芥川龍之介『秋』

今(2022年3月14日)は秋ではなく、春を通り越して初夏の陽気であったが、夜は涼しくなった。夜更けに読んでみてもいいかもしれない。

あらすじのみだとこの作品がハイライト、つまり妹の涙、それに対して残酷な喜びを覚える姉にむかって進行している感じで、それ以外の部分が閑却されかねない(閑却という言葉はこの作品で覚えた。)。

何を語っているかではなく、何を語っていないかに力点を置くべきだという「黙説法」という解釈手法を取ると、妹がなぜ泣いたか妹の暮らしぶりについて暗い部分があることをうかがわせる記述がないのが興味を惹く。同じ文士の芥川が、無闇に作家は自分の生活を公開しないという意識のあらわれか。

僕にとってもっとも印象深いシーンは妹が結婚する時に昼に食べた魚の生臭さがしつこく残るというシーン。このシーンをどう解釈するかは見解が分かれると思うが、僕はいくらオシャレな外国の文士について語っても同じ口で物を食らうのが人間存在というものだ、というものだと思う。

仕事ではないが、芥川龍之介をモデルに創作する上でこの作品を読み直して上記のような感想を覚えた。


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