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南極授業

一月二九日(火) 曇り 南緯六九度、東経三九度
 南極観測には情報発信の一環として「南極授業」なるものがある。小中高等学校の教員が観測隊に同行して南極に赴き、日本にいる自分の生徒や一般の人に向けて衛星回線を通して南極から授業をする。いは隊では教員派遣の福井さんが同行した。福井さんは理科の先生。私は情報発信も担当しているので福井さんと何度も授業について入念な打ち合わせをしてきた。本日は授業本番である。「回線が繋がればほぼ成功」という先人達の遺言に従い、私は回線状況に注意した。南極日本間はちょっとしたトラブルで簡単に回線が遮断されてしまうのだ。大丈夫、今日は問題なさそうだ。
 昭和基地管理棟のモニターに、福井さんが働く高校の体育館に生徒が座っている様子が映し出され授業が始まった。福井さんは話す。
「南極は未知の自然現象が多数存在する場所、地球環境問題の解明に不可欠な場所です。その南極を調べるために観測隊がいます」
 それから昭和基地で設営作業をする隊員や、野外観測を行う隊員の動画が流された。隊員達が活き活きと働く映像。
「観測隊員は選ばれしエリートとという印象がありますが、決してそうではなく、皆自分の仕事を一生懸命する人ばかりです。真剣に仕事に取り組んだ結果、南極で働く機会を得た人達です」さすが先生、良いこと言いやがる。生徒からの質問もあった。
「南極では風邪をひかないって本当ですか?」
「風邪の原因になるウィルスは寒さに弱いので南極の空気中にはいないそうです」
「髪の毛が伸びたらどうするんですか?」
「他の隊員に切ってもらいます。私もこの授業のために散髪をお願いした結果、角刈りにされてしまいました。似合いますか?」
「……」
  授業の終了時刻が近づき、最後に福井さんが生徒に話す。
「自分が好きなこと、大切なことに一生懸命取り組んでいけば、色々なチャンスが巡ってきます。気が付けば観測隊になっているかもしれない。皆さん、興味を持ったことに、是非、挑戦してください」さすが先生、良いこと言いやがる。角刈りのくせに。

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