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正義のアパレル | 虚構OLエッセイ(6)

服をどこに買いに行ったらいいか、ホントわからない。
買いたい服っていうのがないから。

みんなどうやって「この服を買おう」って選んでるのかしら。
服の選び方を誰かにでも教わったのかしら。
視聴覚室でひっそりとやる小6女子だけの性教育授業があって、あったことすらうやむやにされる男子の感覚だわ。

なもんだから、パリコレみたいなハイセンスなファッションなんて理解できないのは当然。
パリコレってば世界トップクラスのファッションセンスじゃない?
ってことは、ゴミ袋のような生地を体に巻き付けた衣装を着てランウェイ練り歩くイベントが被服デザイン専門学校の悪ふざけにしか見えないのは、私のファッションセンスの方が腐っているワケよね。

アートなファッションってより、普通のファッションを知りたいの。
ならファッション誌よね。どんな服を着ようか悩んでいると人に勧められるのが女性ファッション誌だしさ。

で、美容院で「貴様にはこれがお似合いじゃ」って鏡台に置かれるファッション誌を読んだりするわけ。でも、読モたちの着るの服を見て「あ、これ買いたい」ってならない。
買いたいってなる人は、渋谷でスカウトされちゃったりしてる読モ的な容姿という自負なのかしら。ならわかる、そんな人には似合うような服ばかりよね、ファッション誌の服ってのは。
私の顔面偏差値では街なかでスカウトに声かけられた経験なんてない。
あ、でもあのときの声をかけてきた人、スカウトだったかも。コンタクト屋のティッシュを配るふりしてただけで…!

私、どんな顔かっていうと、そうね。
誰かに似てるって、有名な人で言われたことないので説明が難しいわね。

あ。一度だけあった。

そう秘密の視聴覚室でおなじみ小6の時に、歴史の授業の序盤で出てきたあの人。稲を石包丁でこそいでいたと絵で説明される弥生時代の女性って。
きっと先祖ね、あの無特徴な朴訥フェイス。
ロングヘアを耳横で8の字に束ねて「卑弥呼さまー!」って言いそうな顔。

そんなだからね、もうね可愛い服ってより無難な服がほしい。
モテる服じゃなくて「けしからん!」って怒られない服。

特にさ、人種差別とかジェンダーとかに厳しくポリコレ(ポリティカル・コレクトネス、PC)を指摘する人に怒られたくない。
そういう人は、パリコレにもポリコレ棒を振り回しながら声高にランウェイに乗り込む勢いだし。
そんなPC原人にウパーって怒られない服じゃなきゃハド損よね。

だから、教えて。
正しい服、ポリコレな服ってやつを。

正しい服とは?

では先生、「正しい服」を教えてください。

ポリコレ先生「まず胸を強調した服、こんなのはジェンダー的に言語道断です。女性のモノ化、性的搾取を促すような服は女性の権利迫害であり許容してはなりません」

あ、胸は大丈夫です。私の胸は、ビッグドラムなんです。
ドラム式乾燥機付き洗濯機、現代の洗濯板なんです。
もうね、胸というより波状岩地形。肋骨の上に脂肪分がストロングゼロ。

先生、他にはあります?

ポリコレ先生「スカートもNGです。旗のようにひらめく布は、まさに性的対象であることを想起させるシンボルであり、社会が女性性を強要することに繋がります」

まぁ確かに、何で女性はスカート履くのかしら思うときはあるわね。
JKなら「おっさんに見せるためじゃなく、かわいいから履いてるんですー」とか言いそうだけど、かわいくありたいっていう欲求も生殖的な要因じゃないかしら。ので性的なのよね、スカートって。

スカートが正しくないとすると、ズボンとか着物とかの衣装が残るわね。

ポリコレ先生「それから、えりとボタン。これらは軍服からの流用されたデザインです。人権の迫害が日常だった戦争の歴史を賛美することに繋がります。えりとボタンを用いた服は政治的に正しくありません」

袖のボタン、あいつは特におかしいと思ってたわ。
ナポレオンがロシア遠征の時、兵士の袖が鼻水でカピカピにさせているのを見て防ぐようボタンをつけたって話じゃない?
だから、袖ボタンがあるスーツ着ている人は「鼻水を袖で拭いちゃう小6の男子レベル」って見られるけどどうなのかしら、って。

とにかく、えりとボタンがNGだから、スーツとかコートとかYシャツとかポロシャツとか、ほとんどの服が正しい服ではないわね。

先生、まだあります?

ポリコレ先生「最後に色。色は容易に差別に繋がります。白と黒は人種差別に、ブルーとピンクは性差別などです。色の使用は避け、できるだけ素材の色であることが自然であり正しいです」

素材の色の服…。性的でなく、スカートでなく、えりやボタンがない服…。

もうね、正しくない服を避けていったら先史の時代になるわね。
先史、つまりは古墳時代の前の弥生時代とか。

弥生時代…!?

小6の教科書にあったあの服。
麻袋に首の穴を開けて腰を紐で結んだあの弥生人の服!

性的でない、スカートでない、えりやボタンがない、素材の色。
弥生時代の服は正しい服だわ!
私の弥生フェイスが活かされる!

やったわ!
私の買うべき服が決まったわ。

というわけで、服を買いに民族博物館のお土産コーナーへ行ってきます。

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