の予定聞く美容師です」
「天国」

「国語の漢字テストの漢字、教室の掲示板から探そうとする奴です」
「地獄」

「マリオカートでぶっちぎり1位の時、ゴール直前で止まって2位のプレイヤーが来たらゴールする奴です」
「地獄」


うんざりだ

天界は本日も大行列である


「円書くの異常に上手い数学教師です」
「天国」

「シーブリーズのふた、女子と交換する野球部です」
「地獄」

「サイコパス診断でサイコパスになろうとしてわざと変な答え言う奴です」
「地獄」

「カラオケでスマホ耳に押し当てて今から歌いたい曲聴く奴です」
「天国」

「後ろ姿だけ可愛いブスです」
「地獄」


今日も彼は並んでいる人間を淡々と天国と地獄に仕分けていく

ここはいわゆる死後の世界というやつだ

彼がこの天国行きと地獄行きの仕分けをするようになったのは何年か前に彼が死んでこの天界に来たときである

生前にしていた裁判官という仕事を買われ、前任の人物に半ば押し付けられる形でこの仕事は彼のものとなった

俗に言う閻魔大王だったり閻王と呼ばれるようなものに近いだろう

しかし閻魔大王と聞いて誰もが想像するような大きい図体なわけでもなく髭を蓄えているわけでもない

見た目も並んでいる者たちと変わらずただの人間である

一つ他と違うとすれば恨みを買わないために、ということで顔に黒い布をかけているくらいである

最初の何ヶ月かは自分の裁量のみで他人が地獄に行くという罪悪感に耐えきれず天国行きを連発し天国側からクレームが入ったこともあった

天国の入り口の前に「満」とネオンの赤字で書かれた看板が出たときには天国もラブホテルと同じシステムなんだと驚いたものである

しかし慣れとは早いもので次第に地獄に人を堕とすことにも何も感じなくなり今では淡々とこの作業が出来るようになった

「テラスハウスに住んでいました」
「地獄」

死んだ人間は生前に犯した罪を告白しそれを聞いた彼が天国か地獄行きかを決めるという簡単なシステムである

今日はどのくらいかかるだろうと長い行列をうんざり眺めながらまた感覚を無にして作業に没頭する

「サイゼ満席で名前書いて待つときに自分の好きなメンバーの名前書くジャニオタです」
「地獄」

「行った日が定休日だったからという理由で食べログ☆1つける奴です」
「地獄」

「モロゾフのプリンの容器そのままコップとして使う奴です」
「天国」

「好きな芸人のポーズでプリクラ撮るお笑いファンです」
「地獄」

「#画像の方々応援していますの画像四枚の中に何故か自分のプリクラ入れてるお笑いファンです」
「地獄」

「好きな芸人の漫才終わりのお辞儀してる瞬間の画像Twitterのヘッダー画像に設定してるお笑いファンです」
「地獄」

「お笑いファンで
「地獄」

「スーパーの買い物カート駐車場にそのまま置いていく奴です」
「じ……」

いつも通り地獄と言いかけたところで思わず言葉が止まった

目の前にいた人間は彼が生前よく見た人物であった

「あの、どうされました?」

やっぱりそうだ

妻である

彼がまだ生きていたときに愛した女性が目の前に立っていた

「あの、大丈夫ですか?」

狼狽える彼女の前ですぐに平然としたフリをして彼は答えた

「大丈夫です、すみません」

彼は生前仕事にばかり時間を費やした男であった

ほとんどの時間を仕事に使い自宅に唯一帰るときは睡眠をとるときのみだったと言っても過言ではない

夫婦で食事をとることすらほぼなかったと言えるだろう

全く家庭を顧みなかった彼だが一人残した妻のことがずっと気がかりだったのである

「それで、なんでしたっけ?」

「ああ、はい、スーパーの買い物カート駐車場にそのまま置いていく奴です」


ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

いつもなら即答で地獄やな〜〜〜〜〜〜〜

あの時々スーパーで見かける駐車場のカートこいつかよ〜〜〜〜

けどな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

妻やしな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

愛した女やしな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ご飯とかよく作って待っててくれてたなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

生前の良い行いポイントがご飯を作ったことによって50ポイント加算されるから今回の罪でマイナス30ポイントされたとしても……

「よし、天国」

彼が急に作り出したオリジナルルールの計算によって天秤は天国へと傾いた

「えっ、天国ですか?」

戸惑っている彼女に彼は再度答える

「うん、絶対天国」

しかし彼女の返答は予想外のものであった

「あの、実はまだあるんです、私普段サッカーとか興味ないのに日本代表の試合するときだけユニフォームとか着て試合見るんです!」

キツ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!

二個目か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

しかも一番浅い女がやるあるあるのやつとはね〜〜〜〜〜〜〜〜〜

けどな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

すっごい洗濯とかしてくれたしなぁ〜〜〜

洗濯は良い行いポイントかなり高めで80ポイントはあるからそれによって導き出される計算はっと、

「天国」

「万引きで店4つ潰してます」

なるほどなるほど〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アルティメット万引き犯ね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

キツ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

愛した女がアルティメット万引き犯キツ〜〜〜〜!!!!

「て、天国……」

「妊娠してないのにマタニティマークつけてます」

「もうやめてください」

彼が彼女の言葉を遮った

「なぜ」

彼はずっと疑問に感じていたことを妻に聞くと決心した

「なぜそこまで罪を告白して地獄に行きたがる?」

彼がそう尋ねると妻はしばらく黙りこくり、やがて重い口を開いた

「一番大きな罪がまだあるんです」

彼女は続けた

「実は、私は夫を殺したんです」

妻が静かな口調でそう呟いた


「あの〜すいやせん、まだかかりそうですかい? 後ろがかなりつまってるんですが」


おい、一つ後ろに並んでいる前歯が欠けて頭髪の禿げ上がったお前

絶対に今ではない

絶対に絶対に今ではない

妻は後ろの男の発言を無視して続けた

「私の夫は仕事を常に優先して家庭を全く顧みない男でした。私は彼から愛を感じられなかったのです。だから、だから、ほんの出来心で夫がいつも飲んでいる常備薬を睡眠薬に変えてしまったんです。飲まなければ飲まなくて良い。それくらいの軽い気持ちで。けれど夫はそのままガードレールにぶつかる交通事故で亡くなりました、おそらく私が変えた睡眠薬を運転前に飲んだのだろうと思います」

妻が続ける

「私が殺したようなものなんです。夫が死んで時間が経てば経つほど夫が家庭のことを考えていたからこそ仕事に励んでいてくれたのだと気付かされました。お願いです、私を地獄に送ってください」

静かに聞いていた彼が口を開いた

「天国」

「なぜですか!? 私が夫を殺したようなものなんですよ!!!」

「それでもあなたは天国に行くべきです」

「なぜ……!!!!」

彼女がそう言ったときに男は自分の顔にかかっている黒い布を上げた

「あなた……??? どういうこと……!!!!」

「全て、知ってたんだよ」

妻は驚いた顔でこちらを見ている

「あの、まだかかりそうですかい? もうかなり待ってるんですが、おしっこがしたくて」

オーケー前歯ナシハゲ野郎、お前はユニセフの創立者地獄確定だ

「僕の薬を違う薬に変えたのは気づいてたんだ。薬は飲んでいない。僕が死んだのは本当にただの交通事故さ」

彼は続ける

「だから君のせいじゃないんだ、もう君が気に病む必要は全くないんだよ。ずっとすまなかったね」

妻は手で口を押さえ嗚咽を漏らしている

「それ以外の色々なことは天国で話そう、僕もじきに行く」

妻は静かに頷いた

「天国」

彼はもう一度そう呟いた

「天国で待ってるから」

妻が大きな声で泣きながら叫んだ

その身体がゆっくり浮かび上がっていく

そしてやがて消えていった

彼は涙ぐみながら彼女が消えた今は何もない空間をしばらく見つめていた

目を閉じて涙を拭き気持ちを切り替える

よしとりあえず今日の残っている仕事を一つでも早く終わらそう

今日で閻魔大王は卒業だ

そして妻とゆっくり生きている間は取れなかった時間を天国で過ごそう

死んでからでも良いじゃないか

どんな物事にもいつだって始めて遅いなんてことはないのである

次に並んでいた小汚い男が口を開く

「一つ前の女の旦那です、二人で飲酒運転して高速のガードレールに突っ込んで死にやした」


■センリーズ プロフィール
きたしろテコンドー近藤のコンビ。
きたしろの趣味は音楽鑑賞、独唱。特技は当たり前に皆が思っていることを大きい声で言う。
テコンドー近藤の趣味は動画鑑賞(海外のオーディション番組をひたすら見ている)。特技は優しい声で尾崎豊のアイラブユーを歌うこと。

センリーズINFO

著者/センリーズ・きたしろ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?