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卒業論文サマリー「日本プロ野球に関するメディア接触と世論形成」

 自分の所属した研究室では、2005年に提出した卒業論文のサマリーをずっとWebサイトに置いてくれていて、エゴサーチ(自分の名前を検索)をすると上位に出現していました。お世話になった教授が大学を移籍されたこと、エゴサで出なくなったことで掲載がなくなったのかと思いきや、URLを入れるとまだ出てくるので、変わらず載せていてくれているのですが、いつ消去されても文句は言えないので、こちらにカーボンコピーしておきます。

 私が専攻していたのは社会心理学で、大学4年生当時、どんな卒論を書こうか思案していました。当初は購買行動や投票行動で考えていましたが、先生やTA(ティーチングアシスタント)の先輩方が「好きなことを題材にしたらええやん」とおっしゃってくださり、このような内容にしたことを覚えています。題材としては稀有なものですが、検証した仮説は社会心理学としてはありふれたものだったので、他の論文で引用されたこともあるようです。

サマリー本文

 2004年は日本のプロ野球が発足してから70年という節目の年であったが,「球界再編」と呼ばれる激動の一年であった。「オリックスブルーウェーブと大阪近鉄バファローズの合併」に始まったこの問題は,11月2日の「東北楽天ゴールデンイーグルス新規参入」でひとまず結実した。このプロ野球における「新規参入問題」は,プロ野球ファンの垣根を越え,国民的な話題となった。

 本研究では,メディア接触におけるこれまでの研究から,「説得的コミュニケーション,あるいはマスメディアは自分よりも他者に影響する」とみなす傾向(認知レベルの第三者効果),およびそれにより予期される他者と自分との意見のズレに対処しようとして結果的に認知する側自身が説得される(行動レベルの第三者効果)という二段階からなる仮説である「第三者効果(third-person effect, Davison (1983))」,および「人々には意見風土を認知する準統計的能力がある」ことを前提とし,「自分の意見が優勢にあると認知した人はより声高に発言し,劣勢と認知した人は孤立を恐れて沈黙する。その結果として優勢意見を唱える人が増え,劣勢な意見はますます少数になる」という「沈黙の螺旋(spiral of silence, Noelle-Neumann(1984))」の2つを取り上げ,「新規参入問題」におけるメディア接触行動および世論形成過程が見られるかどうかを検証した。

 仮説1「『自分よりも,自分と同世代の他者のほうががメディアの影響を受ける』と答える人は,『自分と同世代の他者よりも,自分のほうがメディアの影響を受ける』と答える人より多い」は,メディア全体で総合しても支持され,新聞・テレビ・インターネットの媒体ごとに分類して検証しても支持され,今回のトピックにおいてアグリゲートなレベルで第三者効果が見られた。

 仮説2で第三者効果に寄与する要因を考え,4つの仮説を提示した。仮説2-1「プロ野球への関心・新規参入問題への関心が低い人ほど,第三者効果が見られる」は,全体では仮説を支持する方向にあったが支持されず,媒体別では新聞・テレビ・インターネット上の報道に分けたときに「新規参入問題への関心」が低いほど第三者効果が見られ,仮説はおおかた支持されたが,課題を残したと言える。仮説2-2「メディアへの信用が低い人ほど,第三者効果が見られる」は全体とインターネットでは支持されたが,新聞・テレビでは支持されず,完全に支持されたとは言えなかった。仮説2-3「メディア接触量が少ない人ほど,第三者効果が見られる」は全体・媒体ごとの全ての面で支持され,メディア接触頻度の多少が第三者効果に寄与すると言える。仮説2-4「年齢の高い人ほど,第三者効果を示す。しかし,インターネットにおいては年齢が高いほど第三者効果が見られるわけではない」は,インターネットにおいては仮説を支持する結果となったが,インターネット同様に他の媒体で見た時にも年齢の若い人ほど第三者効果が見られたため,仮説の前半部分「年齢の高い人ほど,第三者効果を示す」とは逆方向の結果が出た。

 最後に,「自分と自分の同世代の人で意見が異なると捉えている人は,意見を表明することにためらいを感じる」という沈黙の螺旋過程の有無について検証した仮説3は,全体としては仮説を支持する結果となったが,インターネットに細分化した時には仮説を支持したとは言えなかった。このため,本トピックでも従来通りの「沈黙の螺旋」過程は見ることはできたが,インターネットに特化すると「沈黙の螺旋」は見られなかった。このことから,今後のインターネット普及,メディアリテラシーの向上も見据え,インターネットにおける世論形成過程には注目の余地がある。

いかがでしたか

 思えば、第三者効果というものはどんなメディアトピックでもあらわれる現象なのではないかと思います。2020年であればコロナ禍もそうですし、芸能人の醜聞なども当てはまると思われます。最後に言及したインターネット関連では、論文提出後の15年間でSNS(ソーシャルネットワーキングサービス、ソーシャルメディア)がよく使われるようになり、ネットクチコミvs.マスメディアvs.オフラインのクチコミといった軸で検討できるかもしれないとも思いました。備忘に記したまでですが、卒論に悩んでいるような人にとって少しでも参考になれば幸いです。


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