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和田真央のインプットノート第一回『海が走るエンドロール5巻までの感想』

『あいさつと説明』
今回より始めさせていただきます。『田中 和真のインプットノート』こちらでは文章の練習も兼ねて、私が日々体験するエンタメ全般に対する感想や考察等々を発信していければと思います。第一回目はたらちねジョン先生による漫画『海が聞こえるエンドロール』の感想文です。


『本文』
まず中から低年齢をターゲット層とする漫画という媒体において、65歳の老女を主人公としたのが新鮮であった。彼女と自分の間には50年近い歳の谷間があるのだと思いながらも、作者の細かな感情表現によって、キャラクターとの乖離は少ない。しかし読み込んでいると、そうした技量に反するかのように中心となるキャラクター以外の描写はかなりシンプルに感じた。老女というキャラクターを扱う上でそれは正解なのかもしれない。彼女に対しては、若く体力溢れる65歳として描いてはいるが、それでも他のキャラクターとは流れる時間のスピードが違う。若者の顔はそれこそモブキャラに見えることだってあり得るだろう。脇役に尺を割かないというのはそれこそリアルだ。この流れる時間についてもう一つ言えば、物語の進む速度に注目をしたい。と言うのも、主人公のうみ子は65歳にして美術大学への入学を決意し、そこから物語は回り始める。しかし、他の青春物とは異なり、2巻中盤あたりで既に1年が経過しているのだ。読者としては話の展開が早く助かることだが、これが『老女の時間』を表現するための手法であると考えると作者の手腕に感嘆せざるを得ない。
このように実力派漫画家の名に相応しい技とセンスを見せる、たらちねジョン先生による本作であるが、私は当初懐疑的見方で購入を渋っていた節がある。理由として大きかったのは、売り出し文句の『設定がすごい』等の言葉に、まるで共感し得なかったからだ。確かに漫画というプラットフォームにおいては挑戦的であり新しさを感じる本作。しかし、エンタメ全般としては既視感のある設定であった。『マイ・インターン』『ライフ・オブ・ザ・パーティー』等の映画に代表される、アウトサイダーの職業体験的な物語。私は本作においてもそういった物の焼き増しに過ぎない。と早合点をしてしまったのだ。しかし、それは全くの不正解だった。この漫画を一巻だけでも読んだ方ならお分かりであろう。物語の中においては終始それらはメタ化されている。主人公の『うみ子』は終始、自分が年長者として達観や諦めを自虐的に口にしてしまう状況に対して自戒の念を終始抱いているのだ。
読者が作品の外から持ち込む先入観に対して、カウンター的にアンチテーゼを盛り込む。これにより私を含めて読者は一層、この漫画の深みへはまって抜け出せなくなる。
『海が聞こえるエンドロール』は秋田書店の『ミステリーボニータ』にて現在も連載中だ。今回私の拙い文章で興味を持っていた抱けたのならば、是非とも一度お手にとってみてほしい。


『あとがき』
今回は『和田真央のインプットノート』に最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。こちらのページは毎週火曜日の19時ごろ更新していこうと思います。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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