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経理ミスがいくらだと会社はつぶれるのか。

まだ時効にはなっていないので詳細は書けないけれど、記憶の薄れないうちに残しておく。
ある年度末の月曜日、出社するとA3にぎっしり数字の詰まったEXCELが添付されたメールが来ていて、「そのメールについての説明をしたい」と上司に呼ばれた。いつもの明るいノリではなかったので、何かあったのだと気づく。
説明を要約すると、期末の数字が億を超えて合わないので過去の全ての帳簿を洗い出したい。
ついては要員が足りないので各部署から数名出してその帳簿をすべて見直して欲しい、という要請が経理から出たので、うちの部も協力するというものだった。
ちなみにすべての帳簿の年数は2~3年という短い期間ではなく、加えて協力要員として呼ばれたメンバーは経理担当ではなかった。
いったいどういう意味なのかさっぱり分からないし、そもそも経理でもない人間をそんなに集めて、何をしようというのか。
しかもその業務は公ではないので、通常業務とは別に静かにひっそりとおこなってほしいという要望もあった。かくして、声がかかった私たちはただでさえ繁忙期の年度末の業務に加え、秘密のミッション業務に就くことになった。 

古いデータはPCには残っていなかったから、倉庫に行っては埃まみれのキングファイルを探し出して、必要なデータをコピーし、数字の裏付けを順番に録っていったのだった。
ちなみにファイル保管の期限というのは社内では「5年」と決められているのだが、当時は書類事態も多くなく、保管スペースに問題もなかったので軽く10年分は残されていた。

秘密のミッション業務はなんと三カ月続いた。

最後まで会社はこの経理問題を社員に公にすることはなかったが、調査終了後に社長は交代となった。代表取締役といっても、オーナー企業ではないのでAがダメならBとあっさり替えるだけ。
この帳簿の期間に社長は数人交代していたので、彼だけの責任ではないと誰しも分かってはいたが
発覚した際の社長が責任を取るのが常だから、しょうがなかった。

しかし、このミッションについた人間としては、公にできないにしても解明はしたかったので社外の人にもさりげなく聞き込みなどをして、自分なりの情報は集約していった。

毎年来ていた監査法人の監査はちゃんとおこなわれていたのか。
今回いきなりその不正が公になったのはなぜか。
ずさんな帳簿というが、そもそも経理は担当者一人ではなかったのにダブルチェックしていなかったのか。どうやって数字を操作していたのか。

まず、監査法人自体は当然ではあるがちゃんとした会社だった。ただし、この経理担当と監査法人の担当は本当によく会食に行っていて、無防備なことにその会食の予定は社内の共有スケジュールに記載されていた。経理の担当者がその人になってから、カレンダーがいつも会食で埋まっていることは社内でも有名で、何となくよくない噂はささやかれていたから、そこからの推測はおおよそ当たっていた。いわゆる「忖度」である。
そして、何をきっかけにその不正が公になったかといえば、監査法人が変わったからだった。
人が変われば忖度なしの指摘になる。
次に、経理部門は当然一人ではなかったのだが、すべての権限をその担当者が集約していて、まとめのところは誰もダブルチェックをしていなかったことが分かった。
各部門から提出される数字は、その時点では生データだったのだが、経理担当のところで違う数字に変更されていた。
しかも、集約されてからの資料が配布されると、その時点では生データがどのように加工されているのかはわからないようになっていて、詳細を知るのは経理と営業の一部だけということも判明した。

表題の、「いくらの経理ミスだと潰れるのか?」という疑問に対し、「二桁の億でも潰れない」のが答えだ。会社の規模にもよるので、一概には言えないがたった数十万でも期日に間に合わなければ潰れるが、この金額でも潰れない会社が日本にはまだ多いのも一つの事実である。

そして、くだんの経理担当者はさすがに従来の業務は外れたものの、未だに働いている。

その人を解雇すると、三カ月では見つけられなかった事実が発覚することを会社が恐れて解雇ができないというストーリーだ。半沢直樹よりはるかにドラマティックな展開。          事実は小説より奇なり。

春からお金に関係する業務が加わることになった。「マルサの女」をもう一度見ようと思う。

温かいお気持ち、ありがとうございます。 そんな優しい貴方の1日はきっと素敵なものになるでしょう。