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百合(短編小説)


劇団ロオル公演【モノクロ】より

百合(ゆり)スピンオフ小説

モノクロ公演DVD https://gekidanrole.thebase.in/items/2551608

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百合


城下の街はとても賑やかで、人々は明るく、嘘のように幸せそうだった。市場は活気があり、広場では子供たちの声と女たちの賑々しい笑いが通り抜けていく。幸福を絵に描いたような人々に百合は驚いた。
こんなにも平和で大丈夫なのだろうか、と。隣を歩く万里(ばんり)も、先頭を行く千年(ちとせ)も、きっと同じように思っているに違いない。
城下に入ってから二人の足取りは重く、歩みは遅くなっている。
自分たちの過ごしてきた場所とは余りにも違う。
「くそ、」
ふと万里が舌打ちをした。その気持ちは百合も共感が出来た。自分たちを今まで散々虐げてきた国の人間たちが、こんなにも幸福感に満ちた屈託のない笑顔を見せて、苦しみも何も知らないような顔をして生きているなんて、これまでの自分たちの生活を顧みればどうにもやり切れず、胸の中がじくじくと痛んで息が苦しくなる。
「行こう。」
千年に促され、百合たちは城の中へ入っていった。

百合たちの住む村がこの大国によって火を放たれ焼き潰されてから数日。千年、万里、百合は国より城へ呼び出された。村を守るために剣を振るった千年と万里はその腕を買われ、武人としてこの国の手足となる事を望まれていた。始めは拒否していた二人も、百合を含め生き残った者たちの命の保証を提示され、首を縦に振ることを決めた。兄弟同然に過ごしてきた百合を含めた三人で向かう事を条件に招集を呑み、ついに今日、この憎むべき大国に隷属するのだ。

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