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口の悪い少女 シゲカズです

今、雷で停電がありびっくりしましたシゲカズですと申します。

第2回目は口の悪い少女の初恋にまつわるお話です。

第1回をまだ読んでない方でも、楽しんでいただけるようになってますが、読んでから見ると7倍は楽しいラブストーリーです。

それでは最後まで読みハートを押すと好きな人と結ばれ幸せに暮らすという小説ですので、素敵な恋人が欲しい方や恋人と幸せになりたい方は是非お読みくださいませ。

第1回はこちら

初恋

5月27日 

「こんなとこ立つな邪魔やぶち殺すぞ」

ぼくが学級委員長の中村君のランドセルから財布を取り出しお金を抜き取っていると、後ろからそう声を掛けられた。

移動教室でクラスの皆がいない時間を見計らったのになと思いながら、抜きとったお金をこっそりポケットに入れ振り返ると長い黒髪の少女が鼻をピクピクさせながら立っていた。

同じ4年5組でいつも夕という女の子と一緒にいる鳥という女の子だった。見られたかなと思ったが彼女は気にせずぼくを押しのけ自分の席に向かいハンドタオルを手に取ると再び教室から出ようとぼくの方に歩いてくる。

「だるっ。一瞬で二回も視界に入んなやぶち殺すぞ」

一瞬で二回もぶち殺すぞと言われたのが衝撃だったからかもしれないし、ただ単に顔がとてもかわいかったからかもしれない。ぼくは初恋の記念にひとまず彼女に中指を立てた。


5月28日

「盗ったやつは正直に言え!」

朝のホームルームから先生が声を荒げているのを夕は窓際の席からぼんやり見ていた。どうやら学級委員長の財布からお金が抜き取られていたらしい。

「盗ったやつは正直に言え!!」

生徒をにらみまくりながら先生は同じセリフを繰り返す。夕が振り返ると一つ後ろの席では鳥が興味がなさそうに窓の外を見ていた。相変わらずどの角度でも超絶かわいいと夕は思った。

「盗ったやつは正直に言え!!!」

先生はセリフを変えず声のボリュームだけをどんどん上げていく渋いやり方で犯人を見つけようとする。

「盗ったやつは正直に言え!!!!」

クラスで一番明るい里山君がクラス全体に呼びかけるように、モノマネをしだす。これは長引きそうだと夕が考えていると、ふと右前の席の方から相沢君が夕と鳥の方に視線を向けているのが見えた。

相沢君は誰ともつるまず何をするにも一人の空気より薄い存在感の男の子で、その相沢君が先生の叫び声が響く中、観察するようにこちらを見ている。

「盗った!!やつは!!正直に!!言え!!」

そう先生が応援団のように腰に手をまわし、のけぞって叫びだした時、
夕の後ろの席の鳥が

「ずっとうっさいねん。この世の教師の中で一番はずれや」

と髪を耳にかけながら先生に悪態をつき、先生の腰が抜けた所で、犯人捜しはうやむやのまま終わったが、相沢君はホームルームが終わるまでこちらを見つめていた。

その日から一週間はクラス1明るい里山君を筆頭に、盗ったやつは!のモノマネがはやった。


6月5日
大モメの朝のホームルームから一週間がたち、クラスでは来週行く遠足についての説明が行われていた。ぼくはそれを聞きながら窓際の鳥さんという少女をいつものように観察する。


ぼくは物心ついた時から、あらゆるものを盗んできた。親の財布からお金を抜き、目の前に自転車が停めてあればカギを壊し乗り回し、お菓子売り場からお菓子が消えるくらい万引きをした。

おそらくぼくはいわゆる盗みの天才でばれたことは一度もない。ぼくには信頼をしている人間など一人も存在しないので罪悪感もない。
学級委員長の財布からお金を盗んだのも彼が毎日のように他の生徒からカツアゲをしていたので、一番お金が入ってるかなと考えただけだった。
しかし初めて初恋という問題が発生してしまう。


鳥さんに盗っている所を見られていたとしても、アリバイ等は完璧に確保していたので盗みがばれたりする心配はしていなかったが、彼女に嫌われているかどうかは大問題だった。

ホームルームで犯人捜しが始まった時、彼女をこっそり観察していると、ぼくが盗っていたという事実は発表する事もなく、興味がなさそうに窓の外を眺めていただけだった。

しかしその後の休み時間にぼくが隣の席にある筆箱からシャー芯を盗んでいると

「お前ずっとキモい目でこっち見てたやろ、二度と見んな見るなら金払えカス」

と言ってきたのでぼくの視線には気づいていたようだった。

ぼくは毎日彼女を観察し始めた。
彼女から出る汚い言葉は彼女にとって呼吸であり、
怒る時は髪を耳にかけ、イライラしてる時は鼻をピクピクさせ、楽しい時はほっぺたをぷくっと膨らませ、嬉しい時は目を見開く、照れる時は眉間にしわを寄せる等という彼女の生態を知った。

「何か質問はあるか?」

いつの間にか先生は説明を終え何故か鳥さんに向かって聞いていた。

「口開けんな。歯ぁがタンポポくらい黄色くて見てられへん」

そう鳥さんに言われ先生は「ごめんって」と言いながら教室から逃げるように出て行った。

彼女のかわいい口から繰り出される汚い言葉を聞く度にぼくは彼女に夢中になった。好かれたいとかおこがましい思いは全くなくただ彼女が楽しそうにほっぺを膨らましているのが見たいと思った。

その日の昼休み、彼女の芸術的な悪口を聞く為に彼女にどうやって話しかけようか、前の席のランドセルについてるキーホルダーを盗みながら悩んでいると、奇跡的に彼女から話しかけてきた。

「おい泥棒」

「なに?」

完全に泥棒なので否定はしなかった。

「貴様なんでもパクれるん?」

「まあなんでも」

「パクりたいもんがあるから、チクられてゴミのような人生送りたくなかったら全力でパクれ」

「おっけ」

どうやら彼女は遠足で行く牧場でほしいものがあるらしい。
ぼくは自分の才能を活かし彼女の目を見開かせるチャンスを得た。ぼくは嬉しさを隠す為に彼女に中指を立てた。


6月12日 朝9時

遠足当日。牧場の入り口で集合し整列しながら、夕は四人一組の班になり一緒に回る男子が誰になるのかワクワクしていた。
クラス1明るい里山君はクラスの全員に話しかけながら持ってきたお菓子を配っている。

適当に選んどくわと鳥が言っていたので夕は任せたが、できればかっこいい男の子を選んでほしいと強めに思っていた。

先生が班に分かれろと号令をし、各々4人一組に固まっていく。

「トリちゃん男子誰にしたん?」

「お前に関係ないやろクソアマ。口溶かすぞ」

めっちゃ関係あるけどもと夕は思いながら期待をして待った。


「おーい! 今日はよろしくな! とにかく楽しもや!」

とクラス1明るい里山君がスキップをしながら近づいてくる。

はい、はずれと。
夕は心の中でため息をつく。

いやもう一人いる、と夕は折れかけた心を奮い立たせる。

「よろしく」

そう後ろから声をかけられたので振り返ると、存在感が空気でおなじみの相沢君が立っていた。相沢君は鳥と夕の方をじっと見つめている。

夕はトリちゃんほんまに適当に選んでしまってるやんと絶望し気を失いかけた。
鳥が夕に駆け寄り話しかける。

「おいユウ白目なってんぞ、エロイこと考えてる?」

「エロいこと考えてない」

と夕は言い返したがなんでこの二人を選ぶかねと思った。顔はまあ普通やけどなんか二人ともひょろひょろやし。
実際に鳥はひょろひょろ1ひょろひょろ2と名付けていた。

もう鳥と楽しむしかないかと夕があきらめながら四人で牧場内をいろいろ周ってみたがもちろんまったく楽しくはなかった。


6月12日 昼12時半

しばらく四人で行動した後、ぼくと鳥さんは夕さん達をこっそりまいて、牧場内にあるシープショップという名前のお店に来ていた。

そこはぬいぐるみや乳製品など、様々な種類のものが売っているお店だった。
ぼく達は目的の売り場につくと、鳥さんが速攻で目の前の犬のえさの缶詰を掴み、そのまま店の外に出ようと歩き出した。

あまりにも堂々としていたので店員のおじさんにすぐ見つかり声をかけられる。店員のおじさんは初対面でも全員が嫌いになれるような嫌な顔をしていた。

「お嬢ちゃんそれ買うの?」

「あ? 話しかけんなや人生の敗北者」

おじさんは驚いていたがすかさず言い返す。

「じゃあそれ何や。万引きする気か?」

「なんでこんな腐った店の腐った商品パクらなあかんねん腐ったおっさん」

「おいクソガキええ加減にせえよ」

と興奮しながらおじさんが鳥さんの腕を掴もうとした所で、

「誰か! きもいおっさんがめっちゃ触ってくる! おっぱいとか! おっぱいとか!」

鳥さんが叫ぶ。いつの間にか店内にいる人達は鳥さんの方にくぎ付けになっていた。

「お、おい、お前、嘘をつくな!」

とおじさんが戸惑っていると、鳥さんは持っていた缶詰をおじさんに投げつけ、店の外に走り出したのでぼくもその後ろを続く。

ぼく達は店から離れた丘の上まで来て立ち止まる。
彼女はしばらく息を整えた後ぼくに話しかけてくる。

「ほんでイケたんかいクズ」

「うん、盗れた」

彼女が騒ぐのは予定通りで、そのスキにぼくが目的のものを盗む作戦だった。

「雑に扱ってないやろうな。お前みたいなもんより1000倍大事やねん」

「大丈夫、ほら」

ぼくはポケットから慎重に盗ってきたものを取り出した。ぼくの手の中には、先ほど店から盗ってきた、店で販売しているインコが大人しく縮こまっていた。
マメルリハインコと言われる小さいインコだった。

シープショップというお店ではお土産等の他にインコのような小鳥も販売していた。

彼女はSNSでこの牧場を検索した時、先ほどのおじさんがインコ達に悪態をつきながらケージを乱暴に蹴り上げている動画が上がっていたのを見たようだった。
その動画は炎上し問題になりかけたが、牧場側が否定し謝罪したので特に何の処分もなく、その後は話題になる事もなかった。

ぼくは鳥さんが、おっぱいとか!と叫んでる頃にはケージを開け、マメルリハインコを取り出してポケットに優しくしまっていた。

「他の子らどうなったかはよ言えや役立たず」

「ケージからは出したから大丈夫やと思う」

店の方を見ると、ケージから出したのと同じ数の小鳥達が空に向かって飛んでいくのが見えたのでそちらを指さす。

「これであのおっさんが苦しんで死んで地獄に落ちたら、死んでもええ」

彼女は目を見開きながらそう言った。

6月12日 昼13時

夕が仕方なく鳥とひょろひょろ1を見つける為にひょろひょろ2とシープショップというお店に着いた時お店の中はざわざわしていた。
どうやら販売している小鳥達が全逃げしたらしい。
夕が目を向けると店員らしきおじさんが、スーツ姿の小太りのおじさんに泣きそうになりながら頭を下げていた。

「なんて事をしてくれたんや! クビや!」

「社長! 勘弁してください」

夕はかわいそうと思うよりはおじさんがとても嫌な顔だったのでなんだかスッキリした。


6月12日 昼13時半

彼女はマメルリハインコをぼくから奪い、優しくなでたり話しかけたりしていた。

内容は

「お前見てたらネギマ食べたくなってきた」

みたいな事ばかりだったが、インコには彼女の愛情が伝わっているようだった。

「この子飼うの?」

「うちのインコが死体なってすぐ新キャラ飼うわけないやろ」

彼女は少し前飼っていたインコが亡くなったばかりらしい。

「じゃあどうするの?」

「質問ばっかすんな。口無くなれや」

彼女はずっと頬っぺたを膨らましているのでぼくは何を言われても幸せだった。
鳥さんがインコと遊んでいる間、持ってきた「かずのこの里」というチョコレートのお菓子を食べて待っておく事にした。
箱を開け彼女にも渡す。

「えのきの山やったら、目つぶしてるとこやったわ」

「ぼくはどっちも好きやけど。まあぼくと名前も近いしなんとなく」

そう言っても彼女はポカンとして言い返してくる。

「ひょろひょろ1ごときの名前をわたしが知ってると思うなよ」

「里山です。何回も言ったで」

6月12日 昼14時

鳥とひょろひょろ1ことクラス1明るい里山君が居なくなってからしばらく経ち、夕はひょろひょろ2こと相沢君と立ちすくんでいた。彼からは何もしゃべらないので無限に気まずい。
何とか話題がないかと夕が考えた結果、

「そういえば相沢君、トリちゃんよく見てるよね? 好きなん?」
会話が下手すぎていきなりぶっこんでしまう。
相沢君はびっくりしたような顔をした後大きく首を振る。

「違う」

「え?」

「ぼくが見てたんは君や」

そう言って相沢君は耳を真っ赤にしながらうつむいている。

は?

夕はぶっこんだ結果、違う角度のぶっこんだ答えが返ってきた。
とりあえず慌てていることを相手に悟られないように

「あーなるほどーわたしねー」

と軽くイキりながら夕は返した。


6月12日 昼14時半

「貴様いつもわざとおもんないことしてるから見てられへんねん」

「まあそうしてる方が何かと便利やから」

鳥さんはぼくが先生のモノマネをしたりしてる事を言っているのだろう。その方が盗みをする時に都合がいいのでそうしているに過ぎない。人は何かあれば暗くて人に好かれていない人を疑うものだ。例えば財布からお金が盗まれたらど真ん中で大騒ぎしている僕が疑われる事はない。

ぼく達は牧場を見下ろすような丘の上にあるベンチに並んで座っていた。彼女はぼく達の間に自分のカバンを進入禁止の看板のように置いている。近くにある時計を見ると集合時間がもうすぐだった。

「そろそろ行かないと」

「糞泥棒のくせに時間を守ろうとすんなよおもんない」

そう言いつつも、彼女は撫でていたインコを掲げるように手のひらを広げる。
マメルリハインコは最初動こうとしなかったが、彼女の手のひらをつんつんとくちばしでつつくようにお別れの挨拶をした後、
空に向かって飛び立っていった。

「気持ちよさそうに飛ぶね」

「気持ち悪そうに飛ぶほうがむずいやろアホなんか」

「まあまたなんでも困ったことがあったら言ってや」
「わたしが貴様ごときに話しかける事は一生ないけどな」

瞬時に罵倒されるやり取りがとても心地いい。

「まあそう言わんと。僕は鳥さんの事が好きやからさ」

テンポのいいやりとりのついでに告白してみる。


「急にうざすぎ。わたしの方が好きやし」


ついでに告白返される。彼女は目の前に復讐相手がいるように眉間にしわを寄せまくっている。

ぼくは気づかれないように彼女のカバンの方に盗みをする時と同じく静かに手を伸ばす。

「もう一回言ってくれる?」

「今すぐ死ねばいいのにと思ってるよ」

ぼくは嬉しさを隠すため中指を立てようと思ったが、ぼく達は手を繋いでいたのでひとまず彼女の手を強く握りしめた。


シゲカズです プロフィール
NSC大阪校 31期生。
趣味は散歩、温泉巡り。特技はイラスト、気持ち悪い人と友達になれる。

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著者/シゲカズです

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