見出し画像

【1眼レフの威力】

昭和60年に「つくば万博」が開催された。

・・・・・・・

せっかく東京にいるんだからと、同じバイト先の女の子を誘って2人で行ってみることにした。

・・・・・・・

会場は凄い人出で大変に賑わっていた。

僕は写真というよりもカメラが好きだったので、中古品だけれども、首には1眼レフが2台ぶら下げられている。

PENTAX―SPに50㎜の標準レンズを着けたものと、Canon―AV―1に200㎜の望遠レンズを着けたものだった。

2・3ヶ所のパビリオンを見て回ったあと、遊園地のようなエリアに行ってみた。

ゴンドラをワイヤーで吊るした回転ブランコに乗ろうということになった。2人は恋人でもなんでもないのだが、シートが2人掛けなので、並んで一緒に乗ることにした。

スピードが上がっていくにつれて、遠心力でゴンドラが横に拡がっていく。かなり怖い。女の子はキャーキャー言う。僕も腹に力を入れ、脚を踏ん張って耐えた。

最高速に達したころだ、腹筋に力を入れたためか、こともあろうに急にお腹が痛くなってきた。ブランコどころではなくなった。

《ヤバイッ❗️・・・》

回転ブランコで、しかも女の子の横で洩らしたりするわけにはいかない。

しかし一旦振りがついたゴンドラはなかなか止まらない。

やっと地表に帰ってきた。恥ずかしいなどと言っている場合ではなかった。女の子にも事情を話すや、小走りで一番近くにあるパビリオンに向かった。

入口に立っているコンパニオンに泣きついた。

「申し訳ないんですが、トイレ、お借りできますか!」

「はい!ご案内致しますので、どうぞこちらへ・・」

彼女はお客さんが行列を作っている所とは別の入口に案内してくれたのだ。どうやらそこは報道関係者などのための専用の入口みたいだった。

中に入るとコンパニオンはトイレまで案内してくれた。そして用を足しホッとして出てきたら、外で待っていてくれたのだ。VIP待遇だった。

1眼レフを2台持っていたので、おそらくは報道機関の人間だと思われたのかも知れない。

さて、まさか下痢の一件で愛想をつかされた訳ではないのだろうが、あれからその女の子とは疎遠になった。

無論、ひと括りでは言えないが、女性というのは少々のことで動揺するような存在ではないということを、以後〈素〉の女性の姿に触れて理解するまで、暫くの時間を要することになる。

男3人兄弟で育った僕は、どうしても女性を聖母のような純粋なものだと考える傾向が強かったのだった。

要するに、彼女は、僕には気が無かったということである。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?