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お互い命があればまた逢いましょう。

何故か大阪に来るとストリートスナップの騒ぎだし、深夜2時頃に心斎橋へ飛び出した。


そしてえびす橋で奇声をあげながら
空手の型を披露するおじさんに遭遇する。

相手を苦しめずに一撃で倒す拳らしい。
おじさんの人生遍歴

生活保護を受けながら西成で暮らすおじさん。

地面に敷かれた段ボールには
「仕事・恋愛・友人・人生相談受けます!」
とでかでかと書かれていた。

確かにこれだけの人生経験があれば、
どんなお悩みも立ち所に解決へ導くであろう。

ところが話してみると
聴いてもいないのに
「今の政治は〜。」や
「若い人には夢を持って欲しい!」など
時々おじさんも夢を語っていて
それに相槌をうつ人間となっていた。

すっかり話を聞かせてもらったし、
写真も撮らせてもらったので、
チップ代わりにポケットに入っていた
小銭をすべて渡した。

恐らく700円くらいはあったと思う。

「こんなにいいのか!?コーラ奢ってやる!!」

と徐に荷物をまとめ始めた。

そして異色なふたりは心斎橋の夜を歩く。

金額的にコンビニでコーラを買って飲むのかな〜と思っていたのだが、どうやら違うみたいだ。

「このままぼったくりバーに連れて行かれたらどうしようか…」と少し不安になる僕を知ってか知らずか、コーラを奢ってやると息巻くおじさんは慣れた足取りで突き進む。

そして一軒の外国人受けしそうな
バースタンドにたどり着いた。
おじさんは「馴染みの店だ。」と言うが、
明らかに店員の顔が引き攣っている。

絶妙に気まづい空気が漂ったが、
面白がって付いてきた責任があるので
最後まで見届けるしかないと腹を括るしかない。

そんな僕を横目におじさんは
涼しい場所でコーラを飲めた事に
機嫌を良くしたのか、幼い頃に祖父に教えてもらったという曲を熱唱しだした。

水原弘「黒い花びら」(1959年)を熱唱

「こういう生活になったのは自分の責任だから受け入れて生きていくしかない。」

「今の俺には大阪がいいけど、
こんな街で死にたくない。」

「これから生活保護を打ち切って
知り合いの職場で仕事をして、
沖縄に行くお金を貯める。」

「最後に死ぬなら沖縄がいい。」

「死ぬ為に働くのは苦じゃない。」

どこまで本気かは知らないけど、
死場所が決まっている事はすごい。
そして「もし最後に看取ってくれる人がいれば嬉しい。贅沢だな。」と。

「父親が躁鬱だった。俺は躁状態がずっと続いている。」と言っていた。本心はどうだろうか。
一気に鬱に落ちた時を考えると不安だ。

お会計になると意気揚々とポケットの中から
バーカウンターに小銭をばら撒き1枚1枚数え始めた。

「これはプール代…」
どうやらおじさんはプールに通っているらしい。
そのプールには子連れで紐水着を着用した人妻がいると言う。それをバレない様に眺めるのが日課らしい。

プール代150円引かれて残り600円弱。

「あ〜足りないな。どうしよう。」

どうしようってあんた。
最初から足りないってわかるだろ。

その焼けた肌を見れば、日頃炎天下に晒されながらの生活で冷房の効いた飲食店は極楽なのだろう。
閉店ギリギリまで帰りたがらないこのおじさんを見て、「死ぬ事は怖くないなんて嘘じゃないか。めちゃめちゃ生にしがみついてるじゃん!!」

そう思ったけど言わなかった。

「これから俺がどこに行くかわかるか?
西成の闇市で拾った物を売るんだ。」

「またお互い命があればまた逢いましょう。」
そう手を合わせておじさんは消えていった。


とても人情のある人だなと言う印象だったけど
話せば話すほどこちらが利用してるのか
利用されてるのかわからなくなる。

毎回「同情したら負けだな。」って思う。
しかし自業自得な部分もあるとは言えど、
「彼らも生きることに必死だ。」と
どうも捨てきれない。

僕がホームレスを撮るのには理由がある。

今は幸いにもフリーで写真のお仕事を頂けているが、いつまで続くかなんてわからない。

自分がホームレスになる事は全然あり得る話で
「そう遠くない未来なんじゃないか。」
っていつも心のどこかでは思ってる。

「今が一番楽しいし、幸せだ。」と笑う人もいれば、世の中に恨み辛みを剥き出しにして怒号を浴びせてる人もいる。

僕がもしホームレスになったらどう生きているだろうか。

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