満月(詩)


配信用に書き下ろした朗読用の詩 作・本山由乃

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満月

満ち満ちて
流れず
月は丸く
口を開く
青黒い 潮の香りと

飲み込まれていくようだった、空に。
砂利が背に刺さる痛みにようやく、
転々とした星に気付いた。

これから、
こらからを、
これからは、

接続詞の波に流され攫われゆく。
その先が、泡となってゆくのをひらすら眺めて、
眼を閉じた。

内臓に響く波音の低温、
夜の海、
その向こうは闇、
黄泉、が口を開く。

流れゆく、のだろうか。
放り出された四肢は動かない。
流されてゆきたい、のだろうか。
声も出ず、
しばらくの死を揺蕩う。

どうせ、
どうせあと数時間。
あと数時間で全てが終わる。
うすぼけた中で、今に引き戻されてしまう。

それまではこのまま、
何事もない細波でいられますように。



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