数年ぶりに雪を見て、教習所でタイヤにチェーンを取り付けたことを思い出した

初雪が降った。

雪が降ることが滅多にない地域なので、年甲斐もなく気分が高揚してしまった。近年は、降っても朝方に少し、とかその程度だったので、こうして降っている雪をちゃんと見るのは、実に数年ぶりだった。他の人も同じだった。みんな自然と仕事の手を止め、窓辺にわらわらと集まる。「雪だ」「本物だ」「すごい」「羽みたい」と、口々に感想を言う。白い雪が、ゆっくりと、ふわふわと舞い落ちるさまは、とても優雅で幻想的だった。思わず「この雪のかけらになって、溶けていきたいです」と口にしたが、まったく共感を得られなかった。悲しい。だが、いつまでも眺めているわけにはいかない。全員が後ろ髪を引かれながらも、そそくさと席に戻る。室内は仕事モードに切り替わるが、離席するたびに窓の外の様子が視界に入り、そわそわする。そんな1日だった。本当に、いつまででも見ていたいと思えるほど、素敵な光景だった。しかし、時にはみぞれになったり雨になったりを繰り返し、積もることもなければ、地面が見渡すかぎり白くなることもない。私はさみしくもあり、嬉しくもあった。「雪だるまを作りたいので、積もるほどたくさん降ってほしい」と願う私と、「車の運転が怖いので、なるべく降らないでほしい。あと寒い」と思う私が、同時に存在していた。そんな私の気持ちに構うことなく、帰宅する時にはアスファルトに冷たい雨が打ち付けていた。

ところで、「車の運転が怖い」と述べた通り、自動車で雪道などを走行する際は、スリップに充分に注意しなければならない。雪は綺麗で幻想的ですらあるが、大人になった今、手放しで喜ぶことができないのである。
スリップの対策として、タイヤをどうにかする、という手段がある。スタッドレスタイヤやスノータイヤといういわゆる「冬用タイヤ」に付け替えるか、タイヤにチェーンを巻き付けるか。私は調べるまで知らなかったのだが、スノータイヤのwikipediaを参照すると、「今日ではスタッドレスタイヤがスノータイヤとほぼ同義として取り扱われているが、スタッドレスタイヤはスノータイヤを含むものの、工業規格として明確に区別されている」らしい。気になる。百聞は一見に如かずと言うし、今度、自動車用品店に足を運んで実物を確認してこようと思う。

さて、今日気になったのは「チェーン」の方である。私は教習所で、タイヤにチェーンを取り付ける方法を教わり、確か、数人のグループになって実際に取り付けた記憶がある。ただ、教わりながら、操り人形さながらに見よう見まねで手を動かしていただけなので、詳細な手順はびっくりするくらい記憶に残っていない。やったという事実が、胸の中にあるだけだ。ただ、あのいかにも重たそうな車体が持ち上がった瞬間の衝撃は、結構新鮮に覚えている。あれはジャッキアップというらしい。とても大変そうだったので、「どうせ雪道を走ることはないし、もし必要になることがあればお店の人にやってもらえばいいかな」というナメた感想を抱いたことも覚えている。しかし、この記事を書くにあたり「タイヤ チェーン 取り付け」と検索窓に入力すると、サジェストに「簡単」と表示される。そうだよねみんな簡単に取り付けたいよねと、うんうん頷きながら、興味本位でそのワードで検索する。すると、どうやら車体は持ち上げなくてもチェーンの装着は可能らしい。あの感動は、別に必須の工程ではなかった。私はとても驚いて、漫画だったらきっとひっくり返っていて、危うく脳震盪を起こすところだった。漫画じゃなくて良かった。さて、そんなに簡単ならば付けてみたい、とも思う。この地域で雪が降り積もることがあれば、試してみたい。

友人にそんな話をして判明したのだが、教習所でタイヤにチェーンを取り付ける方法を教わるかは、どうやら地域によるらしい。ただ、同じ県内でもやったりやらなかったりするようで、もしかしたら教習所によって違うのかもしれない。あれ、必須のカリキュラムじゃなかったんだ。というか、教習所って学校のような学習指導要領に基づいて講習しているのだろうか。何かしらの基準はあるのだろう。いや、最低限の基準のようなものはなければ困る。チェーンについては地域差で、そのあたりは運用で泳げる範囲ということなのだろうか。雪が降らない地域でも、雪が降る地域に行くことはあるし、全国どこでも教えて良さそうな気もするけれど・・・?さて、話がやや逸れてしまったので戻す。
でもあれ、教わったからと言っても、突然「じゃあ今からやって」と言われたら、できない。たぶん、よほど必要に迫られている地域の人でなければ、できない人が多いのではないだろうか。もしかしたら、器具を見たら直感で取り付けられるものなのかもしれないが、何もない状況でやれと言われても手順を想像することが難しい。ただなんとなく巻き付ければいいのかなとも思うが、そんなナメた装着方法で万が一を想像すると怖すぎる。勘でやっては絶対にいけない。
そんなわけで、教わったからすぐできるという種類の行為でもないだろうが、いつか雪道を走る必要がある時に「そう言えば、タイヤにチェーンを取り付けるという方法があったなぁ」と思い出すことができる。詳しい手順は覚えられなくても、そう考えれば、とても意義のある講習だったと思う。

そんなわけで、雪が積もるほど降ってほしいような、やっぱり降ってほしくないような、そんな複雑な気持ちを抱えながら、明日も生きていく。