「歯車」「歯並び」(2023/12/02)

 自分の歯並びが嫌いだ。笑うたびにグロテスクなまでの口元が表れるのがどうしても許せなくて、自然と笑わないように笑わないように自分を抑えつけるようになった。

 私の住む街にリサイクルショップがある。誰もが名前を聞いたことのある大手チェーンというわけではない。開店当時から張り替えてないのであろう燻んだテント看板に「なんでもあります徳田リサイクルショップ」と書いてある、個人店舗である。
 時折そこにふらっと立ち寄って、その中で一番投げ売ったろう値札がつけられているものを買う。
 それらは大抵なにか致命的な欠陥を背負っていて、他人事とは思えないのである。
 先日買ったのは置き時計だった。全体を見回してもメーカーがわからない。文字盤は手書きで何か書かれていたみたいだが、掠れて分からない。針と一部装飾が金属であるがほとんどが木製で、いかにも年季が入っている。
 加えて「正確な時刻を示しません」との注意書きの通り、出鱈目な時間を示す時計だった。
 全く困った時計だが、修理すればきっと使える。欠陥があっても生きて良いのである。

 今日は時計屋に件の時計を迎えに行く。
 家に帰ったらどこに置こう。穴の空いたソファから見やすい位置がいいな。ノイズの取れないテレビの台の上か、それとも何故かいつも少しうるさい冷蔵庫の隣か。
 こんなことを考えるのが一番楽しい。人生はそんなもので良いのかもしれない。
 時計屋に行くと、店主のお爺さんは半ば興奮気味に言った。
「お客さん、これ壊れてないよ」
 理解が追いつかない私にお爺さんは続ける。
「これね、和時計だよ。見てここ」
 お爺さんは置き時計の中身の一部分を指した。そこには、歯の一部が欠けたような歯車があった。私には欠陥にしか見えない。
「これ虫歯車って言ってね、昔の人が作ったすごい歯車だよ。簡単に言うと昔の日本のややこしい時刻を自動で示してくれるっていう画期的な歯車なわけ。これ作った人頑張ったんだね。自分でここまで作れるってすごいよ」

 お爺さんの熱弁を後にして、帰途につく。私は家の前にあるゴミ捨て場で立ち止まった。
 明日がちょうど粗大ゴミの日であることを思い出して、修理帰りの時計をそっと置いた。

お題提供:ピカソケダリ メロス(歯車)/ポポポ(歯並び)

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