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半疑問形への疑問

半疑問形とは、文末以外の箇所で語尾のイントネーションを上げて発音する話し方です。文字にすると(⤴?)というイメージ。

参考までに実例として以下の動画を載せておきます。開始1:10までに落合さんが4回も半疑問形を披露してくれます。

今回なぜ半疑問形を取り上げるかというと、初めてこの話し方を聞いた時の衝撃が今でも忘れられないからです。


それは今から20年ちょっと前、私が高校を卒業して東京に出てきたばかりの時のことでした。

東京で新しく出会った友人と話していたら、その子が「この前さ~、渋谷のスクランブル交差点(⤴?)、初めて行ってきたんだけどさ~」と言ってきたのが半疑問形との出会いです。

それまで私の周囲ではそんな話し方をする人はゼロでしたし、テレビなどでも聞いた記憶はありません。

そのため、初めて耳にしたこの時は「え、今きみが自分のエピソードを喋ってるターンだよね!? さっきのは質問なの? だとしたら何で話し続けてるの?」などと非常に戸惑った覚えがあります。

その友人とはよく話す仲でしたが、毎回同じような違和感を抱きながら会話をしていました。


その後しばらくは半疑問形の使い手に会うことはありませんでしたが、24歳の頃に勤めた会社にいた上司がほぼ文節ごとに(⤴?)を入れ込んでくるとんでもないレベルの達人で、ここから私の半疑問形に対する「どのような理由や心理でこんな話し方をするのか」という考察が始まりました。

もともと英語ではuptalkといって、同じように文の途中で語尾を上げる話し方は存在しますが、日本で広まり始めたのは1970年代くらいからのようです。

言語学のある研究者が日本における半疑問形の発祥と使用者の心理について調べた論文を読んだことがあるのですが、以下のようなことが書いてありました。

当時流行していたドラマ(か映画のどちらか)で、出演していた女優さんが半疑問形を使ったのが日本で広まるきっかけとなった。その斬新でちょっと自信なさげな話し方が若い女性にとっては可愛らしく感じられ、真似されるようになって次第に定着し、現代では女性に限らず幅広い層に使用されることになった。

半疑問形を使う側の心理や効果として
①断定を避け言い切らない形にすることで、発言の内容に自信がないことや相手に同意を求めていることを表現する。
②語調を変えることで相手の注意をひきつけたり、相手が自分の発言内容を理解できているかの確認を行う。
といったことが挙げられる。

今その資料が手元になく、私の記憶を頼りに書いているのですが、だいたいこんな内容でした。ネットで調べられる論文や記事でも同じようなことが書かれています。


ここで上記①の心理について考えてみると、発言内容に自信がない場合は「~かどうか分かりませんが」、「おそらく~だと思うのですが」などという断り文句を、相手に同意を求める場合は「~と思いませんか。」という問いかけを省略しているため、コミュニケーションの効率は上がっていると考えられます。

②については相手の注意を引き付けたり理解度の確認を行う場合の「私の話を聞いていますか?」、「ここまでの内容を理解できていますか?」という角が立ちそうな問いかけを省略できるため、コミュニケーションの効率化だけでなく、円滑化も期待できます。

ただしこの効果と期待はあくまで発話者側の立場から見たものであり、聞き手にとって同様であるとは限りません。

現に私はこの半疑問形がちょっと苦手です。
だからこんな考察記事を書いているのですが。


①にしても②にしても先に書いたように本来言うべき言葉を省略しているため、私には横着をして話されているような印象を受けます。

また、普通は読点(「、」のこと)が入らない不自然な箇所で会話が区切られるため、発話のリズムが奇妙に感じられることも理由として挙げられます。

ネットで「半疑問形」で検索すると、他にも理由は様々ながら、好ましく思っていない人が一定数いることが分かります。

ところで私としては、現代では言語学者が考えるほどこの半疑問形は上記のような心理からくるものではなく、単に話し方の癖として捉えられると思います。

私の周りで半疑問形を使う人に話し方を指摘すると、ほぼ「え、今そんな言い方してました?」という反応が返ってきます。無自覚なのです。

以前はそうでなかったのに、パートナーが半疑問形を使うので話し方の癖がうつった友人も何人かいます。別に以前と比べてその友人が自分の話に自信なさげになったというようなこともないので、やはり単なる癖でしょう。

私の教え子で半疑問形を使う子が推薦入試で面接を受けることになり、対策指導をしたこともありましたが、何度指摘しても半疑問形については直ることはありませんでした。

面接官に対して良くない印象を与える可能性を否定しきれないため、面接の時だけでも話し方を切り替えられるよう矯正したかったのですが、やはり長年の習慣のせいなのか、短期間での修正は無理でした。

その子の母親も常に半疑問形を使っていたので、そのまま癖としてうつったのでしょう。


ここからは私独自の考察ですが、癖ではなく、半疑問形を使う心理として他に考えられるとすれば、「次に話す内容をいったん整理するのでちょっと待ってください」というサインです。

記事の冒頭で挙げた動画でも、半疑問形を挟んだ後にすぐ発言が終わらず、長く話が続いています。このように、話すべき内容がたくさんあるけれども一息に話し続けるのが難しいため、半疑問形で一旦間を置いて、その間に頭の中を整理している印象を受けます。

まあその場合でもやはり不自然さはあるため、結局のところ違和感は拭えないのですが。

ちなみに私が半疑問形を使う人に対して指摘するのは、気心の知れた友人に対して冗談交じりに「さっき半疑問形で話してたけど、その話し方って不思議な感じがするんだよなあ」という場合か、先の面接指導の時のように必要に迫られてのケースのみです。

当然ながら、誰彼構わず「その話し方はおかしいです!」と噛みつくわけではありません。

ただ半疑問形をあまりに連発されて辟易したときに、ささやかな抵抗として私は相槌を打たないようにすることがあります。

相手からするとリアクションがあると思っているのに何も返ってこないので、一瞬変な間が生まれます(笑)


当然ながら普段はきちんと相槌を入れますし、嫌気が差して相槌を打たない時でも、「あなたの話はきちんと聞いていますよ」というサインとして相手の顔の方を見てうなづくなどの最低限のことはしています。

ただ、どうしても常に相槌を入れると私の感覚でいう相手の横着を認めてしまったような気がして癪なので、無言の抵抗をしているという感じです(笑)

めんどくさいヤツだなあと思われるでしょうが、幼少期から言葉に関しては色々と興味・関心が強く、変なこだわりが抜けないので自分でもめんどくさいと感じることがあります。


他にも似たような言葉に関するこだわりの話があるので、機会があればまた紹介させてもらえればと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。






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