30代からの語学5 私の勉強法

前回は「無理のない勉強法」というテーマで「続けるための勉強法」を紹介した。一言でまとめると、「とにかく諦めなければ楽しいこともあるし、達成感を得られる日も来る」という考え方だ。

続けることが大事なのは分かったとして、具体的な勉強方法はどうすればいいのだろうか。この問いには唯一の正答と言えるものがなく、自分の学びたい外国語と好みの学習スタイルによって最適解が変わる。つまり、自分に合った勉強方法を模索するのが大切だ。自力で模索することに不安を感じる人がいるかもしれないが、相性の良い勉強方法が分かってくると語学の時間が心地よくなってくる。

今回は勉強方法の一例として、私の語学の進め方を紹介しよう。ただ、正直に言ってしまうと他人の勉強方法を聞いても自分に合わなければ大して参考にはならない。それでも、一応言語学で博士学位を取得して大学で外国語を教えている身なので「言語学者の勉強方法」として読んでくださるのであれば少しは楽しんでもらえるかもしれない。私個人の語学経験なので中国語やベトナム語の話になってしまうが、他の言語でも進め方や考え方は応用できると思う。

大学での中国語学習 単語集を使わない勉強 

振り返ってみると、高校でも大学でも英語は嫌いだった。大学受験のために文法問題集や単語集を使って全く馴染みもないことを半ば強制的に暗記するだけで苦痛だったし、英語のテキストの当たり障りのない世界事情の解説も非常に退屈だった。そういうこともあって、学生時代の英語学習は今の私の語学スタイルとは完全に断絶している。

大学では第二外国語で中国語を始めたが、なぜか妙に相性が良かった。21世紀に入ったばかりの頃だが、TVでよく流れていたサントリー烏龍茶のCMで耳にした声調の響きが単純に綺麗だった。それに、少しだけ必修単位は課せられていたものの、大学として外国語を学ぶことがほとんど強制されていなかったから文法や単語を無理やり暗記する必要もない。ということで、サントリー烏龍茶のCMをイメージしながらひたすら音声教材を朗読する日々だった。ちなみに、中国語の学習では単語集を買ったことも使ったことも一度もない。

この朗読が効果てきめんだったようで、初めての中国に行った時に現地の人ととても会話が弾んで心の底から楽しむことができた。この成功経験をきっかけに帰国後も勉強を続けていき(途中で中国語方言に気持ちがどんどん移っていったが)、気がついたら大学で教える立場になっていたというのが実情である。

30代から始めたベトナム語 長期的な目標を作る

30代から始めた台湾語とベトナム語は仕事や家事に追われながら勉強をするという新たな挑戦になった。さらにベトナム語を始めた後には娘が生まれて育児も加わった(忙しくても育児はすごく楽しい)。また、30代になると頭のキャパシティー(特に記憶力)が20代の頃と比べると明らかに低下してきた。学生時代の中国語の学習スタイルが通用しないのは一目瞭然だった。

そこで、学生時代のイメージを捨てて「続けるための勉強方法」を模索し始めた。2016年から始めたベトナム語の学習では最初にスタートダッシュをかけた後は、週に二、三回のペースで進めていき入門書を約一年間かけて終わらせた。学生時代と比べるとものすごく遅いペースなのだが特に焦る必要もないし、忙しい生活の中でも入門書をしっかり終わらせられたことの方がずっと重要で価値があった。

その後は、読解中心のテキストを買って音読をしながら進めていったが、かなりボリュームがあって大変だった(しかし、このテキストはベトナム語の初級をクリアした人には絶対にオススメだ)。ボリュームのあるテキストを前にすると「続けるための勉強」を心掛けていても徐々に先が見えにくくなってくる。そこで、勉強の継続を支えるための長期的な目標を三つ設定した。この目標設定がすごく効き、今に続く5年間の学習を継続する原動力となった。

①ベトナム語で新聞を読めるようになる。

私は外国語で新聞を読むのが好きだ。中国を訪れる時はなかなか自由につながらないインターネットを見るのにうんざりし、それならばと地元の新聞を買って一日かけて読むのを日課としていた。

ベトナム語の勉強を進めていく上でも新聞を読めるようになりたい、というのが最初の目標であった。今では世界中の多くの言語で地元のニュースサイトがインターネットを介して見ることができるため、新聞記事へのアクセスも昔と比べると信じられないくらい手軽だ。

2016年夏にベトナム語の勉強を始め、新聞が読めるレベルに達するまで約三年半かかった。時は2020年初頭、奇しくもパンデミックの初期のニュースを読むことになった。

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②越越辞典を使えるようになる。

私にとって「外国語ができる人」の判断基準は「その言語で書かれた辞書を使える人」、つまり「その国の国語辞典を使える人」だ。会話がうまいことよりも辞書を使える人の方がすごいと思っている。

例えば、中国語なら《现代汉语词典》、ベトナム語なら"Từ điển tiếng Việt"(越越辞典)が使えるレベルになると「やっと山頂が見えてきたかな」と大きな一区切りになる。達成感だけではなく納得感も出てくるのがこのレベルだ。

ただし、この目標の達成はかなり難しい。知らない単語の意味を理解するために辞書を引くのに、その解説に知らない単語が含まれていたら永久に意味を調べ続けないといけないからだ。 ベトナム語では5年間勉強を続けてようやく最近できるようになった。

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③ハノイでベトナム語を使ってフォーを食べる。

ストイックな目標だけでは勉強を続けるのがしんどくなるので楽しい目標も当然必要だ。ベトナム語で楽しい目標はもちろん「食」である。こちらは勉強を始めて二年後の2018年の夏に最初の達成。その後も二回ハノイを訪れた。

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 ただ悲しいことに、2020年からのコロナ禍は語学を勉強している多くの人の「楽しい目標」を奪ってしまった。先が見えなくて諦めてしまった人もたくさんいるだろう。外国語を教える身としても、日々頑張っている人たちの努力が報われる日が一日も早く訪れることを祈っている。