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【小説】外異魔のツドイ #2

 十年前——。  凪渚は、夢中で走っていた。母親に右手を引かれ、左腕でお気に入りのぬいぐるみを抱え、小さな両足は火を吹きそうなほど忙しなく地面を蹴っていた。  小学生になったばかりの渚は、あの日、普段通りの休日を自宅で過ごしていた。  誕生日にプレゼントしてもらった色鉛筆で絵を描いていると、突然、遠くから地響きが近づいてきた。音がはっきりと聞こえるころには、家ががたがたと揺れていた。渚は母親に抱かれてダイニングテーブルの下に潜り、揺れがおさまるのをじっと待った。恐怖で固まっ

    • 【小説】外異魔のツドイ #1

       うっかり季節をひとつとばしたような暑さだった。  六月に入ってから振り続けた雨がようやくあがり、東京の各区で記録した降水量と、今年初の真夏日になりそうだという予報が、朝のニュース番組を賑わせた。ついでに、今年の夏は例年以上に暑くなる見込みらしい。この時期になると毎年誰かがそんなことを言っている気がするが、それが常に当たれば東京はいつか人が住めなくなる。  昼休み前の授業はホームルームだった。凪渚は担任の話を真面目に聞くふりをしながら、教室の窓のぴったり閉じられたカーテンを

    【小説】外異魔のツドイ #2