見出し画像

ドライビングプレジャーそのもの [MAZDA ROADSTER]

画像1

世界で最も自分の思い通りに動いてくれるマシンと言ったら一番初めに思いつくのは、やはりこの車だろう。その人馬一体というコンセプト通り、意のままに動いてくれる。運転という動作の至上の喜びを体感したいというならば、まずこの車に乗るべきだ。


1”人馬一体”

画像2

初代のユーノスロードスターから変わらず突き通してきたこのコンセプト。4代目となった今作、NDロードスターはその最高峰に君臨することは異論を挟む余地がないだろう。

一つ一つの操作に対する車の反応がすこぶる正しく気持ちが良い。曲がりたい方向を目で追いかけて、ステアを切れば、本当に文字通り意のままに車体全体がそこに向かう。また、重量バランスが良く、車体が”馬鹿”みたいに軽いおかげだろう、つづら折れの道を走っていると、二本の曲線を描く車線の中に、長方形の車体が綺麗に見事にぐいぐいと気持ちよく押し込まれていくような感覚さえ覚える。車の頭から後ろまでの全てが、私の思うのままに入って欲しいラインにぐいぐいと入っていく感覚は、忘れられないほど快い。

画像3

エンジンは特段変わったモノではなく、寧ろ平々凡々とした1.5Lの直4のエンジンだ。ただ、吹け上がりの軽さにはかなり驚いた。レブカウンターの針が、踊るようにしゅんしゅんとまわり、心地よくエンジン音が大きくなる。パワーはないが屋根を開けて軽いエンジン音をダイレクトに聴きながらドライブすれば、そんな不満はすぐに忘れさせられてしまう。それに、現代のエンジンにしてはあまりにもシンプルに出来ていて、かつ、エンジンに無理がほぼない為に、故障を起こす要素が少ない。これ故に、このロードスターも歴代同様、長く愛されることだろう。

画像4

また、それぞれの装置のコントローラーとなるステア、シフトレバー、ペダル類、を操作する感覚も、こだわりが感じられる。

ステアは初代からの伝統からか、かなり軽めのセッテイングであったが、路面とタイヤの当たり方が、まるで実際に手を当てているかのように伝わってくる。ガスペダルは、エンジンの吹けの微調整がしやすく、つかれにくいオルガン式のペダルであり、四輪ともディスクブレーキで車が完全に停止する直前の強い慣性力を打ち消してやるのは難しいものの、車体が軽いおかげもあって、良く利くブレーキは速く走っているときの大きな安心感につながる。

シフトフィールの気持ち良さもピカイチだ。まるでゴルフでホールインワンを決めたようにまっすぐスコッとボールが穴にぴったしはまる感覚は、ずっとギアをいじっていたくなってしまう。(私は一度もゴルフをしたことはないが…)これぞ、マニュアルを操作する喜びの理由の大きな要素であろう。

また、ここで大きく取り上げたいのは、クラッチの優秀さだ。ハッキリ言ってクラッチの扱いやすさは世界一だ。マツダは今すぐロードスターで教習車を作るべきだと思ったぐらいだ。(日本の法規による教習車の基準には適さないが…)マニュアルトランスミッションを初めて運転する上で一番大きな関門はクラッチ操作の難しさであろう。この難しさゆえに、AT限定の教習にに変えてしまう人も少なからずいると聞く。そのような人たちに、一度でいいから、この車に乗ってもらいたいものだ。本当にこの車が教習車なら、誰でもマニュアルの免許を取れてしまうだろう。それぐらい扱いやすいのだ。よく、クラッチ操作について解説する際に、多くの方が「クラッチは女性と同じで、優しく扱うように」という説明をするが、もしその喩えに則るなら、ロードスターのクラッチは、大変不謹慎極まりないが、DVを受けても、浮気をされてもついてくる、異常なまでに打たれ強すぎる女性だろう。要は、どんなにぞんざいに、おざなりにクラッチをつなげてやっても綺麗につながるのだ。本当にクラッチ操作に対する恐怖というものが、一瞬にして払拭されてしまう。また、クラッチの個体別のクセというのもほとんどない。私が免許を取る際に、お世話になった教習車はトヨタのコンフォートだ。ただ、この車、教習車というくせに、クラッチの個体別のクセが半端じゃなかった。もちろん走行距離の違いによるものが大きいと思うが、それにしても酷かった。いくら自動車は工業製品といえど、できたモノによっては当然個体差が出てくる。しかし、私は走行距離の違う全く別のロードスターを二台運転してみたが、その扱いやすさは、どちらも同じレベルで、世界一であった。

是非、マニュアルを運転し始めたばかりで、クラッチ操作に恐怖感を持っている人、あるいは久々にマニュアル車を運転するペーパードライバーのひとには、この車を練習として使うことを強く推薦したい。


2”デザイン”

画像5

ロードスターの三代目までのデザインの雰囲気が好きな人からしたら、今作のロードスターのデザインは違和感を感じずにはいられないだろう。今までは、ゆるキャラ的なほんわかとした丸く、フレンドリーなデザインがロードスターの大きなデザインの方向性であったが、マツダというメーカー全体の車の方向が、魂動デザインに向いたことにより、今作のロードスターもその方向性の渦に巻き込まれた。結果は賛否を呼んだが、個人的にはこれはこれでかなりありだなとおもう。かっこいいというよりは、美しいという言葉の方がこに自動車には似合うだろう。とくにリアから見たときの、筋肉質なリアフェンダーからタイヤにかけた、地べたに対して踏ん張ったようなデザインは、このロードスターの一つのアイコニックなデザインの部分といっていいだろう。私は、ここが特にお気に入りだ。このデザインはRFモデルにも踏襲されており、それもそれで美しいと思う。

画像6

横顔もかなり美しい。エンジン、タイヤ、ドライバーをしかるべき位置において、その構成要素を無駄なく緩く包み込むようなデザインは何年経っても、本質的な美しさゆえに、色褪せないだろう。歴代で最も短い全長でありながら、その迫力ある美しさで堂々と見え、実際の大きさよりも大きく、長く見える。こんなにギリギリの長さに、ドライバーのポジションを圧迫しない程度に、極力真ん中に寄せたフロントミッドシップのエンジンに、スポーツカーのデザインの定石であるロングノーズショートデッキの要素まで組み込むことが出来たとは、本当に驚いた。

画像8

内装もいかにもドライバーの為だけの車、スポーツカーがあるべきレイアウトがなされており、かつ、色使いやマテリアルの使い方から感じられる美しさや上品さは、オーナーの気持ちを大いに満足させるだろう。シンプルで、あるべきところにあるべきスイッチやらが置いてあり、飽きが来ず、初めてでも慣れていても、いつでも思ったように操作ができる。

画像8

特に運転中に最もよく見る計器類であるが、スポーツカーらしくレブカウンターが大きくど真ん中、そして体のまさしく中心線上にあり、それに沿うように垂直指針でゼロの目盛りがある。それに倣うようにスピードメーターも垂直指針で、非常に分かりやすい。「静」と「動」を意識した為にこのレイアウトになっているらしいが、エンジンをつけたり消したりするときになるほどなと思った。見た目だけでなく、実用性もしっかり伴っており、その上に針の動きまでデザインしてしまうとは、マツダには本当に優秀なでざいなーがいるんだなと感心した。


3”不満”

ほとんど完璧な車ではあるが、やはりどうしても良くない点はいくつか感じられてしまった。

一つ目は足の味付けだ。これは不満というよりは、人それぞれの好みの問題であろうが…この車は、ガッツリとマジになって峠やサーキットを攻め込むような自動車ではないが、一応スポーツカーだ。そのスポーツカーにしてはロールがそこそこ大きめで、本当に若干ながらサスのストロークが大きく柔らかめな印象を受けた。荷重変化が嫌になるほどではないが、そこそこ偏ってきてしまう。しかしながら、そもそも、この自動車は、老若男女に乗ってもらう自動車であり、それを念頭に入れると全く問題ないし、ドライバーを育てる自動車でもあり、ドライバーにロールとはなんぞやを教えてくれる為なのかもしれないから、大きな問題ではないだろうが、一応、私の印象を書いておいた。

二つ目はインフォテインメントシステムだ。これは、マツダの全ラインアップに共通する不満ではあるが、これが使いにくいったらありゃしない。そもそもマツダだけでなく、日本車全般に言えることだが、日本には優秀でセンスのあるこのようなソフトウェアのデザイナーが一人もいない。優秀な人材は、みんな中国や韓国やアメリカに抜かれていってしまったのだろう。まず、良く使う目的地の設定という基本中の基本がやりにくいったらありゃしない。一つ一つのアイコンの意味が不明なのだ。というかそもそも、このUIをデザインした人はアイコンの意味を知っているのだろうか…それさえも疑いたくなるほど意味不明すぎるのだ。実際に触ってみて、これも違うあれも違うと、トライアンドエラーを繰り返して、目的地の設定だけで、平均して10分以上かかってしまった。それ以外の機能は試す気にもならないほど、馬鹿みたいなシステムだった。さすが巷でマツダコネクトを文字ってマツダゴミクトと言われるだけのことはあるなと思った。これだけいい車そのもののハードウェアを持っているのに非常にもったいない。これはマツダは今すぐにでも、金をかけて優秀なソフトウェアのデザイナーを呼びこむべきだ。

画像9

それから、ハンドルのスイッチの操作のしにくさもかなり気になった。これは新世代の商品群である、MAZDA3からはかなり改善されたので、おそらくこのあとのマイナーチェンジなどで改善されるかもしれないが、一応指摘しておく。私は運転中には必ずと言っていいほど音楽をかける。その際によくよく音量を調節するのだが、ハンドルの本量調節のボタンがあまりにも小さく押しにくく、押そうとすると、誤って音声コマンドのボタンを押してしまい、せっかく気持ちよく聞いていたのに、中断されることが多々あった。これは、かなり邪魔くさかった。

画像10

一番の不満はシートだ。腰のサポートが足りなすぎる。一応背もたれの部分は人間の背骨、脊椎に沿うように設計されたらしいが、どうも私の背骨がおかしいのか、この車を運転中の腰痛が半端じゃなかった。マツダが推奨するようなドライビングポジションの合わせ方通りに何度もセッティングし直しても、この腰痛は一向に改善しなかった。もうちょっとランバーサポートの部分を膨らまして、そこそこ反発力のある素材で支えるようなシートにして欲しいなと思う。


4”ドライビングプレジャー”

画像11

この言葉の意味を知りたければ、この車に乗るべきだろう。自動車を操作する無上の喜びを、体の芯から感じることができる、素晴らしいクルマだ。もう初代が誕生してから30年以上経つのだが、こんなに実用性もないような自動車が、とてつもなく多くの人に買われ、愛される理由は、実際に乗ってみてよくよく分かった。人馬一体という初代から続くコンセプトを歴代で最も色濃く継承し、高い次元で世に送り出してくれたマツダをこれからも強く応援してきたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?