見出し画像

パリ・オペラ座の日々1993~1994:2月7日 シャイヨ宮


2月7日

ランス(Reims)に行こうと計画していたのに、雨だったのと寝坊してしまったのでキャンセル。代わりにトロカデロのシャイヨ宮へ出掛ける。エッフェル塔を一望するテラスのカフェでコーヒー(高い!)を飲んでから、「国立フランス文化財博物館(Musée national des Monuments français)」を鑑賞。

国内の歴史的建造物(教会、遺跡など)を石膏で複製したものが展示されている。石膏像といっても、自分の実家で扱うような小さなものではなくて、建物の壁面を丸ごと型取りして複製した壮大なスケールのもの。フランス各地に点在する歴史的建造物(モニュメント)が、このひとつの場所に集合して展示される不思議!これぞ石膏像の存在意義だと納得した。アルル、シャルトル、ランスなど、知っている教会の装飾彫刻などもあった。ロマネスク彫刻のスケールと、細部の表情に圧倒された。

その後、地下にあると聞いていた石膏像工房を探す。(雪)が係りの人に尋ねてくれて場所を突き止める。観光用の場所ではないので、重い鉄の扉を開いて声をかけてみた。内部には石膏像販売用のブッティックなども用意されていて、基本的にウェルカムなムードだった。作業場の中を見学出来ないか?と尋ねてみたが、事前に交渉して予約してくれないと…とやんわり断られた。仕方なくカタログを購入して退散。

帰りはレアルに寄って、勉強用の本とバレエの本をたくさん買った。夜にS女史から電話あり。

石膏像工房のカタログ 100F
文化財博物館 28F
カフェ 45F
Quick 44F
FNACで本 409F



画像1

エッフェル塔の展望台から見るシャイヨ宮

シャイヨ宮というのは、パリ16区トロカデロにある巨大な展示会場です。メトロだと9番線と6番線が交わるトロカデロで下車。なんといってもセーヌを挟んで真正面にエッフェル塔で、そのパースペクティブ(眺望)というか、壮大な景観は一見の価値があります。


画像2

シャイヨ宮の中央からエッフェル塔を望む。


この場所は、中世末期から「シャイヨの丘」と呼ばれた小高い丘で、エステ家(イタリアの有力貴族)所有だったものを、フランス王アンリ2世に嫁いだメディチ家出身のカトリーヌ・ド・メディシスが買い取り、16世紀末にシャイヨ城を建設しました。シャイヨ城は建設当初からU字型になっており、そのデザインは現在のシャイヨ宮にも継承されています。

画像3

1588年頃のシャイヨ城の建設計画図。


17世紀に修道院となったシャイヨ城は、フランス革命期の1794年に爆発事故に巻き込まれ破壊されました。その後の帝政期、王政復古の時期に再開発が検討されましたが実現せず、1878年のパリ万博に合わせて、この場所にトロカデロ宮殿が建設されました。

画像4

1876年建設のトロカデロ宮殿


画像5

1878年のパリ万博の様子。右がトロカデロ宮殿。U字型の建造物の様子がよく分かります。セーヌ川を挟んだ対岸は、現在エッフェル塔があるシャン・ド・マルスで、万博パビリオンが壮大なスケールで建造されています。


このトロカデロ宮殿もすごいスケールの建造物ですけど、約60年後の1937年のパリ万博のために取り壊されてしまいました。そして再建されたのが現在のシャイヨ宮というわけです。


画像6

現在のシャイヨ宮の中央部分。近代的で垂直線が強調されたデザインですね。

南翼側には国立海軍博物館 (Musée national de la Marine) と人類博物館 (Musée de l'Homme)が、北翼側には国立フランス文化財博物館 (Musée national des Monuments français)とシャイヨ国立劇場 (Théâtre national de Chaillot)があります。

これらの文化施設の中で、帰国後に石膏屋になることが決まっていた自分にとって重要だったのは「フランス文化財博物館」です。

観光スポットとしてはあまりメジャーではないですが、ここは凄いんです。フランスのロマネスク、ゴシック期の教会建築、彫刻に興味がある方だったら必見の場所です。


画像7

フランス各地の重要な教会建築・装飾彫刻を石膏像として複製して、一堂に集めています。日本の美術教育で使用される「石膏像」という言葉とはかけ離れた、壮大なスケールの展示です。建築物をそのままガバっと型取りしていることにも驚かされますし、細部まで精巧に写し取られたそのクオリティにも圧倒されます。どれだけの労力でこれらの展示物が製作されたのか、石膏屋の家庭に育った私でも想像がつかないくらいです。

フランス国内に限定していますから、ギリシャ・ローマ彫刻とか、イタリアルネッサンスみたいな展示物はありません。南仏を中心に開花したロマネスク期の教会建築と、その後フランス全土で展開したゴシック期のものが中心です。

画像8

こちらはフランス南西部モワサックにあるサン・ピエール修道院聖堂の南扉口付近。これをどうやって現地で型取りしたのか、私にもよく分かりません。


画像9


とにかくこういった展示が延々と続きます。本来ならフランス各地を巡らなければ目にすることができない建築・彫刻類を、複製品とはいえこの一か所で眺めることができるというのは素晴らしいことです。時代や土地を比較しながら様式の変遷を辿ることができます。

日本では、石膏像は美術大学の入学試験問題とか、美術教育でのデッサン教育の素材とされていますが、本来の存在意義はこの博物館ような用途にこそあります。美術史的に重要な立体造形物を複製し、オリジナルとは違う場所で鑑賞可能にすること。またそれらを一同に集めることで、建築・彫像の様々な様式やスタイルを比較・検討することが可能になるのです。それは各地に点在するオリジナル彫像では為しえないことですから。

あまり知られていないことですが、19世紀の欧米ではこのシャイヨ宮のような石膏像を使った博物館がたくさん設立された歴史があります。英国、デンマーク、ドイツ…。今では想像もつかないことですが、米国のボストン美術館やメトロポリタン美術館は、開館当初はその展示スペースのほとんどを石膏像が埋め尽くしていました。その後20世紀に入ると石膏像への情熱が衰退して、そういった美術館は次々と姿を消してしまいましたが、このシャイヨ宮のフランス文化財博物館や英国のヴィクトリア&アルバート博物館では現在も大規模な石膏像の展示を観ることができます。


2010年に書いたブログ記事がありました。懐かしい(笑)




画像10

自分で撮影したもの。じつはこの博物館は、僕らが訪れた一年後の1995年に火災に見舞われて、その後2007年まで閉鎖されていました。少し展示を縮小したようですけど、それでも十分に訪れる価値のある博物館です。ご興味ある方はぜひ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?