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ブースター接種を終えて、これからの世界を考える

こんな記事を書いたのも、もう8ヶ月前です。私はちょうどこの時に1回目の接種をして、昨日3回目の接種を終えました。

↑の記事で引用したツイートの方は、結局、「中立的な立場ですよ」という見せかけだけの、ただの陰謀論者だったので残念でしたが。

世間の空気は完全に様変わりしたように思います。実際に、状況も大きく違います。多くの方がワクチンの少なくとも2回接種を終えたことで、ピーク時の感染者数が以前の波の5倍近く(8月の五輪が開かれていた時に全国で2万5千人の感染確認、2月には全国で10万人の感染確認)なのに、死者数は2倍程度(前回のピーク時で100人死亡、今回のピーク時で200人死亡)くらい、しかも前回は五輪を無観客で開きながら緊急事態宣言を出す阿鼻叫喚の事態だったのが、今やほとんど規制を気にせず皆が過ごす中で「その程度の」被害で済んでいる、と言えます。

日本における新型コロナウイルスの感染状況・グラフ*
https://graphics.reuters.com/world-coronavirus-tracker-and-maps/ja/countries-and-territories/japan/

「規制を気にせず皆が過ごす中」と書きましたが、私個人は1月から3月まで、再び一歩も外に出ない生活を送っていました。しかしながら、世間にはもはやそういった配慮を期待するのは不可能だ、という諦念があります。

「コロナが明ける」とはどういうことか

ワクチンが済んでもまだ自粛が必要というのなら、一体いつまでやればいいのか?「コロナが明ける」のはいつなのか?もう明けたってことでしょう?という雰囲気が完全に勝っており、私程度がそれに異を唱えたところでどうにかなるものではない、と思っています。

せいぜい、「皆が普段どおりの自粛しない生活をしている事により、毎日200人くらい、皆が怯えていた去年のピーク時の倍くらいの人が死んでるんだけど、それは認識できてるのかなぁ」とぼんやり思う程度です。

ただ、それが間違いだと言うこともできないし、言う資格も誰にも無い、とも思っています。

日に100人死ぬ感染症を「日常」とするのかどうか

そもそも、我々は「皆が感染してもそこまで大きな問題にならない世界」を目指して、ワクチン接種を進めていました。だから、それが終わらないうちに行われた五輪は間違いだったと考えていますし、それが終わった今では、この感染症で苦しむのは主には(※)ワクチンを自らの判断で接種しないことにした方で、自己責任の範疇とも言えるからです。
(※:もちろん、ブースター推進の遅れやその方の基礎疾患などから、対策をしていたのに犠牲になる方もいらっしゃると思います)

ただ、現状の感染者数ならびに死者数が、「自己責任」で済まされるレベルなのかどうかは程度の問題で、人によってはこの状況を苦しく思うでしょうし、人によってはそんなことより日常を送りたい、と思うでしょう。

私としても、「現実として去年のピーク時の2倍の人が死んでいる」と理解しつつも、「そういう感染症が新たに増えただけで、これが普通だ」と考えれば、そうやって日常を謳歌することは可能なわけです。

ここで、参考までに例年のインフルエンザの死者数と比べてみましょう。こちらの記事によると

「インフルエンザが直接の死因とされる死亡数は多い年で3000人を超えるぐらい」だそうです。間接的なものも含めた超過死亡はもっと多いとされていますが、それはコロナでも同様に考えられるので一旦脇において、では新型コロナでは年間死亡者数がどれほどになるでしょうか。

現在のペース、平均で1日に100人の死者が出続けるとすると、年間では3万人死亡、インフルエンザの悪い時の10倍の死者数という感じでしょうか。

ちなみに、他の死因を見てみると、不慮の事故で2020年では3万8000人が亡くなっているので、それを気にせず交通網を動かしている日常から察するに、年間3万人「程度」の死者で便利で楽しい日常が享受できるなら、そちらが選ばれるのかもしれません。

とはいえ、年間死亡率のトップ10に食い込むような死因が新たに増えるのは喜ばしいことではありませんね。

コロナによる死者数はもっと減るだろうという希望的観測もできます。ブースター接種が進んでいますし、自然感染でも免疫は強化されるはずです。

他国の状況を見れば彼らがそれなりに「ある程度の死者」を完全に受け入れて日常を取り戻す、というより、「それくらい死ぬのが普通だ」という(少し暗いけど、仕方がない)価値観に移行したのだということがわかります。

例えば、イギリスなんかは、グラフで見るとピーク時よりかなり死者が減っているように見えますが、これはピークが異常にやばかっただけで、今でも日に100人以上の死者をコンスタントに出し続けている状態で日常を送っています。人口が日本の約半分(6000万人)であることを考えると、日本の現在の死亡率とそんなに変わらず、それが容認されていると言えます。

英国における新型コロナウイルスの感染状況・グラフ*
https://graphics.reuters.com/world-coronavirus-tracker-and-maps/ja/countries-and-territories/united-kingdom/

アメリカなんか、その10倍以上の死者を出し続けていて、日本人の感覚からすると頭がおかしいのか?と思ってしまうんですが、感染制御に失敗し、ワクチン接種率の向上に失敗した彼らにはもうこれが当たり前なのかもしれません。

米国における新型コロナウイルスの感染状況・グラフ*
https://graphics.reuters.com/world-coronavirus-tracker-and-maps/ja/countries-and-territories/united-states/

現状で(皆が自覚してるのか心配ですが)日に100人程度の死者は仕方ない、そういうものだ、という動きを全国、全世界がしているので、それこそが新しい日常、ニューノーマルになるのではないか(なってしまったのではないか)と思っています。

せめて「コロナのせいで医療逼迫して、コロナに関係ない病人までも切り捨てられる」ことは避けたい、というのが最低限のラインでしょうか。

コロナは「人類が普通にかかる風邪の一種として定着する」

意外にも知られていなかったようなのですが、コロナが明けるということがあるとしたら、それはまさしく「人類が普通にかかる風邪の一種として定着する」ことによるものです。これは、国立感染症研究所ならびに多くの専門家も当然のこととして言っています。

私の浅い認識で言うと、人間がかかる「普通の風邪」も、それが現れた当初は免疫が無く人間を苦しませ命を奪ったものの、自然淘汰によって免疫を持つ人類が生き残り、誰もが長期的な免疫を獲得し、医療を逼迫させることのない状態になっただけ、というものだと思っています。

新型コロナも、我々大人や高齢者は免疫が無い中で出てきたからこれだけ苦しんでいるわけですが、次世代の子どもたちは免疫力の高いうちにそれらの抗体を手に入れ、それなりに問題なく過ごしていくのではないでしょうか。

ただやはり問題は、今を生きる大人から高齢者にとっては、下手するとこの感染症は生涯に渡って何度も苦しめられる存在になりかねない、ということです。そしてもちろん、時に命を奪う存在にもなりかねない。

そんな我々大人のために、安全に抗体を作れる医療技術こそが「ワクチン」なのですが、皆さんもそろそろ「これあと何回打つんだろう?」と疑問に思い始めているのではないでしょうか。もちろん、去年から「ワクチン2回で足りるかはわからない」とは言われてましたが、実際にこんなに早く3回目が必要となったことから、その事実は重く眼前の問題として立ちはだかっています。

「ブースター接種を繰り返すのは、科学的にも行政的にも現実的ではない」

私は冒頭の記事リンクにもある通り、ワクチンの少なくとも1,2回目接種には完全に肯定的な立場でしたし、ブースターも決まった瞬間に打ちたいな、と思ったくらいにはその効果を信頼しています。が、1,2回が信頼できるということと、任意のn回が信頼できるかというのは完全に次元の違う問題です。

専門家もこれ(ブースター接種)を何度も繰り返すことが最善だとか現実的だとは、思っていないようです。

今の状況からはブースターは3回目までは必要だと思います。でも次の変異ウイルスが出てきた時にまたブースター、次の別な変異ウイルスが出たらまたブースター、ということでは続かないよと言いたいのだと思います。

今のワクチン戦略は変異ウイルスが出なければ、おそらくブースターを1回やって基本的にはおしまいだったはずです。それで数年ぐらいは大丈夫というのが前提だったと思います。

ところが、デルタが昨年3月、オミクロンが11月と、数ヶ月で問題となるような新たな変異ウイルスが出てきてしまっています。その度に新しいワクチンやブースターが検討され、イスラエルが4回目の接種を始めたところです。

こういうやり方だと際限なくワクチンをうたなければいけなくなって、パンデミックは収束しないのにワクチンはうち続けることになる。何のためにワクチンをうっているんだ、ということにもなります。コストもかかりますし、うちまくって健康上リスクはないのかという話にもなります。

(中略)

ブースター接種は、免疫反応をより強く引き出すためにうつものです。

そして、もう一つ、体が繰り返しウイルスやワクチンの成分にさらされると、免疫は洗練される効果もあります。感染やワクチンによって体内に作られる抗体は「成熟」します。今回でいえば、スパイクタンパク質に馴染みのいい形に体内で変わっていくのです。抗体以外の免疫反応も同様の変化が考えられます。

刺激があればあるほど、この成熟は起こりやすい。だから抗体等の量も増えるし、質も上がるのです。これを起こすには、繰り返し感染するか、繰り返しワクチンをうつことが必要にはなります。

(ここで念を押しておきたいのは、「任意のn回」を信頼することはできないが、その都度データが出ることで、3は良さそう、4はどうだ、5はどうだ、というように特定のnについては都度評価を下せるということです)

まず、ワクチンを打って、我々が何を目指しているのか、を改めて確認しましょう。それは「長期的な免疫の獲得」です。その手段は、ワクチンでもいいし、自然感染で何度もかかる、でも良いわけです。どちらかのうち、よりリスクの少ない方を選ぶため、小児では自然感染が繰り返され、高齢者ほどワクチンが推奨されています。

1,2回目は明らかに接種したほうが圧倒的にリスクが少なくメリットが大きいことが統計的にも示されたので、専門家も政府もそれを推奨し、私も推奨しました。

しかしながら、回数が増えていくごとに、メリットは減る可能性があり、リスクは増える可能性がある(そして、どこでリスクの方がメリットを上回ってしまうかは、現時点ではまったくわからない)、と思います。

なぜか。

接種を進めるごとにコロナ自体のリスクは下がる

まず、ワクチン接種を済ませている人にとっては、コロナの病状はそこまでひどくない……可能性があります。つまり、「自然感染で免疫をつける」が一つの選択肢になる可能性がある、少なくともこれから出てくる、と思われるわけです。(念を押して書きますが、0回の人は接種しておいたほうがメリットが大きいです)

一方で、皆さんすでに御存知の通り、特にモデルナのmRNAワクチンの副反応は、あんまり舐められたものじゃありません。私は3回目接種をした昨日、夜は38度を超える熱と関節痛でほとんど眠れませんでした。とはいえ、1日たてばケロッとしているので、大した被害でも無いのですが。

ただ問題は、「本当に副反応は(n回接種後の)自然感染よりも症状が軽くて低リスクなのか」ということです。ブースター接種を重ねるほどに、自然感染自体のリスクは下がっていく(と期待したい)一方で、副反応のリスクは下がる保証はありません(人間が作るので量を調整したり改善される期待はあるけど)。となると、どこかでそれが逆転する可能性も考えられます。

「軽症」の分解能が足りていない問題

どこかに副反応と自然感染の比較が無いか探したのですが、残念なことに、ワクチン接種の効果はもっぱら(コロナによる)「入院」「死亡」がどれだけ減るか、といった重篤な部分においてのみであり、(コロナによる)「軽症」がどの程度さらに軽くなるのか、はわかりませんでした。

ワクチン自体による副反応は事細かに「38度の熱が何日間出る人が何割」「頭痛や関節痛が何割」と調査結果が公表されています。これは大変ありがたいことですが、新型コロナ自体の症状について同様の粒度での調査が見当たりません。ゆえに、「コロナのほうが軽症だ」「いや医者の言う軽症はまったく軽症じゃない」みたいな不毛な議論に終止してしまいます。

Twitterには「コロナに罹ったけど全然辛くなかった!」というストーリーや、逆に「コロナに罹ってマジで辛かった!ワクチンの方が100倍マシ!」みたいなストーリーが流れてきて、人は信じたい方をリツイートしたりするわけですが、私にとってはどちらも単なる一例、ただのストーリーです。必要なのは統計情報です

……ということで、ここまで読んでいただいた方を信頼し、ちょっと統計をとってみたいと思います。何度以上の熱が何日間出続けたか、などを比較したいです。できれば、コロナ感染経験がある方に答えていただきたいです(その方がサンプル数が少ないため)。以下のリンクからお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSe4ecx7gQMTrM5dNH9O_VEUiScOAwU8XX5DzoQyvAMChA9UWQ/viewform?usp=sf_link
結果については、科学的に信頼できるデータになるかは保証できないので、公表をお約束することはできません。「統計的に有意かどうかは保証できないよ」という但し書きをちゃんと理解して扱える方に限り、限定的に共有することは可能です。

若者は「どちらでもいい」に属する

色々資料を漁った結果として、ブースター接種は、「若者で、基礎疾患がなくて、2回接種がmRNA型であれば、優先度は高くない」という結論だけが得られました。私は今の所「ブースター前に感染して後悔したくないな」と思って、3回目のブースターを決めました。

なので、これ以降は本当に個人の判断になります。

ただ、「俺は罹らないから接種しない」という判断は間違っています。

「俺は自然感染で免疫つけるからいいわ」という方は、(その方が辛いかもしれませんが)それでも良いかもしれません。正直、2月に皆がガンガン感染していたときも、内心(うんうん、それで免疫つけるといいよ)と思っていました。若者については。医療が逼迫しない程度なら。

自然感染のほうがワクチンの副反応より軽い保証は誰もしてくれませんし、後遺症の懸念もありますし、それによる免疫が長期間続く保証もありません。それと同様に「ワクチンの副反応の方が軽い」という保証も回を増すごとに難しくなっており、いつそれが逆転するかは個々人の状態によって違うはずです。だから個々人の判断になるわけです。

接種を進めるごとに治験の前提条件が揃わなくなる

そもそも、歴史を振り返っても同種のワクチン接種を任意のn回繰り返すといった事態は存在しておらず、人類が未体験の状況に置かれているため、その都度慎重にデータを見ていく必要が出てきます。

繰り返しワクチンで免疫を付与することでどういう「害」があるかという研究は驚くほどなされていません。逆に危ないとも言えないし、安全だとも言えない、ノーエビデンスに近い状態です。

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-booster-shots-mine

しかし、ここでさらなる問題が浮上します。それは、治験の対照群が、様々な感染経験+ワクチン接種経験が入り乱れた、不揃いな状態に陥っていく(既に陥っている)ことです。

今回のブースター(3回目)においても、「ファイザー2回+モデルナだとこれくらい」「アストラゼネカ2回+ファイザーだとこれくらい」など、色んな情報が入り混じっていました。そして私はついに自分のパターンである「モデルナ3回連続」という治験結果を見つけることができませんでした。どこかにはあるんでしょうが、まとまった量が出てきません。

それだけではありません。最初にワクチンが開発され治験がされていた頃、世の中の多くの人は感染を今より何百倍も恐れていて、実際に感染を経験した人はほとんど居なかった、つまり、初期の治験は感染経験による差異がほとんど無かったために、治験の結果は「ほぼそのままワクチン自体の効果だ」と考えることができました。

しかしながら、今やワクチンも1,2回は済んで、日本ですら600万人の感染確認者がいて、無症状なども含めるともっと多くの方が感染経験されている可能性が高く、そうした中で実験を行っても「本当にその結果がワクチンの効果なのか、それとも自然感染か、それとも以前のワクチンの種類か」などの変数が増えすぎて正確な判断が下しにくい状態にあります。そしてその状況の乱雑さ(エントロピー)の上昇が今後も続くことは明白です。(エントロピーって言いたかっただけだから余計なツッコみはしないで!)

追加接種の信頼度はその都度見極めたいところですが、徐々に信頼に足るデータが集めづらい複雑な世界になっていきます。

「日常」がどんな世界かを時折意識する

希望はあります。科学が進歩し、「ユニバーサルコロナワクチン」が開発されるかもしれません(と、先の記事では指摘されています)。ワクチンや自然感染を経て、なんだかんだ問題ないと判断されるのかもしれません。

危険もあります。デルタで終わりだと思った所にオミクロンがすぐに現れたように、より危険性の高い変異が起こらないと誰も保証できません。宿主を殺さない程度であればどんな変化だってウイルスは構わないわけですから。

一つの恐ろしい諦念としてあるのは、人間は突然の大きな変化には大騒ぎする(新型コロナ発生時にわずか数人の感染者を見て全国の小学校を閉鎖したり)ものの、それが徐々に変化して気がついたら何百倍の死者を出す頃には完全に慣れきっており、それを新たな「日常」として受け入れているということです。

これからも、突然何かが変わる時には騒ぐものの、徐々に変化していつの間にか年間数万人の死者が出ていても、そういうものか、という漫然とした受け入れ方をするのでしょう。

それはまぁまぁ恐ろしいわけですが、現状も既にそうやって受け入れていることがたくさんあるわけです。日本で年間3万人の自殺者がいることは常々恐ろしいなと思っています。交通事故もそうでしょう。癌もそうでしょう。それは減らしたいけど、そう簡単ではなく、ただ皆が時折思い出したり、熱意や使命感に燃える人を時々生み出して、人間はこんな事で死ななくていいよな、という変化に繋がることを祈るのみです。

それ以外の多くの日常の時間において、私達はその恐ろしさを忘れることになる気がしています。

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