ババアの値段

・僕は昔から祖母が苦手だ、
何か決定的なエピソードがあり苦手意識を持つようになったわけではなく。
昔からじんわりと苦手なのだ。
・つい先日、会社の飲み会があり、夜の12時ぐらいに帰った時のこと。
・僕の実家は、2世帯住宅で、1階に祖父母、2階に僕、3階に両親と妹が住んでおり、一階ずつきちんと玄関扉があるという、ややトリッキーな造りをしている。
・つまり自分の部屋に行くためには祖父母の部屋の扉の前を必ず通ることになる。
・祖父母の部屋の扉は夏場になると扉の下側に棒を差し込んで半開きの状態で日々を過ごしている。23区の恥晒しと言われている地域に住んでるとはいえ、都内在住なのに不用心だよなぁと、通るたびに思う。
・普段通り扉は半開きになっており、自分の部屋に行くために何の気なしに階段を登ろうとした時、扉の先から「ああああぁぁぁ」という呻き声が聞こえたので、僕はギョッとした、声の主は祖母だとすぐに分かったので僕は状況を確かめるために中に入っていった。ちなみにこの時の心境は「ババアもいよいよか!」と若干ワクワクしていた。
・中に入ってすぐそこに祖母がいた、仰向けの状態で倒れており、周りには衣類が散乱していた。今際の際という感じではなかったので、安心とガッカリが混じった中途半端なテンション感だった気がする。
・事の顛末としては、夜中トイレへ行き、ベットに戻る際に手をかけた場所が衣類の山で、体重を支えきれず、流れるように倒れてしまったとのこと。
・僕の祖母は以前脳梗塞を患っており、それ以降、体を動かすのが極端に下手くそになってしまった。
・祖母の体を抱え上げ特に大した労力を使わずにベットに戻し、問題は解決した。
その時に祖母は隣の部屋にいる祖父を呼んでも全く起きやしないとか、ことの発端になった着るのかもわからない衣類の山を積み上げ、「あぁ、こういう所が苦手なんだよなぁ」としみじみ感じたものだ
・祖母は僕に対しては感謝の気持ちでいっぱいだったらしく、あんたは命の恩人だとまで言ってきた。今後気をつけるようにと言って、その日は自分の部屋に上がり眠りについた。
・翌日、母から祖母がお礼をしたいので、帰りは一階に寄るように、との連絡がきた。
仕事終わりに寄ってみると、祖父がボンヤリとテレビを観ていた。祖母は寝ていた。
祖父から昨日のお礼を言われ、仏壇に小遣い置いてあるから持っていきな、と言われたので従って仏壇へ向かった。そこにはポチ袋の代わりなのか、ティッシュペーパーに包まれた小遣いが置いてあり、この時点でかなりの奇妙さを覚えたがティッシュペーパーにマジックでヨレヨレの字で「昨日はありがとう〇〇は命の恩人だよ」の文字が書いてあった。
・なんだかなぁと思いつつティッシュペーパーの包を外してみるとその中には二つ折りにされた二千円が入っていた。
・くたびれた二千円を財布にしまいながら僕は「ババアの命の値段は二千円なんだ!」と非常に高揚した。
・千円だったらそんな事を考えなかったかもしれない。二千円という中途半端な額がやけに生々しく僕の目には映ったのだ。
・この話を友人たちにした際、そういう事じゃねぇだろ。と言われだが、誰に何を言われようともババアの命の値段は二千円なのだ。

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