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複数の語学を同時に進めるコツ

9月に入って娘が幼稚園に通う日々が戻ってきた。振り返れば夏休み中は毎日朝から晩まで面倒を見なければならず仕事が全然捗らなかった。幼稚園が再開すれば昼間は仕事を邪魔されなくなるし、生活リズムにも少し余裕ができる。そんな解放的な気分が波及したのか、語学の心持ちにも変化があって「今なら新しい語学を始められるかも…」とタイミングを探るようになった。

九月は一年の中で語学を新しく始めるのに最適な時期だ(要出典)。夏の暑さが収まって体力的にもきつくなくなるし、夜が涼しくなるので集中して勉強にも取り組みやすくなる。子どもがいる家庭なら夏休みの忙しさから解放されて気分が一新するタイミングだし、大学生なら長い夏休みに飽き始める頃だ。新しい語学をやるなら今しかない。ということで、今回は敢えて複数の言語を勉強する際のコツをまとめてみよう。

始めるタイミング -何を優先するべきか?-

「一つの外国語ですらしっかり身につけるのは大変なのに、複数の外国語を同時に勉強するなんて…」と思う人はきっと多いだろう。どんな外国語であっても「もうこれ以上学ぶ必要がない」と思える日が果たして来るのか私にも分からないし、仮に来るとしても途方もない時間が必要だろう。一つの外国語ですら極めるのは至難の業だ。

そうは言っても複数の外国語に興味が出ること自体は珍しくもないし、むしろ日頃から語学にいそしむ人ほど他の外国語も気になるものだ。複数の外国語を駆使する人も世の中にはたくさんいるのだから、二つ以上の外国語を同時に学ぶのも全く不可能なことではないはずだ。

ただ、複数の語学を始める際にどうしても避けたいことが一つある。それは共倒れだ。例えば、二つの外国語を同時に始めた結果、基礎練習に割く時間がうまく確保できずにいつまで経っても基礎レベルを抜けられなくて苦しい思いをすることがある。結果として共倒れになってしまい挫折感と苦手意識だけが残るのも悲しい。このようなことを避けるために少し工夫が必要になる。

私がまず心がけているのは「未経験の外国語を同じタイミングで二つ以上始めないこと」だ。複数の外国語を同時に勉強する時は、必ず「勉強が先行している言語+新しく始める言語」のペアで進める。さらに、もう一つ大事な決まり事があって「勉強が先行している言語を常に優先させること」を心がける。この優先順位の違いには、はっきりとした理由がある。

語学にとって一番の関門は間違いなく「入門・初級レベルを突破すること」だ。語学を始めたばかりの時は、右も左も分からない中でたくさんの単語や表現を覚えないといけない。どんな外国語でも初級を突破するためには多くの労力と時間が必要となる。だからこそ、初級レベルを突破できた外国語は簡単に手放してはいけない。そのまま上達させて高度な内容の読解や会話をこなせるようなると、「単語や表現の暗記」だけではなく「その言語を話す人たちの文化や世界観」の理解にまで繋げられる。これこそが語学の最大の醍醐味だと思う。

そういうわけで、複数の語学を始めるタイミングは「先行している語学が落ち着いた時」だ。
中級以上になると口語と文語をバランスよく伸ばしていくことが大切になるが、特に文語を伸ばす時に小説や専門書の通読を行うようにしている。大部の書籍だと読み切るのに数ヶ月〜一年くらいかかるが、一冊の読解だけでは集中力が続かず飽きてしまうので気分転換も兼ねて別の語学を進めるのである。

言語の選択 -どのようにレパートリーを作るか?-


ということで、先行する語学が落ち着いている期間にもう一つの語学を開始する。「新しい外国語は何にしよう?」と色々迷うと思うが、私はここでも先行する語学との関連性を重視する。

具体例を挙げよう。この5年間ベトナム語にずっと注力してきたが最近ペースが落ち着いてきた。今から新しい語学を始めようと思いついて取り寄せたのはクメール語(カンボジア語)とフランス語のテキストだ。

この二つの言語、共通点はもちろんベトナム(語)との関係があることだ。カンボジアはベトナムの隣国であり、クメール語はベトナム語と同じ語族(オーストロアジア語族)に属している。いわばベトナム語の遠い親戚なので、単語や文法を比べながら勉強するとベトナム語のルーツについても理解が深まるかもしれない。

一方、フランス語はベトナムから遠く離れた欧州で話されていて、語族もインド・ヨーロッパ語族なので一見関係がなさそうだ。しかし、1887年から第二次大戦後までベトナムはフランスの植民地だったこともあり、ベトナム語にはフランス語の影響が少しだけ入っている。それ以上に気になるのは、フランスでは伝統的に東洋学が強くてベトナム研究にも分厚い蓄積がある点だ。フランス語が分からないままベトナム語の研究をしていると、まるでサイドミラーの無い車を運転しているような不安感がある。フランス語という死角からどういう研究が飛び出してくるのか分からないというのはやはり怖い。

つまり、クメール語もフランス語もベトナム語とのストーリーが綺麗に繋がるのだ。どっちを勉強してもベトナム語にとって損にはならない。たくさんの言語を勉強していると疲れた時にふと「なんでこの言語を勉強してるんだっけ?」と自問自答をしてしまうものだが、先行しているベトナム語とも絡むことを自覚しておくとモチベーションを維持しやすい。

ということで、結果的にはフランス語を始めることにした。今はゆっくり時間をかけて発音の反復練習中だ。入門書を一冊終わらせられるかが勝負の分かれ目だが、始めたばかりだと成功するかどうかはさっぱり読めない。

もちろんベトナム語優先の原則は厳守なので、この先忙しくなったりして手が回らなくなったらフランス語から切ることになる。これも先に原則を決めてしまえば余計な気負いもなくなる。

複数の語学を長く続けるのは本当に大変だし簡単には成功しない。だけど、優先順位をつけておけば全敗することも少なくなるので、興味がある人は怯まずにぜひチャレンジしてほしい。一つの外国語だけでは気付かないような発見や刺激もたくさんあるだろう。

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