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さらば愛しきミニシアター 岩波ホールよ

今日7月29日、岩波ホールが閉館する。
ご存じの方には言うまでもないが、ミニシアターの先駆けとなった映画館で、大手の映画会社があまり取り上げない、芸術性の高い世界中の良作を、50年以上にわたって世に送り出したところだった。
ここに通いだしたのはちょうど10年前、大学に入った年だった。高校2年の冬から本格的に映画の魅力に取り憑かれ、名画座を皮切りにお小遣いと時間をやりくりして通いだした私は、大学に入ってしばらくしてから、思い切って岩波ホールの会員になった。気品ある風格とどこか優しい雰囲気が漂うこの映画館で上映される作品は、国も取り上げるテーマも違えど、上映館とどこか似たような雰囲気を纏っていたように思えた。 

あれから10年、留学や就職などで見に行けなかった時期もあったけど、ここで大体の作品は見てきた。時に疲れてたりして、上映中に寝落ちする事もあったけど(そういう時はホントによく寝た…)、多くの作品から色々な事を感じ取り学んだ。『ハンナ・アーレント』、『少女は自転車に乗って』、『ワレサ』、『はじまりの街』、『家族の肖像』、『パプーシャ』、『オレンジと太陽』、『シリアにて』、『大地と白い雲』、『ブータン 山の教室』、『金の糸』、『メイド・イン・バングラデシュ』、『歩いて見た世界』などなど…静かな眼差しで、時に熱く、世のあらゆる格差や不条理、差別、暴力に立ち向かう作品たちに救われ、心洗われる思いもした。そんな場所が無くなってしまう事は、本当に寂しくつらい。自分の居場所のように感じていた映画館がまた一つ無くなるのは、どうにもたまらない。
でも、岩波ホールが長年蒔き続けた「映画」という種は、日本全国でミニシアターという実をつけた。その数は往年時から減りながらも、未だに映画ファンから愛され続けるところも多い。岩波ホールを始めた高野悦子さんや、彼女を応援した川喜田夫妻を始めとする映画人、経営・観客と関わらず岩波ホールに携わった方々の思いが、こうして日本に根付き、さらにはここ数年、新たに開業するミニシアターも出てきている。若輩ながら、一人の映画好きとして本当に嬉しい事だ。
だから「さよなら」なんて言わない、「本当に有り難う」、そして「またいつか会いましょう」。


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