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「奇跡のコンビなんですよ、俺ら」 2人がしずるで居続けられる理由

この春、芸歴19年目を迎えたしずる。今年に入って池田がKAƵMAに改名したのも記憶に新しい。常に話題に事欠かないコンビだが、NSCで出会って結成してから現在に至るまでには当然さまざまな紆余曲折が存在している。まったく違う性格に、「好きじゃない時期」も明確にあったという2人が、今もコンビで居続けられている理由とは――。


“東京吉本のコントを変えたのは9期のしずる・ライス”説


――以前マヂカルラブリーさんに取材したとき、野田さんが「キャラクターコントが主流だった東京吉本のコントが、NSC9期のしずるやライスから変わっていった」と仰っていたのが印象に残ってまして。

村上:あっ、それ、聞いたことあります。

KAƵMA:そう言ってくれてるらしいですね。

村上:ね。たしかに、僕らが入ったときに1期上で活躍されてた方たちって、セブンbyセブンさんとかこりゃめでてーなさんとか、キャラクターコントがすごい多かったんですよ。僕ら1年目のとき、作家さんに「しずるのコントはボケてないんだよね」って言われて「何言ってんだろう、この人」って思った記憶があります。それくらい当時は、ボケてツッコんでボケてツッコんで、それがコントだって感じだったんですよね。でもずっと仲良かったライスも、そういうコントじゃなかったんですよ。だからライスとずっと一緒にいた影響もあるのかもしれません。周りにたまたまそういうコンビがいたから。

KAƵMA:正直、新しくもなかったですからね。だってバナナマンさんや東京03さんは昔からそうだったわけだし。

村上:でも吉本の中ではいわゆるキャラクターがあってボケてツッコむコントのほうがウケてたんで、そこのジレンマはありましたね。

――2人はなぜそのスタイルを選ばなかったんですか?

KAƵMA:そのときは村上がネタつくってたんで、俺は別にキャラコントをしたくないとかできないとかはなくて……あ、でも芝居で見せようっていうのはあったかもしれないっす。当時、ストレスたまりまくってたんですよ。「なんでつまんない人の書いたネタやんなきゃいけないだろう」って。

村上:「つまんない人」まで思ってたんか(笑)。

KAƵMA:思ってた。

村上:じゃあなんで組んでんだよ。

KAƵMA:奇跡ですよ。奇跡のコンビなんですよ、俺ら。

村上:(笑)

KAƵMA:その頃に関町から借りたバナナマンさんのビデオが、僕が言うのもなんですけどめちゃくちゃ面白くて。俺、それまでネタっていうものをあんまり観たことがなかったんですよ。東京はネタ番組あんまりやってなかったよね?(村上のほうを向く)

村上:そうだね。

KAƵMA:ヒゲそんな生えてんの!?!?!

村上:えっ、うん。稽古中ってことをアピールしようと思って、剃ってない。

KAƵMA:しかも、ものもらいもできてるし。びっくりした! ずっと正面見てたから、横向いたら全然いつもと違うヤツだったんだけど!

村上:ヒゲ生えてものもらいできてるヤツ(笑)。


KAƵMA:ヒゲ生えてものもらいできてるヤツだ。なんだお前(笑)。話戻すと、バナナマンさんのネタを観て、リアクションとか表情で見せる演技がすごく面白かったんですよ。そのときから、そういうところで笑いを取ろうと思ったのかもしれないですね。


村上:そもそも僕も、最初にとんねるずさんが好きになってダウンタウンさんも『ごっつええ感じ』で好きになって、そのあとカリカさんが好きになってその流れで吉本に入ってるんですよ。3組とも、コントのときにいわゆるボケとツッコミってやってない。だから自然とそっちを選んだんじゃないですかね。それこそ池田が言ったみたいに、新しいとは思ってなかったんです。


「池田大好き芸人」を楽しんだ村上、悔しがってほしいKAƵMA

――今年3月には『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「しずる池田大好き芸人」がありました。村上さんはご覧になりましたか?

村上:はい、観ました。めちゃくちゃ面白くて普通に笑いました。僕が知ってる池田という人間の内面が、名だたる先輩同期後輩たちによって全部プレゼンされてて。

KAƵMA:う〜〜〜ん、悔しがってほしいっすけどねぇ。俺からしたら。

村上:いや、悔しくないとは言ってないよ。悔しかったら面白いって思わないってこともないじゃん。

KAƵMA:でも俺、聞いたんですよ。ルミネでジャンポケと一緒だったときに、斉藤が俺のところに来て「いま純さんに『アメトーク、池田のフォローありがとな』って言われたんですけど、なんなんすか?」って。なんか、村上があたかもしずるの窓口みたいに「ウチののフォローありがとな」って……。

村上:いやいやいや、そんな感じではないよ?

KAƵMA:俺の独壇場だったんだから、そこはちょっと入ってこないで?って思いましたね。

村上:いいじゃん、相方なんだから! 「慎二のおかげで池田がウケたよ」って言ったみたいに聞こえちゃってるけど、そんな言い方は全然してない。

KAƵMA:そういう感じが見受けられて、非常に腹立たしいというか。


――悔しがってほしかったんですね。

KAƵMA:はい。楽しんでほしくない、ひとつも。

村上:性格が違うんですよね。逆だったら、池田は絶対悔しがると思うんですよ。

KAƵMA:そうっすね。俺は絶対観ないです。

――今の個々の活動を見ていると、それぞれがやっていることの方向性がいよいよ真逆になっていってるように思うんです。村上さんはエッセイ『裸々』(ドワンゴ)を書いたりバッファロー吾郎Aさんと「聞く」シリーズをやったり、お笑いについて掘り下げて真面目に語る機会が増えてますよね。一方でKAƵMAさんはYouTubeSNSしかり、ワイドショーでの吉本本社前コメントVTRの件もそうですけど、人の意表を突いて真面目には語らないというか。

KAƵMA:そんなことないっすよ。


――あ、すみません、違いましたか。

KAƵMA:……でもそうっすよね。そう見られますよね、当然。いや、僕も今ウソ啖呵切っちゃってすみません(笑)。


――失礼しました。煙に巻くKAƵMAさんと深堀りする村上さんで、逆方向への推進が加速してるなと。

村上:池田がどう考えてるかわかんないですけど、年取ればとるほど自分が本当にしたいことをするほうがいいなと思って。コロナ禍になって「聞く」シリーズを始めて、「俺、人にお笑いのこと聞くの好きなんだな」って思ったのもそうですね。そこでA先生と一緒にやれているのも大きいです。


――KAƵMAさんも、そこは村上さんと同じようなスタンスですか?

KAƵMA:好きなことをできるのが一番いいっちゃいいですけど……エレファントカシマシの歌で「迷ったら嫌だと思うほうをやれ」っていうような歌詞があって(「ロック屋」)。で、逆に岡村靖幸は「寂しくて悲しくてつらいことばかりならば あきらめてかまわない 大事なことはそんなんじゃない」って歌ってて(「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」)。どっちを信じたらいいんだろう?って思ったんです。それで今は先にエレファントカシマシの「嫌なことをやる」をやってるんですよ。数年後には、嫌なこと全部断って岡村靖幸さんのほうに振るかもしれない。だから僕の意思なんてどこにもないですね。エレファントカシマシか岡村靖幸かって感じでやってます。


全然違う2人をつなぐ、テレビドラマと名作4コマ


――エレファントカシマシといえば、村上さんのエッセイにあったエピソードが好きです。NSC卒業オーディション当日の朝、気持ちが高ぶった村上さんがKAƵMAさんに電話越しでエレカシの曲を聴かせてドン引きされた、という。

村上:恥ずかしい……恥ずかしいって言葉でも片付けられない所業でしたね、あれは。

KAƵMA:「はじまりは今」?

村上:そう、「はじまりは今」。しかも池田に借りたCDで。

KAƵMA:あれは嫌だったな〜。村上のことそんなに好きじゃないときだったんで、「あー、しんどいな。お酒が飲めたらな」って思いましたね。

村上:朝なのに。この攻撃が無敵なのは、池田に借りてたCDってところなんだよな。結果として、池田も少なからず加担してるっていう。

KAƵMA:うーん、そうね。なんなら、貸したの俺だから「いい」って思ってるんだよ、確実に。でも、本当にエレファントカシマシすごいなって思いました。あんなに嫌な状況で聴いても、ちょっといいって思える。

村上:当時、コンポだったんですよ。コンポのスピーカーにケータイ当てて音楽流した瞬間、通話口の池田の感じがわかったんです。不思議なもんで、無言でもスベってるのがわかる。そのときに見てたコンポの「KENWOOD」ってロゴ、忘れられないですもん。何も考えられなくてあの文字だけが目に写ってた。

KAƵMA:KENWOODに殺されるのかな?って思うよね。

村上:俺にとっての最期のシーン、「KENWOOD」なのかもしれない。

――しずるさんの走り出しとして象徴的なエピソードだなと思いました。それだけ性格が違う2人が、今に至るまで変わらずに共通している部分というのはあるんでしょうか?

村上:僕と池田の一番の共通項って、池田が変わってなければなんですけど、ドラマの『TEAM』(フジテレビ/1999年放送)が好きなんですよ。

KAƵMA:あ〜、そうね。西村雅彦さんと草彅剛さんが出てるドラマなんですけど、誰も観てないんです。

村上:西村さんと草彅さんが仲悪いバディ役で、少年犯罪を扱ってる作品なんです。シリアスで暗いんですけど、リアリティがあって。過去のドラマでベスト3に入るくらい好きなんですけど、ほかの芸人は全然知らない。それって「スラムダンクが好き」が共通してるのとは違うじゃないですか。

KAƵMA:あと、榎本俊二さんの『GOLDEN LUCKY』。村上に教えてもらって読んで、悔しいですけど「これは面白いな!」って。

村上:だから、やりたいことや好きなコントの感じは全然違うけど、「面白い」って思うもので重なる部分はあるんじゃないですかね。それが何もなかったらさすがに組んでられないですよ。

KAƵMA:たしかにな。


「もしかしたら、観ててすごく気分が悪くなる人もいるかも」

――現在、サルゴリラさん、ライスさん、作家の中村元樹さんとの“本気演劇ユニット”メトロンズの第3回公演『僕の大好きな最悪な飲み会』が控えています。今さらですが、お二人は演劇とコントの違いをどう捉えてますか?

KAƵMA:違い……なんっすかね? たとえばファミリーレストランの設定で、客として入ったら「あ、お客様、絶対お一人様ですよね」って店員がいきなり言ってきたのにそのまま長居するのはコントじゃないですか。普通そんなこと言われたら帰りますよね。そこで帰るのが演劇なのかもしれません。だから、モラルと呼ばれるものがあるのは演劇で、モラル・ハザードがコント。っていう分け方でどうでしょう。

村上:時代によっても全然違うと思います。いったら、新喜劇って新しいところはないじゃないですか。当時の喜劇からすれば新しいから「新喜劇」だったわけだけど、今では古典になってる。5GAPさんと空気階段では同じコントっていっても全然違うし、今逆に5GAPさんのネタを見た若手が「新しい」って言ったりするんですよ。だから結局、コントか演劇かっていうのも、そのとき観た人がそれぞれに決めることなのかなって。

――今回の公演の見どころはどんなところですか?

KAƵMA:たとえば飲み会なら飲み会で、それが好きな人もいれば嫌いな人もいる、好きだけど「この人とは嫌だ」って人もいる、嫌いだけど隠して参加してる人もいる。一個のことにいろんな認識がありますよね。そういうところで観てくれる方が共感したり楽しんでもらえる感じはあるかなって。飲み会にいろんな思いがある人は来てみていただけたら。俺は実際、村上に飲み会で嫌な思いさせられて「あぁ、二度とこの人とは飲みたくないな」って思った1人なんで、筆はすごい進みましたね。

村上:(笑)。池田は酒が一滴も飲めないんで、いちばん客観的に飲み会を見てるんですよ。

KAƵMA:俺は飲み会嫌いじゃないんですよ。でも酒飲んでる人って「なんだよ、飲めねぇのかよ」って言うじゃないですか。

村上:どうしてもマウントとりやすいのは飲むほうですよね。飲まない人が飲む人にマウントはとれないっていう、不平等から始まる場所。そこで飲む人飲まない人、飲めるけど飲んでない人、選択がある。それぞれに選択していった先がひとつの飲み会になる。そういうのが全国各地の各テーブルにあって、お酒飲まない学生さんでも、ひとつのテーマにおいていろんな人が一堂に会する場を経験したことがある人ならみんな覚えがあるところだと思います。同時に、ただ「あるある」では終わらない仕掛けももちろんあります。

KAƵMA:もしかしたら本当に、観ててすごく気分が悪くなられる方もいるかもしれない。

村上:それはあるかも。下手したら、同じ人でも観る日によって感じ方が違う可能性ありますね。

KAƵMA:そうっすね。もう一回来なくても、観た後に飲み会行ったときに思い返すだけでもいいです。飲み会前と後でもしかしたら印象が違うかもしれない。

村上:自分を重ねて笑っちゃったりとか嫌になっちゃったりとか、出てくる登場人物やシーンに自分の考えを混ぜて自分に戻ってくるみたいなものになると思う。それこそ、そういうのがコントではなかなか出せない演劇の部分なのかもしれないですね。


■しずるINFO

メトロンズ第3回公演「僕の大好きな最悪な飲み会」
日程:2022年5月4日(水)18:00開演 ※配信有り
    2022年5月5日(木)18:00開演
       2022年5月6日(金)18:00開演
    2022年5月7日(土)13:00開演/17:00開演
    2022年5月8日(日)13:00開演/17:00開演 ※配信有り
場所:赤坂RED/THEATER(港区赤坂3-10-9 赤坂グランベルホテルB2F)
出演:赤羽健壱、KAƵMA、児玉智洋、関町知弘、田所仁、村上純
脚本:KAƵMA / 演出:中村元樹

料金:会場 前売り・当日 5,000円
      配信 初日 1,000円 (全体が見やすい1カメラ生配信)
      配信 千穐楽 2,500円 (じっくり観れるカット割り生配信)


アフタートーク スケジュール
2022年5月4日(水)18:00公演
ゲスト:かもめんたる・岩崎う大 / 出演:KAƵMA×児玉智洋
2022年5月5日(木)18:00公演
ゲスト:南海キャンディーズ・山里亮太 / 出演:KAƵMA×関町知弘
2022年5月6日(金)18:00公演
ゲスト:伊集院光 / 出演:KAƵMA×村上純
2022年5月7日(土)13:00公演
ゲスト:パンサー・向井慧 / 出演:KAƵMA×赤羽健壱
2022年5月7日(土)17:00公演
ゲスト:ナイツ 塙宣之 / 出演:KAƵMA×田所仁
2022年5月8日(日)13:00公演
ゲスト:オークラ / 出演:KAƵMA×中村元樹

※配信はございません。
※アフタートークは本編終了後に行います。


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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希(CUBISM)
企画・編集/かわべり




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