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妄想というあてを肴に

『ティロン♪』
PCから意識をはがしスマホに目を落とす。
「仕事おわた!!これより帰宅いたします(*´з`)」
つい口元がゆるむ。
「おーけー、じゃあ駅まで迎えにいくわー」
作業を切り上げ、いそいそとコートを羽織り、家を後にする。
駅へ向かう中、今日の夕飯をなににしようかとぼんやりと考えながら歩を進める。
ほどなくして到着。さして待つことなく改札を抜けた彼女がちょこちょことした足取りでこちらに向かってくる。
「お待たせっ!」
「おー、遅くまでお疲れ様」
彼女のコロコロとした笑顔。その表情の愛しさたるや。
公共の場でなければ抱きしめていたとこだ。
「じゃあ帰ろうか」
「ですな!」
彼女の歩幅に合わせ、ゆっくりとした足取りで歩きだす。

他愛もない会話をしながらスーパーへと向かう中、じわりじわりと休日前夜特有の幸福感が僕を心地よくなでる。
「今日の夕飯なににしよっか?」
「うーん」
彼女の問いに対して思案する素振りをみせる。本当はちょっと前から決めていた。
「鍋とかどう?」
「…良き良きです!」
彼女は、にぱーっとゆるみきった笑顔をこちらに向ける。どうやら僕の提案にご満悦のようだ。

「「ただいまー」」
手洗いうがいを済ませ、部屋着に着替える。僕が夕飯の準備をすすめ、彼女は洗濯ものを畳む。

出来上がった鍋は手間に対しての採算がとれないほどにおいしそうな見た目をしている。
「「いただきまーす」」
くつくつに煮えた食材たちがスープにほどよくからみ食欲をそそる。週末の解放感、鍋のおいしさに当てられたのか彼女は上機嫌だ。
「たまには飲んじゃおっかなぁ~」
「おっ!ご機嫌だねぇ。じゃあ俺も飲もうかな」
トテトテと冷蔵庫に向かい戻ってきた彼女の両手には缶ビール。
「それでは気を取り直しまして」
『カショッ』
小気味のよい音が楽しいひとときを確約してくれる。
僕はこの時間がたまらなく好きだ。

『#いい時間とお酒』これっきゃないだろ、穿った視点など一切なく、理想だけを挙げていいのであれば、これしかない。上記の内容は完全に妄想だ。僕は同棲をしていないし、この記事を書いているのは実家の4畳半の和室。暖房もかけず(暖房器具がない)、指先がキンッキンのなか、キーボードをガタガタと叩いている。

僕なんてもんが、酒と品よく関わることができるわけなどないのだ。二十代後半になってもどの程度飲んだら自分を律することが出来なくなるか、そのラインもまるっきりわかっていない。
酒を飲むタイミングも基本友人から突発的に誘われて、近所の焼鳥屋に行く程度。

酒はもっぱらホッピーをあおっている。ホッピーはうまい、ビールの代用品として世に出てきたものらしいが僕は断然ビールよりホッピーが好きだ。ふと思ったけど、外とかいう割もの。あれってなんだ??
まぁよい、僕がホッピーをかっているポイントは食べ物とのかみ合わせのよさだ、濃すぎない味わいでありながらビールのエッセンスを持っているので、わりと様々な料理と合う。それでいてそこまで腹にたまらない、小食寄りの僕としてはありがたい限りだ。
そしてこの店、飯もうまい、焼き鳥のラインナップはベーシックながらもきちんとおいしいと思わせてくれる味わいだ。イチオシはやたらと濃いにら玉。これは本当にうまい。前述したホッピーとの相性は最高だ。

そんな飲み屋で繰り広げられる会話なんてたかが知れている。しこたま紫煙をくゆらせまくり、もう何度目かわからない手あかべったべたの話題に手をつける。
やれ「モテてぇ」だの「お前はやばい」だの…

大した波もなく夜は更け、店じまい。
「おあいそお願いしまーす」
「あいよー、いやーお兄さんたち食べたね!」
お会計は二人で、¥18,880
きっちりと割り勘で会計を済ませ店を出る。夜風にあたりながら毎度必ず思うことがある。

「この金額だったらまぁまぁいい飯屋で食えんじゃねーか!!くそっ!!」

さみしくなった財布を懐にしまい家路につく。
そんな生活を、気づけば8年ほど続けている。

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