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【親の金でハワイに行く③】ハワイの朝
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小鳥が三匹並んでいる
ハワイで一番好きな時間は間違いなく朝だ。波の音を聴きながら、世界三大コーヒーの一つであるコナコーヒーを飲んだ人々がゆっくりと動き出す。こんなに優雅な朝はきっとハワイにしか存在しない。
僕の普段の朝はと言えば、家を出る20分前というギリギリのアラーム設定で眠れるところまで寝て、結局出発5分前に起床。眼鏡を掴むこともできず手探りで洗面台まで辿り着きながら顔を洗ってコンタクトを入れ、何故かそこら辺に落ちている服を掴んで着替え、鏡を見ることなく家を出る。ボサボサの髪の毛は帽子をかぶって誤魔化し、伸びすぎたヒゲはマスクで隠し、疲れと眠気で震える膝を叩いて起こし駅まで歩く。
だがハワイの朝は違う。
まず起きると、海がある。海に朝日が煌めいている。
なんなら小鳥が三匹並んでいる。小鳥が三匹も並んで止まっているのだ。三匹も。
こんな朝なら僕は何度だって早起きするだろう。毎日のようにコナコーヒーを淹れて小鳥達と一緒に優雅な時間を楽しむに違いない。(多分もって3日)そして優雅な朝を楽しんだ後は、日本人観光客相手に現地ガイドとしてシュノーケリングツアーを先導するのだ。
実際にワイキキには数え切れないほどのコーヒーショップの名店がある。そんな優雅な朝活の中でもハワイを象徴するホテルのモーニング、ハウツリーに朝から僕たちは向かった。
ハウツリー
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日本人的に直訳すると、「どうやって、木?」になるわけで、それがこのおしゃれなホテルのレストランの名前になってるのだから、もう僕らはきっと一生英語を喋れることはないだろう。
全席オーシャンビューとなっており、本当に気持ちが良い。
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僕らはこの木の下の席でご飯食べており、この木がハウツリーのツリーか?と話していたのですが、誰か真偽を教えてください。
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ただ…実は母が来ていなかった。
母は昨日から熱を出してしまい、今日ここに来る前に父が病院に連れて行き風邪と診断されてしまった。
ハウツリーを一番楽しみにしていたのは、母だった。母が自ら早い段階で予約してくれたからこそ、僕らはハウツリーのツリー部分と思わしき特等席で朝食を食べることができたのだと思う。
にも関わらず当人は不在で…母がどれだけ楽しみにしていたのかを思うと、正直に言えばパンケーキも味しないように感じたし(めちゃくちゃ美味しかった)、オーシャンビューも色褪せて見えた(めちゃくちゃ綺麗だった)。
そして母が熱を出したことで、この後の予定が一度全て白紙となったのだ。とはいえ僕も30だし、妹ももうバリバリのキャリアウーマンである。
良い大人だし、自然な流れで今日は各々自由に行動しよう…!ということになった。
ハワイで1人で行動するなんて余裕余裕、という感じで同意したのだが内心とても不安だった。これまで小判鮫のように30になってもなおこのハワイの地で父と母について行っていた僕…。そんな僕が、1人でハワイを巡ることなんて出来るわけがない、なんならしたくもない。何か理由をつけてホテルに引きこもっていようか…ベランダで海を見ながら持ってきた本を読んでいるだけでも最高なはずだ。そう思っていたところ、父に声をかけられた。
「車で買い物してこようと思うけど、行きたいところがあるならおろしてやろうか?」
「ホノルル美術館に行きたい」
僕は何故かそう口走っていた。
ホノルル美術館
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僕みたいな親不孝息子の要望が通るのであれば、密かに行きたいと思っていたのがホノルル美術館である。
僕は年に5回も美術館へと足を運ぶ大の美術ファンであるが、去年上野でモネ展を見た際、一番有名なモネの絵がないぞ…?と思って調べたらここにあるとわかって、それ以来行きたかったのだ。
何も知らない僕は、ハワイの美術館なんて大したことないんでしょう、くらいな気持ちでモネを見るためだけに足を踏み入れたのだが、とんでもなかった。
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構内はとてつもない敷地面積を誇り、カフェがあったり、いくつもの中庭(それぞれに美術モチーフがあったのだが全て忘れた)があり、とてもではないが1日では見切れないほどの展示が並んでいる。
僕は10分くらい歩き回ってどこからみて良いのか全く分からず、ガイドブックのようなものがないか探したのだがそれもなかった。
英語が喋れないなりに誰かに聞くしかないな…という決意を少しずつ固めながらロビーに戻り、意を決して聞いてみた。
「ガイドブックのようなものはありますか?」
受付にいた感じの良いお姉さんは、何やら長い英語を喋っていた。笑っていたので笑い返せばよかったのだが、なめられたくなかったので真顔を保った。最後に僕は、サンキューと言ってその場を離れて、しらみつぶしに歩くしかないという覚悟を決めた。
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ひっろい!訳がわからないくらい広い。僕の住んでいる神奈川県の生田の街より広いかもしれない。後で調べたら、アメリカの美術館の中でも第三位にランクインする5万点ほどのコレクションを貯蔵してるらしい。モネどこだよ!
後どうでも良いが僕が浪人を二回して入って留年を二回した挙句退学した大学に似ている。この無限に続く美術館の敷地が、僕のことを責めているようだった。どうしてやめたんだ。どうして留年したんだ。東進ハイスクールと河合塾と駿台全ての予備校に一年ずつ通った分と、大学6年分の学費を返せと、ホノルル美術館が熱で浮かされている母の代わりに僕に叫んでいるようだった。
だがどんな旅にも終わりは来る。
僕はひたすら逃げ続け、走り続け、そしてありとあらゆる展示を見て、道がわからなくなって何度も見て…そしてついに…!!
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見つけた…!!!
モネ…!!
日本から探し続けてきたモネ…!
ここまで来るともはや、モネの絵を見れた感動よりも、モネの絵を探し当てたという達成感でしかなくなってしまっている。
しかも、入口からすぐそばのところにあったのだ…灯台下暗し。印象派を代表するモネの特徴的なタッチに自分の目にたまる涙がさらに色合いを抽象化させ、僕は1人で目的地に辿り着けたという、芸術とは全く関係のない感慨を抱えてモネの前に立っていた。
帰りは父が迎えにきてくれた。車に乗り、ハワイで1人で美術館を回ることなんて当然であることのように至って普通に話す。
そして帰り道、薬局に寄って母に薬を買った。病院でもらった薬よりも効くというよくわからないネット情報に踊らされて、頼まれたらしい。
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本当に良くないのだが、母に何かを買って行ったことが人生においてほとんどない気がした。
ハワイで薬局に寄って薬を買うというのはきっと、普通ならなるべく避けたいイベントのはずだが、なんだか妙に嬉しかった。
自分も家族の役に立てている気がしたのが誇らしく、そして心から母が明日の最終日はハワイを楽しめると良いなと願った。
どうやらモネが、僕を一回り成長させてくれたようだった。
(ラスト④へ続く…!)
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