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管理棟ライブ!

二月三日(日) 曇り 南緯六九度、東経三九度
 今日はずっと大型大気レーダー周辺の除雪作業をした。観測活動中にずっと腰痛に悩まされてきたが、それも今日で最後。ツルハシを持つ手も自ずと力が入る。力が入った分だけ腰に響く。それも今日で最後。腰痛すら愛しい。
 夕食の時間になり管理棟二階の食堂に入ると、ご馳走が並んでいた。ローストビーフ、寿司、カルパッチョサラダ、チキンカレー、グリーンカレー……。昨日、調理米田さんから夏隊に食べたいものを聞かれて私は「カレー」と答えた。二種類も作ってくれるなんて、ありがたい話である。
 夏隊お疲れ様会。机の上にピラミッドのように積み上げられたビールやジュースの缶の山があり、それぞれ思い思いの飲み物を手に取ると、冬月隊長の挨拶があった。
「皆さん、夏期間中に予定していた観測、設営、輸送全ての作業が完了しました。夏隊の皆さん本当にお疲れ様、無事に日本に帰れることを願っています。越冬隊の皆さん、引き続き頑張っていきましょう! それでは皆様、乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
 飲んだ。大いに飲んだ。食べた。大いに食べた。ローストビーフもカレーもカレーも食べた。南極で臨時結成されたロックバンド、ザフォックスロットの演奏もあった。メンバー設営設楽、多目的安寺くん、気象上田氏、そして私。設楽の歌声はいつも以上に迫力があり観客を魅了した。安寺くんのギターはソロパートで鳴きに鳴いた。上田氏のドラムは興奮で走りがちになるテンポを抑えることで独特のテンポになりグルーヴ感が増した。私も皆の演奏に食らいつくようにベースを弾いた。間違えたって構うもんか。このメンバーでの演奏は最初で最後でメンバーはそのことがわかっているので必死だった。本来の実力以上の実力が発揮されたと思う。観客はリズムに身を委ねて踊りサウンドに酔った。演奏前から泥酔している人もいたが。隊員達は娯楽に飢えていたのだと思う。氷に閉ざされた世界で労働と睡眠を繰り返す禁欲的生活。慰めは酒のみ。抑圧された娯楽への欲望が爆発したかのように踊り狂った。それは良いことだと思った。ザフォックスロットのライブは成功した。
 続いてLAN犬照さんが単独で皆の前に登場し、飄然とスピーカーから音楽をかけた。選曲は松浦亜弥の「イェーイ! めっちゃホリディ」。完璧なコピーだった。最高の踊り。隊員達は先ほどのライブ演奏を忘却し、犬照さんのパフォーマンスの虜になった。犬照さんにいつまでも踊り続けて欲しいと思った。終わってほしくない。このままずっと隊員達とおもしろおかしく暮らしたい。しかし、物事には始まりがあれば終わりがある。夏隊お疲れ様会は大盛り上がりで幕を閉じた。
 明日、夏隊は昭和基地を去る。

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