ほぼ脳死の子への尊厳死は国内でも可能(上)

同格で共存関係にある延命と尊厳死

医療的ケア児という静かに増加中の存在

 医療的ケア児という存在をご存じだろうか?日常生活を送る上で喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする子供の事だ。そんな子供たちが近年増え続けている。図1(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=11369) の通り、その国内総数は10年で約2倍に増え、在宅で過ごす患者は10年で10倍以上に増えている。割合は人口1万人当たり1.44人。

図1 医療的ケア児総数と在宅人工呼吸器患者の推移


医療技術が進歩し、出生時に過去には助からなかったのに助かる子供が増えた為だ。その中には無事に何の障害もなく回復する子供もいれば、軽度の障害で済む子供、そして重度の障害を抱える子供がいる。医療的ケア児は、その中の最後の方々に該当する。症状は程度差が有るが、総じて寝たきりで身体を動かすことも意思疎通も出来ない。だから、床ずれができ、関節や頭が歪(いびつ)に変形、汗疹が悪化してあかぎれが発症する。痰がつまってもセンサで苦しくなるまで伝えられない。つまると鼻から管を通して吸い出され、一日に何回も行うから痛いし鼻血が出る事もある。目蓋を閉じられず、目に細菌が入って腫れ上がってしまう。全てが不自由で回復しない、むしろ悪化の一途でそれが無期限に続く。常時誰かの小まめな支援を必要とする。こうした症状から、ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)に似ている。患者数も人口10万人当たりに10人前後、つまり10万人当たりなら14.4人となる医療的ケア児と似ている。そんなALS患者たちには、生きたい人もいれば、死にたい人もいる。どちらも事例が有る。どちらも選べる事が在るべき姿だ。なぜなら、どちらが正しいかは、本人にしか分からないからだ。本人が必死に悩み抜いて出した結論ならば、どちらも尊重したい。それは医療的ケア児たちも同じ。しかし、その認知度は低い。両者の割合はほぼ同じなのに。なぜか?それは、本人が発信出来ず、生死を選択出来ないからと考えられる。数は少ないが、記事は在る。そのほとんどが延命派の記事だ。延命はメディアで取上げられる等で事例をすぐ見つけられるのに、尊厳死つまり治療差控えによる看取りはそうではない。

可能なのに窮屈で知られていない尊厳死

 だが、尊厳死の事例は在る。その声が表に出ないから、私は7年半も苦しんだ。子供だからと別扱いするなら、それは人権否定であり幼児虐待。
もう一度言う、どちらも選べる事が在るべき姿だ。

 延命も有り
 それと同格で尊厳死も有り
 対立関係ではない、選択できる共存関係なのだ。

 では、なぜ子供の尊厳死は表に出て来ないのか?日本ではALSを患う国会議員をはじめとする一部の人が両者に優劣を付け(https://sn-jp.com/archives/4303)、尊厳死を認めず意見すら封じ込めようとする。実際、子に尊厳死を提供したいと言ったら、親ではない、人ではない扱いをされる。だから尊厳死が窮屈になる。2021年5月29日にTBSの報道特集(http://www.tbs.co.jp/houtoku/archive/20210529_2_1.html)で、医療的ケア児を持つ、とある家族の取材が放送されていた。子供に色々と話し掛ける母親の傍に立つ父親は、顔から感情が消えている上に一言も発していなかった。こちらから考えられるは、この父は延命を望んでいないのに、本音を話さず我慢している可能性があるということ。尊厳死派は、尊厳死を実現できた時点で満足しており、発信する必要が無い。それこそが、表に出て来ない理由だと考える。もし、議論もなく尊厳死を否定するなら、私は全身全霊でそれを否定する。だから、医療的ケア児をお持ちで尊厳死を望んで実現できない方に伝えたい。不安だろうけど安心してほしい、卑屈にならず胸を張って希望してほしい、尊厳死を選びたいと。治療差控えによる看取りという形の尊厳死は、可能だ。
 ネットでは尊厳死を認める意見が多数有る。しかし、多数派である健常者は黙ってろという風潮で議論は停止してしまっている。ならば、当事者である私が声をあげるのは認められるはずだ。日本は必死に出生率を上げようとしている。しかし、増え続ける医療的ケア児を十分に周知せず、生まれた医療的ケア児の療育は若い夫婦に負わせている。明日を担う若い夫婦とその子供が、長く苦しむことがあってはならない。医療的ケア児が認知され、その中で尊厳死を希望する人が、少しでも苦しい想いをせず実現できる世になるよう願ってその実現方法を記す。

中巻(治療差控えによる看取りの実現方法)へ続く

下巻(尊厳死を実現して今思うこと)はこちら


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