Yasunori Takahashi

専門は言語学。とある神戸の大学で中国語を教えています。自分で色々な言語を勉強することが…

Yasunori Takahashi

専門は言語学。とある神戸の大学で中国語を教えています。自分で色々な言語を勉強することが好きで、30代に入ってから台湾語とベトナム語を新しく始めました。今は幼稚園児の娘の育児に四苦八苦しながらベトナム語学習にひたすら注力してます。

マガジン

  • ベトナム語書籍のブックレビュー&探し方

    ベトナム語の書籍に関する記事をまとめたマガジンです。ブックレビューと本の探し方の記事がメインです。

  • 30代からの語学 続けるための勉強法

    30代から始める語学について、始めるきっかけから勉強法、語学レッスンのTipsなどをまとめています。仕事や家事育児に忙しい30代のために「とにかく続けること」を目標とした語学スタイルの提唱です。

  • 中国のベトナム語 京語を探る

    中国の少数民族言語である京語の特徴を会話集の資料から整理しました。

最近の記事

ベトナム語の品詞分類1:Lê Văn Lý(1968)

現代の言語学は西欧が発祥地のため、必然的に英語・フランス語・ドイツ語などを基礎とした学問体系として成り立っている。19世紀になると西欧の国々が東アジアにまで進出しベトナムのように植民地となる地域も出てくるが、それに伴って言語学の概念も東アジアに浸透していく。しかし東アジアの言語は西欧の言語とは明らかに特徴が異なっているため、言語学の概念の中にはうまく落とし込むことができないまま21世紀の現代まで至ってしまったものがいくつかある。 そのような「消化不良な基礎概念」の一つが品詞

    • 英中越仏 4言語に挑む生活スタイル

      2024年度も始まりました。 教養外国語の体制や実施を取り仕切る専任教員の側にいると授業が始まるまでの時期の方が忙しかったりピリピリしているので、実際に大学全体で授業が始まると少しホッとします。 2月末にホーチミン市に行ったことや二村淳子先生の『ベトナム近代美術史:フランス支配下の半世紀』を読んだのをきっかけとして、3月からフランス語の勉強を新たに始めました。 ホーチミン市の近代的な街づくりの中にあるフランスの存在感の大きさに驚いただけではなく、ベトナムにおける学問や美術

      • ホーチミン市で本を探す2:書店の使い方

        前回の記事ではホーチミン市総合科学図書館の利用方法を紹介しました。 ざっくり要約しますと、ベトナム語能力があれば外国人でも入館証を作ることは可能ですが、図書の貸し出しやコピーサービスの提供はなく閲覧だけしかできません。 今回の訪問の目的は研究プロジェクトに関係する文献の収集ですので、図書館の中で何冊か目を通すだけでは成果が全く足りません。ベトナムを訪れるチャンスは一年に数回もないことを考えると、一回の渡航で半年〜一年間は読み続けられるだけの量の文献を持って帰りたいところで

        • ホーチミン市で本を探す 1:総合科学図書館

          私が主催している科研費プロジェクトの援助を受けて、2024年2月19〜24日にホーチミン市でベトナム語学に関する資料収集を行いました。 この研究プロジェクトでは「ベトナム人がどのようにベトナム語を研究してきたのか」を調べたいと思っているのですが、ベトナム語で書かれた書籍や資料は日本の大学図書館には大して収蔵されておらず、日本の本屋でも全く取り扱いがありません。最近はインターネット上で公開される論文や書籍も増えてはいるのですが主に欧米の研究者が英語で書いたものばかりで、ベトナ

        ベトナム語の品詞分類1:Lê Văn Lý(1968)

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        • ベトナム語書籍のブックレビュー&探し方
          6本
        • 30代からの語学 続けるための勉強法
          11本
        • 中国のベトナム語 京語を探る
          3本

        記事

          熱帯都市の歩き方1:プラン&移動編

          自分が進めている研究プロジェクトの資料収集のため、2月下旬にホーチミン市(サイゴン)に行ってきました。これまでベトナムはハノイばかりでサイゴンは初訪問だったため、資料収集の拠点である総合科学図書館以外にも街全体の地理感覚を掴むために少し時間をかけて街歩きをしてきました。 2月の日本は10度未満の寒い日がまだまだ続きますが、熱帯気候のホーチミン市は連日30度越えの真夏日です。知らない外国の街を歩くだけでも疲れが溜まりやすいのですが、これだけ温度差があると体力的にもかなり負担が

          熱帯都市の歩き方1:プラン&移動編

          日中越の言語学用語から見る近代学問の発展と語彙

          ベトナム語の勉強がある程度進んで、新聞やニュースサイトのような「硬い文章」を読めるようになると「漢字由来のベトナム語彙」、つまり漢越語の存在感がやたらと大きくなってくる。一例として去年9月にバイデン大統領がベトナムを訪れた際の歓迎式典について、ベトナムのTV局であるVTV DigitalがSNSにポストした文章を見てみよう。 ベトナム語を知らない人にとっては上記ポストは完全に「謎のアルファベットの羅列」なのだが、実は漢字由来の語彙が半数以上を占めている。試しに該当部分を漢字

          日中越の言語学用語から見る近代学問の発展と語彙

          語学キャリアが長くなってからの学習継続

          2021年にnoteを書き始めた段階でベトナム語はすでに5年勉強していたのだけど、それからあっという間に2年半が過ぎて学習歴も8年に入ろうとしている。中学校から大学の教養課程(2年生)までがちょうど8年なので、期間だけで言えば学校教育での英語学習と同じくらいの長さをベトナム語の勉強に費やしている。 とはいえ、学校教育で毎日数コマ課されていた英語学習と違ってベトナム語の学習は仕事や家事育児の合間になんとか続けているので、ありし日の英語みたいな学習スピードは望むこともできない。

          語学キャリアが長くなってからの学習継続

          ベトナム語と中国語の文法を比べる

          この記事は「言語学な人々 Advent Calendar 2023」の12月15日に当たる記事です。面白い記事がたくさんあるので、ぜひ見に行ってみてください。 https://adventar.org/calendars/9134 今学期は博士課程の演習授業がおもしろい。 博士後期課程(博士課程)を担当するようになってから三年経つのだが、院生の総数がそもそも少ないうえに自分の指導院生であっても同一授業を二年以上連続して履修することができないので、演習授業を開講しても履修者ゼ

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          国際ベトナム語能力試験(iVPT) Aレベルを振り返る2 試験対策

          国際ベトナム語能力試験(iVPT)Aレベル受験の振り返り記事パート2です。パート1では外国語教師としての視点からこの試験の特徴を分析してみました。 今回の記事では私が受験するに際して行った試験対策を紹介します。まず、Aレベル試験の特徴をおさらいするとこんな感じです。 リーディングとリスニングの問題がある 文法知識よりも語彙知識が試される 語彙のジャンルとしては「生活用語」が多く出る リスニングの音声再生回数は一回のみ 会話音声は問題文ナレーションよりもスピードが速

          国際ベトナム語能力試験(iVPT) Aレベルを振り返る2 試験対策

          国際ベトナム語能力試験(iVPT) Aレベルを振り返る1 問題の特徴

          2023年8月11日に国際ベトナム語能力試験(iVPT)のAレベルを受験してきました。この試験は例年2月に行っているのですが試験日は毎年出勤が必要な仕事と重なっているため受験する機会がありませんでした。しかし、今年はなんと8月にもAレベルの試験を開催するということで初めての挑戦です。 現在、日本で受験できるベトナム語試験としてはiVPTと実用ベトナム語技能検定試験(ViLT)があります。特にiVPTは日本の試験ではないということもあって情報が少なかったり実際に受験してみると

          国際ベトナム語能力試験(iVPT) Aレベルを振り返る1 問題の特徴

          現地に行くことの価値と意味

          2023年3月上旬に3泊5日の日程でベトナムのハノイまで調査出張に行ってきました。コロナ禍第一波の2020年3月に予定していたベトナム渡航を断念してからちょうど3年。ようやく戻ってくることができました。 3年間も現地に行くことなく自習やオンラインでベトナム語学習を続けていると、さすがに「何のために勉強しているのか」が曖昧になってきます。目的が見えなくなってくると、今度はいくら勉強しても語学レベルが停滞してしまう「化石化」という現象に片足を突っ込むようになります。それでも3年

          現地に行くことの価値と意味

          外国語の方言に出会うきっかけ

          この記事は「言語学な人々 Advent Calendar 2022」の20日目です。 簡単に自己紹介をしますと、神戸の大学で中国語を教えている言語学者です。専門としているのは上海語(上海で話される中国語方言)を中心とした声調の研究をメインにしつつ、最近はベトナム語と中国語の文法を対照するという科研費プロジェクトにも取り組んでいます。noteではこれまで語学(ベトナム語)に関するエッセーを書いていたのですが、今回は自分の研究のルーツ、とりわけ「外国語の方言に出会ったきっかけ」

          外国語の方言に出会うきっかけ

          みんぱく特別展 Homō loquēns 「しゃべるヒト」 レビュー

          2022年9月1日から11月23日まで国立民族学博物館(みんぱく)で特別展示「Homō loquēns しゃべるヒト ~ことばの不思議を科学する~」が開催中です。私も今週ようやく行けたのですが、言語学を専門としていても「ことばに関する特別展示」を見るのは初めての体験です。 この特別展示は開催予告が出た頃から言語学界隈ではホットな話題として常に注目を集めていました。私自身も「物を展示する博物館の特別展でどうやって「しゃべる言語」を展示するのだろう」と疑問に思ったものですが、総

          みんぱく特別展 Homō loquēns 「しゃべるヒト」 レビュー

          ベトナム語学習歴7年の中国語教師が神戸のベトナム料理を紹介してみる Vol.1

          2022年は神戸の大学に就職してから9年目、つまり来年は記念すべき(?)10年目が待っています。それより前は東京で大学院とポスドク生活を過ごしていたのですが、「研究だけに専念すべき大学院/ポスドク生活を終えたら、気になる言語を好きなだけ勉強したい!」と心待ちにしていたこともあり、ここ神戸で「語学をひたすら楽しむ10年間」を過ごせたような気がします。 神戸に来てから最初の4〜5年間は台湾語(台湾閩南語)の勉強を始めて大阪の中国語教室にも通ったのですが、元々の専門が中国語諸方言

          ベトナム語学習歴7年の中国語教師が神戸のベトナム料理を紹介してみる Vol.1

          中国語と英語は融合するのか? -『三体Ⅱ 黒暗森林』太陽系宇宙艦隊の言葉を考察する-

          前回は『三体Ⅱ 黒暗森林』をもとに、200年後の中国(ただし地下世界)で話されている中国語の正体を考えてみた。結論としては「多くの英単語を外来語として取り入れた中国語」ではないかと推測した。 前回の記事の最後では、太陽系艦隊連合会議のベン・ジョナサン特別理事の言葉について「英語と中国語が融合して1つの言語になる」という描写があることを紹介した。彼の「出身国」である太陽系艦隊連合の言葉については、さらに以下のような詳しい説明がある。 太陽系艦隊連合は地球の国家からは離れて艦

          中国語と英語は融合するのか? -『三体Ⅱ 黒暗森林』太陽系宇宙艦隊の言葉を考察する-

          『三体Ⅱ 黒暗森林』に出てくる200年後の中国語を言語学的に考察してみる。

          数年前から中国SF小説のすこぶる良い評判を聞くことが多くなった。 私自身は普段はそもそもフィクションを読まないので素通りをしていたのだが、ここ2年間のコロナ禍の在宅勤務で四六時中ずっと自宅にいることが多くなり、持て余した時間を悶々と過ごさないためにも何かしらの気分転換が必要になった。下手に外にも出にくい時期だし、それなら普段は読むこともない小説、しかも中国のSF小説で名高い劉慈欣『三体』を読んでみようと取り寄せた。読み始めてあんまり面白くなかったとしても、いつか対面授業に戻

          『三体Ⅱ 黒暗森林』に出てくる200年後の中国語を言語学的に考察してみる。