見出し画像

テオ・ヤンセン - ストランド・ビーストに見る生命創造的アプローチ

山梨県立美術館で開催のテオ・ヤンセン展を見てきました。

画像1

https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/exhibition/2021/146.html

テオ・ヤンセン氏はオランダのアーティストです。

物理学の道からアーティストに転向した人で、ストランド・ビーストという砂浜の上で風を受けて自律動作する、人工生命体に擬えた巨大な構造物を多数作っている方です。近年はSDGsの関心の高まりを受けて、風を効率よく動力源とした機構が再度注目されています。

ストランド・ビーストはCMなどでも起用され、国内でも幾度も展覧会を開いているので、知っている人は多いと思います。自分は今までの展覧会が都合がつかず一度実物を見てみたかったので、山梨は隣県にしても結構遠いんですが、友人とドライブがてら行ってきました。

都心にある美術館と比べればそれほど広い場所ではないんですが、展示室をめいっぱい使ってかなり大型のストランド・ビーストが幾つも置かれてました。しかも柵なしで近寄れて撮影もオーケー。かなり見ごたえがあります。大型の数体は動作の実演も行っていて、室内でどうやって動かすのかと思ったら、エアコンの風で動かしていました…業務用とはいえエアコンの風で動くんですよ…このデカい構造物が…。

画像2

アニマリス・オムニア
展示中最大クラスのビースト

ストランド・ビーストは生命種に見立てられていて、系統や個体の特徴から固有の学名がそれぞれ付けられています。動作だけでなくライフサイクル(”死”まで定義されている)や進化の過程も生命に擬えられていて、製作年と機能の関連性を結びつけた系統樹まであります。

作られた時期やコンセプトによって様々な機能や機構があるんですが、歩行については”テオ・ヤンセン機構”と呼ばれている有名な雛形があります。

画像3

歩行脚の基本構造、テオ・ヤンセン機構の展示

なんとも生物的な動きをする独特な機構で、コンピュータ・シミュレーションで様々な組み合わせを試して発見した、13(ホーリーナンバーと呼ばれる)が基になる比率で構成されているそうです。回転運動とピストン運動の組み合わせで非常になめらかで美しい動きをするんですが、機能性を追求して結果的に美しくなったとのことです。機能美の極限ですね。

画像5

アニマリス・オムニアの足フェチ画像

実際に自分で動かせる小型の歩行型ビーストも展示していて、押しました。

挙動を観察したかったのでかなりゆっくり押していて、見た目より全然軽い力で動いてます。地面が平らでシートを敷いているので多少滑っていますが、床をしっかり押していて、手で押している軸部分がまったく上下にブレずに前に進んでいくのが凄い。

歩行以外にも機能があることにはかなり驚きました。風を圧縮空気にしてペットボトルに取り込み動力源にすることで(風を食べると表現される)、無風でも動けるようにしたり…

画像4

風の強い砂浜に生息しているので、水を検知して進行方向を反転する、強風を受けると杭を打ち込んで転倒を防止する、といったフェールセーフ機能を持った個体もあります。それを全部、部材と自然界の力学の組み合わせだけで実装していて、電気的な制御一切なしにですよ。これはビビる。見るまでは風で歩くだけの彫刻くらいに思ってました…。

しかもすべての構造がホムセンなどで誰でも買える、塩ビ管や結束バンドなどで作られています。基本的な構造は公開されているので、材料を揃えて自分でオリジナルのストランド・ビーストを作ることができます。氏はこれを種の拡散として意図的に公開しています。

しかし仕組みと材料があれば作れる物にはとても見えない。全体の設計図も構造計算もなく、氏は全て頭の中でやってるそうです。個別展示された部材と製造過程から完成体を見比べても、ほとんど魔法のように思えます…。

機能ごとの”細胞”を多数作り、完成形のイメージに向けてそれを繋ぎ合わせて、あとでバランスを取るという、ライブ感のある制作スタイルのようです。やはりこれは工業的なプロダクトではなく、生命を生み出す為のアートなんだなと思わされます。

今まで自分が見た生命創造的なアートだと、レオ・レオーニの「平行植物」のような完全なフィクションを緻密に多角的に積み上げるものか、やくしまるえつこの「わたしは人類」のような、一般に利用できない最先端分野の技術でリアルに生み出してしまうバイオアートが思い浮かびます。

ストランド・ビーストは、それらよりも距離感、技術面、質感などが身近に感じられながら、実在の強さのある作品群でした。高次元の”夏休みの工作”感がある。あと昨年都現美で見たオラファー・エリアソンもそうだったけど、環境保護啓発的な一面のあるアートは説教臭くないの、重要です(笑)どちらも共通して、まず”見て楽しい”があった。単純に動いてるのを見るとアガります⤴︎

画像6

アニマリス・ペルシピエーレ・プリムス
男の子ってこういうのが好きなんでしょ?

自分の音楽制作に立ち返ると、数学的なアプローチで自律的で有機的な経時変化の生成を模索してるんですが、やはり”ホーリーナンバー”は簡単に見つかるものではなく、泥臭く繰り返した演繹を積み上げてこそなんだなーと確認できました…。

ミュージアムショップに小型のストランド・ビーストのキットが売っていたので、買ってしまいました。積みストランド・ビースト…。

画像7

(ECのリンクを貼ろうと思ったら、今は展覧会でしか売ってないようです。その場で買っといてよかった!)


以下はマニア向け写真集です。iPhoneとデジ一が混在してるので、質感がまちまちなのはご了承ください。

画像8

画像9

画像10

画像11

画像12

画像14

画像14

画像15

画像16

画像17

画像18

…ついでにゆるキャン△聖地巡礼(*゚∀゚*)

画像19


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?