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口の悪い少女 シゲカズです

降りしきる雨の中のシゲカズですと申します。

この度短編小説を書かせていただくことになり、マジ幸せという感じです。ありがとうな。

今回のお話は毒舌というよりはナチュラルに口が悪い少女の、一話完結としてもつながったお話としても見られる、iPadみたいなお得小説となっております。

今の何を言っても炎上する時代には意外と彼女のような存在がかっこよく映るかもしれません。

ぜひ叩かずに優しい目で見守ってあげてもらえたらと思います。

それでは最後まで読みハートを押すと夢が叶うといわれている小説ですので、夢を叶えたい方は是非お読みくださいませ。

下校


7月10日

「おいユウ、もっと早く歩けやキモいんじゃ」

小学校からの帰り道、少し後ろを歩くわたしに鳥ちゃんが振り返り言ってくる。

「ごめんトリちゃん。いつも通り歩いてるつもりやったけど」

「言い訳すんなよカスが」

鳥ちゃんがきれいな黒髪を耳にかけながら言ってきたのでわたしは足を速める。

同じクラスで近所に住んでいるわたし達は毎日一緒に帰っていた。

少し歩くとスマホをニラみながらあたりをきょろきょろ見回しているおじさんがいて、

「お嬢ちゃんたちこれどこにあるかわかる?」

とスマホの地図アプリを見せながら話しかけてきたが、

「知らんがなその辺のおっさんに聞けや」

と鼻をピクピクさせている鳥ちゃんに言い返され一撃で黙る。わたしはもう慣れまくったが、初めての人は大抵そのきれいな顔立ちの9歳の女の子から出てくるはずもない言葉を聞き動けなくなる。おもろい。

彼女と仲良くなったのはクラス替えして少ししたあと。
わたしはクラス替えしてすぐゴリゴリにいじめられていた。どうやらいつも窓際の席で本を読んでいる地味でわたしのようなはしっこ女子はクラスの真ん中の人達にとっては、いじめられっこの教科書のような存在らしい。

ある日の休み時間、いじめっ子たちは、わたしという的に向かって蛍光ペンを投げ、色がついた場所によって順位が決まるというゲームをしていた。

何人かが投げ終わり、最後のぽっちゃりガキ大将も同じように投げたのだが、そのペンが窓際の席でじっと耐えカラフルになってきているわたしの後ろの席で爆睡していた鳥ちゃんに当たった。

彼女は顔を上げると投げた男子の方を見て

「クソデブが何しとんねん死ねや」

と右耳に髪をかけながら言い、続けざまにいじめっ子全員を心の傷がついていくのが目に見えるくらいボロクソに言い、最終的には言葉だけで全員を泣かしきった。最後はわんわん泣いているいじめっ子たちを呆然と見ているわたしを見て

「お前彫刻刀で彫ったみたいなボコボコした顔でいろんな色ついててキモいねん」

とわたしにまで言ってきてマジかよ?と思ったが、それ以来わたしは鳥ちゃんにくっつくように一緒に過ごすようになり、いつの間にかいじめられなくなった。

ずっと一緒に過ごしてみてわかったのは、彼女は天才的に口が悪いだけで別に性格が悪いわけではない(良いとも絶対言えない)。口が悪すぎていつも怒っているように見えるが、よく観察していると彼女は感情を言葉ではなく動作で表していた。

例えば怒っている時は必ず耳に髪をかき上げる。

給食で好きなカレーが出てきた時のような嬉しい時は目をおもっきり見開く。

ずっと飼っていた「わたしのクローン」とまで言っていたインコが死んだ時のようなさみしくて悲しい時は不良が喧嘩する前みたいに指の骨をポキポキ鳴らす。

ほかにも楽しい時は頬っぺたをぷくっと膨らませ、イライラしてる時は鼻をピクピクさせ、てれている時は眉間いっぱいにしわを寄せるなど、わたしはあまりにも一緒に鳥ちゃんと過ごしていたのですべてわかるようになっていた。

「おいブスはよ行くぞ」

「ごめんボーっとしてた」

「一緒に帰ってるやつおんのにボーっとする意味わからんカスすぎ」

道を聞いてきたおじさんが呆然と立ち尽くしている横を通り過ぎ再びわたし達は歩き出した。

鳥ちゃんは道路の白線の所だけを踏みながら帰る遊びをしている。

「白線のくせに細いねん。歩きづらいからもっと太い線になれや」

彼女は無表情に頬っぺたを膨らませながら白線に悪口を言い十字路を曲がりわたしもその後ろをついていく。

「ここの信号一生変わらん、死んでほしい」

「たしかにこの信号は長いねえ」

赤信号で立ち止まりながら信号の文句を言っていると隣で同じく信号待ちをしているおばあさんが鳥ちゃんに優しく笑いながら話しかけてくる。

「まあかわいいねえ。学校帰り?」

「ランドセル背負ってんねんから見たらわかるやろババア。おまえ誰やねんザコが」

おばあさんは笑顔のまま凍り付いていたが、

眉間にしわを寄せているからてれてるだけよおばあさん、あとババアではあるけどザコではないよ、とわたしは心の中でおばあさんを励ましていた。

ようやく信号が変わると鳥ちゃんは横断歩道の白い所だけを飛ぶようにすばやく踏み歩いていきわたしも追いかける。

「飽きた。いつまでやらせんねん」

「自分で始めてたよ」

閉じられた踏切の前で立ち止まり彼女は鼻をピクピクさせる。

「終わった。二度と帰られへんかも知らん」

「ここは開かずの踏切って言われてるからねえ」

そう返しながらわたしはふと、鳥ちゃんの女子でもうっとりしてしまうきれいな横顔を見つめる。マジで顔はかわいい。マジで。

「何見とんねんどっかいけや」

「ごめん。たしかにほんまかわいいと思って」

カンカンカンと踏切がなっている中わたし達はたまにだまったりたまにしゃべったりしていた。

今度は鳥ちゃんがわたしの方を見つめてくる。

しばらくだまって彼女は口を開く。

「乳出てくるん早ない?」

「出てないし女の子が乳とか言わんほうがええよ」

何故か目を見開いてそう言ってきたのでわたしははずくなり胸元をかくすようにする。

「なんかおもろい話ないん。びっくりする話とか。ないかお前みたいなもん」

「まだ何も言ってないやん。んーこの前お父さんがよっぱらって帰ってきたときに」

「もう最初がおもんない。帰れ」

カンカンカンカン

「この前先生が体育でケガした話は知ってる?」

「知ってるしあのハゲはもっとケガしてくれていい。消えろ」

「あんまりハゲとか言ったらシュクセイされるよ」

カンカンカンカン

わたしは少し考えて、言おうか迷っていたことを言ってみる。

「わたし今度引っ越すねん」

カンカンカンカン

「飽きた。だまれ」

結構気合を入れていったのにリアクションうすと思ったが、

鳥ちゃんはじっと立っているだけなので何を考えてるかわからない。

わたしがとまどっていると電車が通り過ぎ踏切が開き鳥ちゃんが勢いよく歩き出したのでわたしもあわててついていく。

「わたしトリちゃんに引っ越すこと言ったっけ?」

「聞いてない。うちのババアがユウんとこのきちゃないおばはんから聞いたって言ってたから知ってた」

「わたしのお母さんをきちゃないおばはんて呼んでるん?」

わたしは自分が引っ越すと知った時、鳥ちゃんと離れ離れになるのがいやだったのだが、

彼女は何もなかったかのように早歩きでわたしの前を歩く。

わたしが少しだけがっかりしているといつの間にかわたしの家のすぐ近くまで来ていた。
空が少し赤くなってきているのを見たところであることに気づいた。

思わずにやけてしまう。

「学校出て一時間くらいか。いつもよりちょっと遅くなっちゃったね」

「お前がとろいからやろ。マジで終わってる」

「いつもの道で帰ったら20分で帰ってこれたよ」

「言い訳すんな言うてるやんけカスが」

「一緒に帰れるんもあとちょっとやね」

「声が小さい。最悪や」

鳥ちゃんはずっと指をポキポキと鳴らしながら厳しい言葉を続けてきた。空の赤さが増していく。

やっぱり最初からわたしはいつも通りの速さで歩いていたのだ。

今日の鳥ちゃんはいつもより早歩きで、わたしは彼女の少し後ろをついて帰っていた。

曲がらなくてもいい十字路を曲がり、

止まる必要のない信号で立ち止まり、

家とは程遠い踏切で立ち止まりながら彼女の背中を追いかけた。

多分彼女はわたしと帰れるのがあと少ししかないことを知っていたから、長く一緒にいられるように遠回りをしてわたしをひっぱるように歩いたのだろう。

「空を見んな。足を前に出せ彫刻刀フェイス」

多分。

わたしの家の前に着き、家の窓の方を見ると鳥ちゃんが言うところの、きちゃないおばはんが晩御飯を作っているのが見えた。
まあ……きちゃないか……。

わたしは立ち止まり口を開く。

「じゃあまた明日」

「明日がいつもあると思うなよ」

食い気味に鳥ちゃんが指をポキポキならしまくりながらそう吐き捨て、自分の家の方に早足で歩いていき、わたしは玄関に向かう。

ポキポキという音が遠くなっていくが、すぐにまた近づいてくる。おやおや?

振り返ると鳥ちゃんが眉間にしわを寄せながら立っていた。おやおや?

「さっきあそこの角で光ったの見えたん100円やったかもしらん。見に行くぞはよ来いゴミクズ」

わたしはすぐに頬っぺたを膨らませながら彼女の横にいく。

わたし達は怖い人が喧嘩しに行くみたいに二人とも指をポキポキ鳴らしながら、角までゆっくり並んで歩いた。


9月1日

二学期の始業式が終わり、鳥は一人で帰路についていた。

夕が住んでいた家の前で立ち止まる。

売家と張られてる看板を見つめ

「何でおらんねん」

と耳に髪をかけながらつぶやく。

自分の家に着き日課である家のポストを開き、ゴミでしかないチラシたちを順番に地面に投げ捨てながら見ていると、鳥あての小包が入っていて、それは夏休み前に引っ越した夕からのものだった。

鳥はその場で小包を破り捨て中を確かめると、中には手紙と一緒に彫刻刀で何かが彫られた木の板が入っていた。

とても汚かったがよく見ると女の子二人が並んでいるようなデザインであることに鳥は気づいた。

鳥は無表情に目をギンギンに見開きながら声を出す。

「彫刻刀フェイスはお前だけやんけ。ストレスや」


シゲカズです プロフィール
NSC大阪校 31期生。
趣味は散歩、温泉巡り。特技はイラスト、気持ち悪い人と友達になれる。

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著者/シゲカズです

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